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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第五章 炎の騎士団
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コーネリアの決意

「なっ……それは貴女の誇りじゃなかったんですか!」

 ロベルトは声を荒げ、放心したように立ち尽くした。


「そうね、この三つ編みは騎士の印。何より大切な宝物だった」

 コーネリアは右手に携えた髪の束をいとおしそうに眺めて、再び口を開く。


「だけど、これも捨てていくわ。もう嘘で固めて生きるのに疲れた。これからは、ただのコーネリアとして生きていく」

 下から放り投げられた髪は放物線を描き、ロベルトの前に落下した。


「貴女は巫女なんですよ、そんなの許されるわけないでしょう……!?」


「許してもらわなくて結構。あと、告白の返事だけど……」


 淡々と話すコーネリアに対して剣を構えたロベルトは、鋭い瞳を向けてきて言葉を紡ぐ。

 

「悪魔に憑かれた貴女の返事などもらいたくはないです。そしてようやくわかった。俺の使命は貴女の目を覚まされることなんだ、と」


「悪魔憑き、ね……リジー、ファル、ごめん。先に行って! 通路の地図は頭に入ってる。すぐに追いつくから」

 コーネリアは剣を抜き、切っ先をロベルトへと向けた。

 これ以上の説得は無意味だと感じて、実力行使へと切り変えたのだろう。


 彼女の剣の腕はわからない上、ここはもうすでに敵地。

 仲間の騎士を呼ばれ、数でおされたらどうなるかは目に見えている。


 リディアとファルシードが決断を渋っていると、コーネリアは再度声を荒げた。

「早く! 自分の問題は、自分でケリをつけたいの!」



「……行くぞ」

 ファルシードの言葉にリディアも頷く。

 二人はコーネリアを残し、抜け道である地下通路を目指して駆け出した。


「待て! お前たちも同罪だ!!」

 ロベルトは二人を追跡しようとしてきたが、コーネリアが剣を突きつけて妨害する。


「何ヨソ見してんの? アンタの相手は私なんだけど」


「……っ! ここで炎を出せば、誰かが気づきますよ。お得意の炎を使えない上、貴女は女性。怪我させたくないんです。もう足掻くのはやめましょうよ」

 ロベルトは距離をとって体勢を立て直す。


「たとえ炎がなくても、私が女でも、アンタに私は倒せない」

 コーネリアは、剣を構えてロベルトを見据える。

 月明かりに照らされて浮かぶ鋭く妖しい微笑みに、リディアはぞわりと震えた。



「コーネリアさん、一人にして大丈夫かな……?」

 早足で地下通路を進みながら、リディアは呟く。

 馬一頭なら騎乗しても通過できるほどの広い道だが、未だ(ひづめ)の音は追いかけてこない。


「一対一での敗けはないだろうが……あとは、アイツの運にかけるしかねェな」


 運という不確かなファルシードの言葉に、リディアは険しい表情でうつむいた。


 やがて、通路には急勾配の上り坂が現れ、そこを越えて外へ出ると森に出た。

 月明かりの下、遠くにブレイズフロルの町を囲う壁が見える。

 どうやら無事に、外へと脱出できたようだ。


 ファルシードが指笛でノクスを呼び、空からノクスが戻って来た頃、隠し通路から蹄の音が聞こえてくる。

 二人と一匹が警戒して視線を送ると、現れたのは栗毛の馬に乗ったコーネリアだった。


「無事で良かった……」

 大事なさそうなコーネリアを見上げ、リディアはふにゃりと笑う。


「心配かけて、ごめん。だいぶ手間取った」


「追っ手はどうだ」


 ファルシードの問いに、問題ないとコーネリアは頷く。


「ロベルトにも致命傷は負わせずに済んだし、運良く気絶してくれて助かった。半刻もしないうちに厩役に発見されるだろうから、早く逃げましょ」


 憔悴(しょうすい)しながらも安堵に満ちたコーネリアの横顔に、リディアもほっと胸を撫で下ろした。

 ロベルトが気を失わなければ、コーネリアは部下を瀕死の状態にまで追い込むつもりだったのだろうと、察したのだ。



「だけど、逃げるってどっちに逃げるんですか? 確か、作戦があるんですよね」

 リディアの問いに、コーネリアは得意気に微笑み、森の中の街道へと馬を進ませた。


「説明する時間も惜しいから、ついてきて!」

 疾風のように愛馬(モネ)を走らせるコーネリアの後を、ノクスに乗った二人が追いかける。


「おい、そっちは峡谷がある方じゃねェのか!?」


「そうよ」

 ファルシードの質問に、コーネリアは高らかに返してくる。


「作戦も何も、アクアテーレに向かう正規のルート……っ!」

 夜闇に包まれた森を抜け、月明かりに照らされた光景にファルシードは言葉を無くし、リディアも目を見開いた。


「確かにここは、アクアテーレへの最短の道()()()。でも、いまは違う」

 コーネリアは馬の歩みを止めて、光が届かないほど深い谷のへりに立つ。


 向こうに繋がる橋の中心部は、ぽっかりと穴が空いて抜け落ちており、通行不能となっていたのだった。

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