表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第六章 変わりゆく二人
115/132

本音

 辺りに枯れ木がなくなってからも一行は森を駆け抜け、やがてリディアは風の盾を消失させた。


 ガスの臭いは未だあるがあまり強くはなく、無事に山を越えられたようだ。



「リディア、お疲れさま! どうなることかと思ったわ」

 笑みを浮かべたコーネリアが、馬から降りて駆け寄ってくる。


「私一人じゃ無理だったと思いま……って、ファル!!」

 繋がれていた手がすり抜け、背後から聞こえてきたどさりという鈍い音に、リディアは叫ぶようにファルシードの名を呼んだ。

 彼は気を失い、崩れるように倒れてしまったのだ。


――・――・――・――・――・――・――


 ぐったりとしたファルシードに意識はなく、青白い顔のまま。

 コーネリアは二人を交互に見て事の顛末てんまつを察したようで、「たぶん、ただの魔力切れよ」と、長く休めそうな場所を探しに出ていってしまった。



「私の、せいだ……」

 自身の膝を枕にさせて寝転がらせたファルシードを見つめながら、険しい表情でリディアは呟く。


 こんなにも長く盾を持続させられたことはなく、さらには疲れが残っているとはいえ、昨日とは比べ物にならないくらいに楽だ。

 恐らく、リディアは彼の魔力を借りて盾を作り、最終的に根こそぎ奪い取ってしまったのだろう。


「また助けられてる」

 今度こそ役に立てると意気込んでいた結果が、これだ。

 情けなさから唇を噛み締めていくと、眠るファルシードが突然顔をしかめて(うな)りだした。


 この苦しみ方にリディアは覚えがあった。

 裁きの証がまた、彼に悪夢を見せているのだ。


 夢にうなされる彼が呼ぶのは、決まって両親か恩人であるレオンの名前。

 証はいつも、彼の辛い過去を夢として映し出しているのだろう。


「ねぇファル、早く起きて!」

 リディアは急ぎ彼の身体を揺すって、目を覚まさせようと試みる。

 二人旅の最中に悪夢に襲われる姿を幾度か目撃したリディアは、一度覚醒させることが最良の手と知ったからだ。



「やめろ、レオン! 行くな!」

 突然、声をあげたファルシードは目を見開いて飛び起き、慌てたように振り返ってくる。

 そして、リディアを見つけた途端、青白く憔悴しょうすいした顔が安堵したようなものへと変わった。


「今日もまた、悪夢を見たの……?」

 リディアが心配そうに問いかけると、ファルシードは両手を伸ばしてきて、ぐんと身体を引き寄せてきた。


 強く抱きしめ、肩に顔を埋めてくる彼に、リディアの動揺はとどまるところを知らない。


 伝わってくる体温も、苦しいくらいの圧迫感も、首元をくすぐってくる髪も、全てがリディアの心を掻き乱してきて、冷静なままでなどいられない。


「頼むから、お前だけはずっと……」

 懇願するような声を聞きながら、リディアが両手を彼の背中に回そうとした瞬間、遠くからひづめの音が聞こえてくる。


 ファルシードは離れていき、ぼんやりしている頭をはっきりさせようとしているのか、自身の頭をがしがしと強く掻いた。


「悪い、寝ぼけていたみたいだ」


「ううん、気にしないで! 私もたまにベッドから落ちたりするし、よくあることだよきっと!」

 何でもないふりをするリディアだが、頭の中の混乱はおさまる気配すらない。



 気にするなと言っておきながら、全く気にされないのも寂しいという矛盾した想いも、自ら彼の背中に手を回そうとしたことも、リディアにはわけがわからない。


 いや、正確には無自覚のうちに心に蓋をし、わからない()()を続けていた。

 いつからか芽生えたこの感情に名前をつけてしまった途端、何かが大きく壊れてしまう。

 リディアには、そんな気がしていたのだ。


 

 甘く優しく、それでいてどこか苦く重い感情を抱えたリディアが小さくため息を吐くと同時に、馬を連れたコーネリアが戻ってきた。


「ファルシード、あなた起きて大丈夫なの? って、顔色まだ悪いわね。休めそうなとこ見つけたけど、行けそうかしら」


 コーネリアの提案にファルシードは首を横に振り、ノクスがいるほうへと向かった。


「すまない、少し寝たら大分落ち着いた。このまま進もう。町までの時間をかけたぶんだけ、リスクが高くなる」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ