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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第六章 変わりゆく二人
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山越え

 朝を迎え、今日はいよいよ山越え決行の日だ。

 三人と二匹は森を行き、いまも狼煙のろしのように噴煙を上げ続けるウルカヌス火山に向かって歩んでいく。


 結界から遠く離れているせいか、巨大な蜂や人食い花など様々なモンスターに遭遇したが、全てファルシードとノクスだけで倒すことができていた。



「さっきから少し変な臭いがしますね。なんだろう、痛んだ卵みたいな……」

 不快な臭いにリディアは思わずブラウスの袖口で鼻を覆い、ファルシードが深刻そうな表情で噴煙を見る。


「恐らく火山ガスだろう、低濃度でも臭うと聞く。まだ盾なしで進めるかもしれないが……」


「そうやって高をくくってたら、いつの間にか危険地帯に入ってて全員気絶。なんてことにもなりかねないわよね」

 苦笑いをするコーネリアに、ファルシードは同意を示してうなずく。


 リディアの盾は未だ完成には至っておらず、持続時間に不安が残されている状態だ。

 できる限り魔法を使わず、ぎりぎりのところまで行きたいところだが、色がないぶんガスというものは厄介なのだ。



 徐々に臭いもきつくなってきており、リディアは二人から険しい視線を向けられていた。


「……そろそろですね。やります」

 リディアは声を震わせながら、左胸に手をあてて巨大な風のドームを作り出した。



 そこからは時間との勝負だ。

 リディアとファルシードはノクスに、コーネリアはモネに乗り、二匹は風のように駆け出した。


 噴火の影響によるものか、鬱蒼としている森にも次第に枯れ木が目立ち始め、やがて黒の世界が現れた。


 所々赤く光るどす黒い溶岩が生き物のように流れ、あちらこちらで煙と炎を上げながらうごめいている。



「溶岩、まだ流れてるのね」

 コーネリアが馬上から地面に向かって手をかざすと、溶岩の川から赤い光と煙が消えていく。

 溶岩の熱を吸収できたのだろう。


 二匹は恐れる様子を見せることなく、一直線に進んでいく。

 無事に溶岩の川を脱出した途端、ノクスに乗るリディアの身体がぐらぐらと大きく傾きはじめた。


「どうした」

 後ろに乗るファルシードに問われ、リディアは泣き出しそうな声で呟く。


「もうちょっと、あと少しだけなのに……」

 リディアの目は霞み出し、視界が白みがかってきている。

 魔力切れを起こして気を失ってしまうのも、時間の問題だ。


 辺りにはまだ枯れ木が多く、ここら一帯に火山ガスが蔓延まんえんしているであろうことは、リディアにも容易に感じ取れた。


「リディア、右手貸せ」


「みぎて……?」

 何を言っているのだろうとぼんやりした頭で考えようとするが、今のリディアは盾を作ることと自分の身体を支えることだけで精一杯の状況だ。

 右手を離してしまえばノクスから落下する危険性もあるのに、それでもファルシードは「早くしろ」と急かしてくる。


 リディアが掴んでいたノクスの羽毛を恐る恐る離すと、ファルシードがその手を引き寄せて包むように握りしめてくる。


 そんなガラでもないのに勇気づけてくれているのだろうか。

 ぼんやりと考えながら嬉しく思うリディアだったが、不思議なことにあれほど霞んでいた視界が、次第に晴れてくっきりとしてきていた。


「ファル、もしかして……」


「いいから集中しろ」

 後ろを向こうとするとたしなめられ、リディアは前を見据える。


 これなら無事に火山ガスの区域を抜け出せそうだ。

 そう安堵する一方で繋がれた手と背中から伝わってくる体温に、リディアは動揺が止まらなくなってしまっていた。

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