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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第六章 変わりゆく二人
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友だち

「ん……」

 休息をとっていたリディアは目を覚まし、ベッドの中で伸びを一つ。

 隣のベッドにはいつの間にやらコーネリアが眠っていた。

 旅の疲れのせいで熟睡してしまい、彼女がどこへ行き、いつ戻ってきたのかすらわからない。


 明るかった部屋には、すでに西日が差し込んでいる。

 どうやらかなりの時間眠ってしまったようだ。



「ゆっくり休めた?」

 水を飲もうと起き上がると、コーネリアのむにゃむにゃした声が聞こえてくる。


「ごめんなさい、起こしちゃいました?」


「ううん、ちょうど少し前に起きたとこだから平気」


 起き上がって大きなあくびをしたコーネリアの髪は、めずらしくひどい寝ぐせで膨らんでいる。

 美人なイメージとのギャップが可愛く思えて口角を上げていくと、コーネリアもなぜか笑いをこらえるような顔をしていた。



「ひどい寝ぐせ」

 コーネリアの言葉に、心の中を読まれたのかと思ったリディアはギクリと身体を強張らせた。

 だが、コーネリアは不愉快そうな表情をすることもなく引き出しをあさりだし、手鏡を手渡してきて。

 そこに映る姿にリディアは目を丸くし、口をあんぐりと開けてしまった。


 前髪が天を突くかのごとく、反り返っていたのだ。



「わわわっ、見ないで! 恥ずかしいです」

「一体どんなふうに寝たらそうなるの! おっかしー!」


 リディアが慌てて前髪を押さえると、コーネリアはおかしくてたまらないとばかりに噴き出して笑い転げた。

 あまりに面白そうに笑われるものだから、リディアも口を曲げていき、拗ねた様子で受け取った手鏡を裏返す。


「でもね、コーネリアさんもなんですよ」


 鏡を見せつけられたコーネリアの表情は途端にきょとんとしたものになり、次第に眉間に深いしわが刻まれていった。


「うわっ何これ! 最悪なんだけど!!」

 コーネリアは手鏡を奪い取ってきて、異様に膨らんだ髪を上下左右から眺め、必死に手櫛で整えだした。

 


「おそろい、ですね」

 同じように前髪を直しながら、くすくすとリディアは笑う。

 思えば同性とこんなふうに、気安く何気ない会話をしたことはなかったかもしれない。

 友だちというものは、ひょっとしたらこんな関係なのかな、とリディアは微笑む。


「そうね、たまにはこういうのも悪くないかも。たまには、だけどね」

 不愉快そうな顔をしていたコーネリアも、リディアの言葉に表情をゆるませ、微笑み返してくれたのだった。


――・――・――・――・――・――・――


「コーネリアさん、さっき言ってた作戦会議ってなんのことですか?」

 寝癖を直しながらリディアが尋ねる。


「あーそれね、今日のお祭りに関係することなの。とっておきの言葉を教えてあげようと思って」


「言葉、ですか?」


「そう。女将さんに、祭で使う言葉を一つだけ教えてもらったのよ。感謝の想いを古い言葉で伝えると、相手に幸せが訪れるっていう伝説があるみたいで。そういうのって素敵だと思わない?」


 コーネリアから、聞き馴染みのない言葉を教えてもらったリディアは頭のなかで反芻する。

 いつも世話になっているぶん、この機会にしっかりと感謝を伝えたい。

 過酷な運命に翻弄される彼に、少しでも幸せが訪れればと、そう思ったのだ。



「それと、もうひとつの作戦は、あれね」

 コーネリアが指差す先には、細かい花柄とフリルが上品なライムグリーンのドレスが掛けられている。


 普段目にすることのない華やかな服装にリディアの心は浮き立ち、ぱっと表情を明るくさせた。


「わぁ、可愛い! コーネリアさんが着るんですか?」


「違う違う。私はあっちの赤いの。そんで、あの青いのがファルシードのね」

 視線を移すと、花のコサージュがついた深紅のドレスと、襟やベルトに細かい刺繍が施された、どこか異国を思わせる群青色の衣装があった。



「二つとも、すごく綺麗で素敵! お祭りって、ドレスアップしなきゃいけないんですか?」


「そうね、年に一度の大イベントだし、こうやって貸衣裳を借りる人も多いみたい。まぁ、参加者も一般人だし、格式高い舞踏会でもないから、動きやすい膝下丈のドレスを着るんですって。素材もシルクじゃなくて、綿だしね」


「なるほど、そうなんですね」

 リディアはコーネリアの話を聞きながら、花柄の衣装をじいっと見つめている。

 シルクではなくとも、さらには丈が短くとも、絵本の挿し絵にあったお姫様のドレスのようで、キラキラと輝いて見える。



「ふふっ、早く着てみたいんでしょ? じーっと見つめちゃって。子どもみたいな顔になってる」


「そ、そんなわけ…………っ、あるかも、です」


「素直で結構。はい、どうぞ」

 照れてうつむくリディアにコーネリアは満足そうな表情を浮かべ、壁にかかっていたドレスをとって手渡してきた。


「素敵な服……でも、私に似合うかなぁ。イモ女って言われたくらいなのに」


 “イモ女を食う趣味はない”

 リディアがフライハイトの船に乗ったばかりの頃、ファルシードに言われた言葉だ。

 あの頃はイモ女だとかダサイだとかけなされても、さほどショックは受けなかったはずだ。


 なのになぜだかいまは、それを考えると胸が痛い。

 さらにはドレスを着た姿でまたそれを言われたら、と考えたリディアは顔を強張らせ、受け取ったドレスを握りしめてうつむいた。


「イモ!? あのスカした男はまた、そんなことを……許せない! 今日こそは絶対にギャフンと言わせてやりましょ!!」


 コーネリアは鼻息荒く立ち上がり、リディアを勇気づけるかのごとく強く肩を叩いてきたのだった。

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