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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第六章 変わりゆく二人
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リディアとコーネリア

 宿は村外れにあるらしく、ノクスを森に放した後、三人は馬をひきながら賑やかな通りを進む。


「秋祭りの日に来れるなんてラッキーね」

 コーネリアの言葉に、リディアとファルシードはこくりとうなずいた。


「夜にお祭りなんて、すごく楽しそうですよね」

「ヨソ者も多いようだし、いい隠れみのになるな」


「そうよ、だから隠れ蓑にするためにも早く魔力切れ治さないとね。雇われ護衛の設定ならリディアの側にいなきゃだし、祭の夜に閉じ籠るとか不審極まりないから!」


 コーネリアは畳み掛けるように言葉を放ち、反論の隙を与えない。

 一方のファルシードは疲れもあるのか、生返事でうなずいていた。


 彼の身体は心配だが、それでも祭を共に楽しめそうなことにリディアの心は躍り、口角が上がっていくのを抑えられない。


 そんなリディアに視線を送ってきたコーネリアは、なぜかにこにこと微笑みながらウィンクをしてきて。

 リディアはいけないことをしてしまった子どものように、小さく縮こまった。


――・――・――・――・――・――


 ようやく一行は村外れの宿にたどり着き、女二人と男一人は別々の部屋に入り、祭の時間まで自由行動することとなった。


「リディア、お疲れさま。私は旅の汚れを落としたら、ちょっと村を散策してくるわ」

 どっかと荷物を置いたコーネリアは、大きく伸びをしながら言う。 


「行ってらっしゃい。私は疲れちゃったので休みますね」

 リディアは窓際に置かれた椅子に腰掛け、机に吸い込まれていくように突っ伏した。


「あ、そうそう。祭直前の日が沈む頃、絶対この部屋にいてよね」


「もちろんです、一緒にお祭行きましょ」

 顔を上げたリディアは穏やかに微笑んだ。

 どんな祭なのか見当もつかず、わくわくと心も躍る。

 だが、コーネリアはそんなリディアを見て、眉根にしわを寄せてきた。


「一緒? 冗談よしてよ。もうあなたたち二人のオジャマ虫になるのはゴメンだわ。今日はね、ヘタレなアイツが放っておけなくなるくらい、あなたを可愛くするの。それに、作戦会議もしなきゃね」


「ヘタレにオジャマ虫に作戦? どういうことです?」

 コーネリアの言いたいことが全くわからない、とリディアは首をかしげて考え込む。


 そんなリディアにコーネリアは、うんざりだとでも言うように深いため息をついてきた。


「だって、もう見てらんない。夜中に二人で顔近づけてるわ、昨日だって手は繋ぐわ、休憩場所探して戻ってきたら抱き合ってるわで、それで付き合ってないとか何なの? 好き合ってるなら好き合ってるで、とっととくっついともらわないと、私が困るの!」


「え、ええと、あの、それ全部事故で……」


「ただの事故でそんなに顔赤くして、うろたえるのがどこにいんの!」

 おろおろとするリディアの鼻先に、コーネリアはあきれ顔で人差し指を突きつけてくる。

 一方のリディアは慌てた様子で、自身の頬の熱を確かめるように両手をあてた。



「そんな赤い、ですか……?」

 恐る恐るコーネリアを見ると、彼女はこくりとうなずいてくる。


「かなりね」

 その言葉にまたリディアは動揺し、顔どころか耳まで赤く染まり上がった。



 恥ずかしさから縮こまってしまったリディアを横目に、コーネリアはピッチャーの水をコップ二つ分注いでいく。

 彼女はそれを机に置き、リディアの向かいに腰かけて困ったように微笑みかけてきた。


「ほら、これ飲んで落ち着きなさいな。まぁ、変な宿命背負わされて、恋愛に臆病になるのはわかるよ。私も昔そうだったから」


「コーネリアさん、付き合っている人いるんですか?」

 リディアは嬉しそうに身を乗り出して、尋ねる。

 巫女として扱われてきたリディアは、誰かと恋の話などしたことはなく、恋や愛は本の中だけの世界。

 沸き上がる興味を抑えきれなかったのだ。  


 そんなリディアの勢いに目を丸くしたコーネリアは、面白そうにくすくすと笑った。


「期待に添えなくて悪いけど、ただの片想い。恋と気づいたときには遅すぎて、好きな人は後輩に告白されて、そのまま仲良くゴールイン。それからずっとひきずって荒れて。ようやく去年抜け出せたとこ」


 片想いや恋が実らなかった時の苦しみは、恋愛経験のないリディアにはわからない。 

 だがそれでも、その悲しみは察するに余りあった。


「コーネリアさん、美人で優しくて頭も良くて強いのに、どうしてなんだろう……。ごめんなさい、嫌な記憶を思い出させちゃって……」

 しょんぼりとうつむくリディアに、コーネリアはからからと笑う。


「そんなあからさまに落ち込まないでってば! それに、褒められ過ぎてくすぐったいわ」


「私が男の人なら、コーネリアさんみたいな人を選ぶのに……」

 なぜ、他の女性を好きになったのだろう、と、リディアは一人ごちた。


「あはは! それは、あなたが男ならの話でしょ? 腕っぷしや気が強い女はね、結構敬遠されるわよ。好きと言ってくれたロベルトも、あれは尊敬をこじらせていただけだしね」

 コーネリアは声をあげて笑う。


 だが、リディアは『こうなりたい』と願う憧れの女性よりも他の女性を選んだ男性の心理が、さっぱりわからなかった。


「恋愛って難しいですね……」


「そうね、難しい……って、私のことはいいの! リディア、あなたはちゃんと自分の感情と向き合ったほうがいいわ。自分の心の奥底の本音とね。あとで後悔したくはないでしょ?」


「はい、ご心配ありがとうございます。気にかけてもらえて、すごく嬉しかったです」


「お節介かなとも思ったけど、なんかあなたのこと放っておけなくって。それじゃまたあとで」

 コップの水を飲み干したコーネリアは、ひらひらと手を振って部屋を出ていく。


 リディアは、もしも自分に姉がいたらこんな感じなのかな、とくすぐったい気持ちになって、ふわりと微笑んだのだった。

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