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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第六章 変わりゆく二人
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はじめての魔法

 交代で見張りを務めて夜を越え、朝日が昇るとともに魔法講座が始まった。

 ここに留まっていられるのは、今日一日のみ。

 習得に時間をかければかけるほど、逃走が困難なものとなるからだ。


 最低でも火山ガスを防げるレベルにまでは到達しならければならないため、リディアは真剣な表情で説明を聞いた。


 二人によると、魔法は自分が宿した証の性質のものしか使えないそうだ。

 つまり、コーネリアは炎、リディアは風の力しか操ることができないらしい。



「私が使えるのは炎だけだけど、それでも使い方次第ではいろいろなことができる」

 

 コーネリアは自身の左胸に手をあてて、それを地面にかざしていく。

 すると、リディアを囲うように地面から円形の炎の壁がせり上がってきて、すぐに消えた。


「こうすれば(おり)になる。あとは、形を変えれば矢を燃やす盾にもなる」

 そう言って今度は、自身の前に炎の壁を築いた。


「炎が自由自在に形を変えてる。すごい……」

 目の前で披露された奇術めいた力にリディアは圧倒されて目を丸くし、本当に自分にもできることなのかと、しり込みした。



「あれ、形を変えるってもしかして……! ねぇファル、あのナイフと剣、証で作ってたの?」


「ああ」

 リディアの問いにファルシードはうなずき、左胸にあてた手のひらを今度は上に向けて差し出す。


 そこにはどこからともなく青黒い闇が結集し、すぐにナイフの形を作った。


「裁きの証は闇と死を司っているらしい。このくらいならいいんだが、大がかりなものを仕掛けたり、他人の生気を吸うとなると、自分の生気までも吸われちまうから難儀している」


 彼のため息とともに落下したナイフは、着地する前に泡のようにほどけて消えた。


「その力、便利そうだなと思ってたけど、ずいぶん物騒で諸刃もろはの剣なのね」


「そうだな。宿すにはリスクがでかすぎる」


 コーネリアと話を続けるファルシードをリディアは無言のまま見つめる。

 死を司り、生気を吸われる、とはどういうことなのだろうか。

 単に疲れるということか、それとも使うたびに寿命が縮むということか。


 答えを聞くのが恐ろしくて、リディアは何でもないふりをして二人の話を聞き続けた。


――・――・――・――・――・――・――・――


「さ、次はリディア。あなたの番よ! ゆっくりでいいからやってみて」

 説明を全て終え、コーネリアがにこりと微笑みかけてくる。


 リディアは教わった通りに左胸に宿る証のあたりを触れた。

「証に触れたら、ここからはやりたいことをイメージする……」


「そうそう! 風で自分の周りにドームの形を作るの」


 コーネリアに言われた通り、スノードームのような半球を思い浮かべていく。

 証に触れた手に魔力がこもってきているのだろうか。

 リディアの指先が熱いくらいに熱をもちはじめた。


「ええと、それで熱くなってきたら手をかざして、一気にその熱を放つイメージ! ……って、うわぁ!!」

 魔力を放出するとともに、リディアはその場で尻餅をつき、あたりに突風が駆ける音と鋭い刃の音が響き渡る。


「何よ、これ!」

「――ッ!」

 リディアが慌てて二人のほうを見ると、ファルシードもコーネリアも自身の前に魔法で盾を築いており、大事はなかったようだ。



「ごめんなさい! よかった……無事で」

 ほっと安堵の息をつくと、コーネリアは苦々しく笑い、ファルシードは頭を抱えていた。


「無事、ねぇ……」

「どうやったら、こうなるんだ……」


 あたりを見渡して目を凝らすと、滅茶苦茶に斬りつけたような傷があちこちの木にできている。


 これを自分がやったのか、とリディアはぞっと身をすくませた。



「まぁ、はじめてだし……こんなもんよ! たぶん、リディアは細かい調節が苦手で、広範囲の魔法のほうが得意なんでしょう」


「得意な範囲とかあるんですか?」

 リディアの問いにコーネリアは笑う。


「パパは広範囲のほうが得意だったわ。おじいちゃんは私と一緒で中範囲だったみたい」


 思い出すような仕草を見せたファルシードが「レオンも確か、中範囲型だったな」と呟くと、コーネリアがにやにや笑う。


「アンタは絶対近距離でしょ、しかも超がつくほどの」


「近距離型なのは間違いないが、その顔はなんだ」

 

「パパが言ってた。広範囲型はおおらかで、近距離型は神経質って。ふふっ、これ当たりすぎて怖い……!」

 コーネリアは笑いを押し殺すような顔をしていたのだが、やがて我慢ならなくなったのか、楽しそうに笑い出す。


 リディアはそれをはらはらしながら見つめ、ファルシードはやれやれとばかりに呆れたような顔をしていたのだった。

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