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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第六章 変わりゆく二人
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静かな夜

「……もう日が暮れるわね、そろそろやめにしましょ」

 辺りを見渡し、コーネリアが呟く。

 幾度も魔法の練習をしているうち、いつの間にやら森は夕焼け色に染まりあがっていた。


「少し、あとちょっとだけやりま、しょ。だって、まだコントロールが……」

 ぜぃぜぃと荒く息をしながらリディアは言うが、足がもつれてその場で崩れ落ちそうになる。


「限界だ。やめておけ」

 ファルシードに身体を支えられたリディアは、なおも練習を続けようとしていたが、ゆっくりと地面に下ろされた。


「やめたくないよ、このままじゃ皆を守れないかもしれない。無力なままで、迷惑かけてばっかりはもう嫌なの!」


 リディアは悔しさと情けなさのあまり奥歯を噛み締め、大地に爪を立てていく。

 ファルシードとコーネリアは、かける言葉が見つからないのか無言のままだ。



 練習のかいあって、ドーム型の盾を作り出すことは可能になった。

 ただ、リディアの場合、それがあまりにも広範囲すぎるのが難点で……このままでは途中で魔力切れを起こす可能性が高いことを、三人はわかっていたのだ。



「……形にはなっているし、もう十分だろう。いまは体力を温存するべきだ」


「そうよ。小さすぎて入れないよりはよっぽどいい。明日のためにそろそろ休みましょ」

 ファルシードとコーネリアに説得されて、張りつめていた緊張が和らいだのか、リディアはそのまま気を失うように倒れて眠ってしまった。



「ん……」

 目をこすり、身体をよじって起き上がる。

 いつの間にか薪には火が灯されており、ファルシードが番をしていた。


 辺りは真っ暗で、空には星が輝いている。

 身体にマントが掛けられ、隣にコーネリアとノクスが眠っていることにも気がつかなかったところからすると、相当な時間眠っていたようだ。


「ごめん、寝ちゃってたみたいだね。私とノクスの見張りまで、あとどのくらい?」

 リディアはファルシードの元に行き、小声で問いかける。


「今日はメシ食ったら休んどけ。疲れただろう」

 ファルシードは食料の入った袋を差し出してきて、リディアはその中からパンを取り出した。


「また休むって、そういうわけには……」

 いかない、と続けようとしたリディアだったが、不機嫌そうな目で見てくるファルシードに、言葉を飲み込み「そうさせてもらいます」と、うなずき彼の左隣に腰かけた。



「リディア。お前は盗賊団ウチに来てから、よくやってる。俺も団員たちも、迷惑をかけられていると思ったことはない」

 ファルシードが、薪をくべながら淡々と言う。

 ぼんやりと炎に照らされる横顔を見つめたリディアは驚いた様子で目をしばたたかせた。



「……おい、どうした」


「ええとね、びっくりしたの。だって、ファルってばいつも怒ってばっかりで、褒めたりなんかしないから」

 リディアが照れくさそうに笑うと、ファルシードも微かに口角を緩める。


「お前がいつも叱られるようなことばかりしてきたからだろうが」


「えぇっ、そうかなぁ? うーん……言われてみれば、そうだったかもしれない……」

 リディアは思わず苦笑いを浮かべる。

 自立していて、立派な女性だったとはお世辞にも言えない。


「そうだったかも、じゃなくて“そうだった”だろうが。甘ったれで騙されやすく、視野も狭くておまけに頑固。その上、センスも悪くてお節介」

 ファルシードは、ぱちぱちと小さく爆ぜる焚き火を見つめながら独り言のように言ってくる。


 さすがに言い過ぎだと、口を曲げたリディアが詰め寄ろうとすると、ファルシードが呟くように言葉を重ねた。


「世話の焼ける“ただの部下”。それだけのつもりだったんだがな……」



「え……?」


 ふと、リディアとファルシードの視線が交わる。

 リディアが詰め寄ろうとしたせいで、二人の距離は近い。


 揺らめく炎のせいだろうか。

 まっすぐにリディアを見つめてくる紫の瞳の奥に、どこか熱を感じた。



 途端、燃えた炭が崩れる小さな音がし、彼はまた視線を炎に戻して薪をくべる。

 何も言葉を続けようとしないファルシードの隣でリディアはしばし固まっていたのだが、やがてもそもそとパンを口に運んでいく。


 先程の言葉、あれはどういう意味なのだろうか。

 ただの部下の面倒を見るつもりが、ひどく迷惑をかけられることになったということか。それとも……



 そう考えると、小麦の香りもパンの味も、一切感じなくなってしまった。

 普段よりも強く脈を打ってきゅうと甘く締め付けてくる心臓の感覚が、不思議と心地良く、なぜだか愛しくて。


 彼に触れてもいない右肩をしきりに気にするリディアは、いつもよりゆっくりと時間をかけてパンを食べ、再び眠りについたのだった。

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