二つの作戦
「どうしてこんなことに……」
リディアは絶句し、いまにも崩れ落ちそうな橋を見つめる。
ぽっかりと開いた穴は大きく、ここを渡るのはとてもじゃないができそうにない。
「原因は定かじゃないけど、先日の調査ではウルカヌス火山の噴石が落下したか、モンスターの攻撃によるものじゃないかって報告されてたわ」
「穴の原因なんざ、どうでもいい。問題は馬連れじゃここを越えられないことだろうが」
ファルシードが半ば苛立つように言うと、コーネリアはからからと笑った。
「そうね、並みの馬じゃ、越えるのは無理かもね」
「えっ?」
「お前、まさか……!」
困惑する二人を馬上から見つめてきたコーネリアは橋から距離を取り、馬の腹に合図の蹴りを入れた。
疾風の如く駆け出した栗毛の馬は、臆すること無く猛スピードで橋へと突入する。
そして、穴を前にしたところで強く後ろ足を蹴り、宙を飛んだ。
リディアは祈るように両手を組み、ファルシードは跳躍する馬を無言のまま見つめる。
着地の衝撃でだろうか。
今度は橋が崩れ出してしまい、スピードを上げた馬は、命からがら向こう岸へと渡りきった。
「ほら、越えられたでしょ!」
遠くから大きく手を振ってくるコーネリアを見て、リディアはひきつり笑いをし、ファルシードは呆れたようにため息をつく。
すぐに谷底から橋が大破する音が遅れて聞こえてきて、もしも転落していたらどうなっていたか、と、リディアは生きた心地がしなかった。
ノクスに乗ってリディアとファルシードも対岸に渡り、コーネリアの元へとたどり着く。
「マティアス団長も、この道を通れないことを知っているから、こっちに追っ手は来ないわ。第一関門は突破したし、あとは魔法を使って山のそばを通るだけ」
にこりと笑うコーネリアに、リディアは首をかしげた。
「普通の道に、どうして魔法がいるんですか?」
「そこのウルカヌス火山ね、つい最近大きな噴火があったのよ。一時より収まってはいるけど、まだマグマが流れ出てるみたいで」
「何、だと……!?」
噴火の事実を知らなかったようで、ファルシードは驚きを隠せずにいる。
「でも、私がいるから問題ないわ。マグマだまりに入るわけでもないし、炎の証の力で熱を吸収していけばいい」
そんなことができるのだろうか、とリディアは不安に思うが、仮にも隊長を担っていたコーネリアの言うことだ、無謀な話ではないのだろう。
「俺は火山に詳しくねェからよく知らんが、噴火と共に有毒なガスが出ると書いてあったように思うんだが……」
ファルシードは顎に手をあてて考え込む仕草を見せる。
もしもそれが事実であれば、ここから迂回路を進まなければならない。
そうすると、作戦は白紙撤回となり、追っ手からの逃走はより困難なものとなってしまう。
だが、コーネリアは任せろとばかりに胸を叩いた。
「大丈夫! そこも抜かりはないわ」
そう言ってコーネリアは、リディアの両肩を掴むように手を乗せてきて、再び口を開く。
「この子の風の証があるじゃない!」
彼女の言葉に、リディアは目をしばたたかせた。
証はあれど、魔法を使ったことなど一度もない。
自分にそんなものを使えるなどと、考えたことすらなかったのだ。
「我ながら、完璧な作戦だと思うわ! 熱は私が防いで、ガスはリディアが、モンスターはファルシードとノクスで退治すればなんの問題もな……」
「却下」
コーネリアの言葉を遮るように、ファルシードが言う。
「どうしてよ!?」
「リディアは証の力を使えない」
「使えない? 嘘でしょ! アンタあれだけ使いこなしてるのに、教えてやらなかったの?」
コーネリアは畳み掛けるように言葉を放つが、ファルシードはいかにも面倒そうに眉を寄せた。
「ギャーギャーうるせぇ女だな……とにかく、違う道を探すしかない」
「違う道ですって!? そんな簡単に見つかるわけないでしょ」
「あの……ファル、コーネリアさん。魔法を使うのって、難しいの……?」
リディアは口論を続ける二人に、恐る恐る問いかける。
すると、コーネリアがリディアの質問に答えてきた。
「コツさえ掴めば、簡単よ。大がかりなものだとやっぱり調整は難しいけど」
その言葉に、リディアの心はわずかに高揚する。
もう足手まといにはならずに、自分も戦力になれるかもしれないと思ったのだ。
リディアは大きく一歩踏み出して、口を開いた。
「二人とも、私に魔法の使い方を教えてくれませんか?」




