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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第五章 炎の騎士団
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手紙

 その翌日、リディアとファルシードは買い物をするため、町に出ていた。

 食料やオイルなど、明日の旅立ちに向けて準備しなければならないのだ。



「やっぱり知らない町だと、欲しいものを探すの難しいね」

 リディアが話しかけると、ファルシードもうんざりしたような顔をしている。


「無駄にデカイ町だしな……って、ん?」


「あ! コーネリアさんとロベルトさんだ!」


 二人の視線の先には、軽装の鎧を身にまとい、大通りを闊歩(かっぽ)するコーネリアとロベルトがいた。


 声に気付いたようで、振り向いたコーネリアは爽やかに微笑み、駆け寄ってきた。


「リジー! 買い物か?」


「え、ええと、はい!」

 昨晩とは異なる雰囲気を醸し出すコーネリアに動揺し、リディアはたじろぐ。

 言葉づかいや声質どころか、顔付きや細かい癖まで、まるで別人のようだ。



「必要なものを揃えるのは難儀するだろう? 付き合うよ。町に詳しい者がいたほうがいいだろうし」

 コーネリアは懐中時計を取り出して時間を確認し、提案してくる。


「そんな、申し訳ないですよ」


「いいんだ、見回りの時間は終わった。今日は半日休みだからね」

 “さぁ、行こう”と言わんばかりにコーネリアはリディアの腕を掴んで歩き出そうとしている。



「ちょっとコーネリア様! 俺とお茶をする約束は……」

 虎に襲われかけた騎士、ロベルトが慌てて歩み寄ってきたが、コーネリアはきょとんとした顔を見せたあと、楽しそうに笑った。


「茶なんていつも隊舎で飲んでるじゃないか。それに、せっかくの休みなんだから、上司がいないほうがのびのび過ごせていいだろう?」


「そんなぁ……」

 がっくりとロベルトは肩を落としている。

 ネコのように丸まってしまった背中にはどこか哀愁が漂っていて、先ほどまでの堂々とした雰囲気が台無しだ。


「……鈍い女」

 一連のやりとりを眺めていたファルシードは、呆れたように呟く。


「何か言ったかい?」

 コーネリアはにこやかに微笑むが、悪口を言われているのを感じとったのだろう。

 こめかみには青筋が立っていて、全く目が笑っていない。



「いいや、何も」

 一触即発な二人をリディアはヒヤヒヤしながら見守っていたが、どうやら最悪の展開は免れそうだ。


「まぁいいか。行こう! ブレイズフロルには大体の物が揃っているから」

 コーネリアは笑顔を見せたあと、リディアの手を引きながら通りを歩きはじめた。



 初めて会った時、リディアはコーネリアに鋭い印象を抱いていたのだが、いまではそれも薄れ、明るく爽やかで良く笑うというイメージに変わっていた。


 歩くだけで、コーネリアは次々に町民から話しかけられており、一つ一つ笑顔で応対している。

 昨晩彼女は“完璧な騎士を演じている”と言っていたが全てが演技のようには、とても見えなかった。



「コーネリアさんは、騎士のお仕事が好きなんですね」

 リディアは、町民に手を振り返したコーネリアに話しかける。

 彼女はわずかに目を丸くしたあと、照れたように笑った。



「確かにそうかもな。団長の下にいれば、この目にとまる人々くらいは守れるってわかったからね。いつの間にか、騎士であることが私の存在意義で、誇りになっていたのかもしれない」


 そう話すコーネリアの瞳は澄んでいて、きらきらと輝いているように見える。

 


 彼女はリディアと同じく“祈りの巫女”と呼ばれる者。

 だが、諦めることしかしてこなかったリディアとは違い、コーネリアは自ら道を切り開き、運命を変えようとしている。

 そんなコーネリアが眩しくて、リディアは強烈に憧れた。



――・――・――・――・――・――・――


「明日は旅立ちか……寂しくなるな」

 フラム城に足を踏み入れて、コーネリアは呟く。


「秘密を知るやつらなんざ、とっとといなくなったほうがいいんじゃねェのか」

 憎まれ口を叩くファルシードに、コーネリアはむすっとした顔を見せた。


「アンタのことは心底どうでもいいよ。私が寂しいと思うのは、リディアに対してだけ!」

 その言葉に、リディアはくすくすと笑った。


「なんでそこで笑うの?」

 首をかしげるコーネリアに、リディアはにこりと微笑む。


「コーネリアさん、騎士の雰囲気崩れちゃってますよ」


 その言葉にコーネリアは、ぼっと赤面し、視線を泳がせた。

 予期せず素の自分を出してしまったことが、よほど恥ずかしかったのだろう。



「わ、ごめんなさい! 余計なこと言っちゃったかも……」


「いや、むしろ教えてもらえて助かるよ」

 コーネリアは表情と姿勢を正し、凛とした様子で言ってくる。

 どこか面白そうに眺めるファルシードを睨みつけるのは、忘れていないようだ。



「ああ、こんなところにいたのか。やっと見つけた」

 突然、背後から声がする。

 わずかに動揺したような低い声は、騎士団長であるマティアスのものだった。


「団長、どうされました? 至急の任務でしょうか」


「コーネリア、すぐに伝えたい話がある。ついて来い」

 険しい顔をしたマティアスは、せかせかと歩んで廊下の端にある扉を開けていく。

 団長室で見た時のような余裕はなく、彼の(ひたい)には汗が滲んでいるように見えた。

 


「団、長……? すぐに参ります!」

 コーネリアも異変を感じとったのだろう。

 小走りで彼の下へと向かった。


 扉の向こうに消えていくコーネリアとマティアス。

 リディアはふと、マティアスの手元を見てしまい、表情を一変させた。


「どうした」

 ファルシードに問いかけられ、リディアは顔面を蒼白にさせながら呟く。


「金色の封筒……」


「封筒?」


「団長さん、金色の封筒を持ってた。あれにはネラ教会から“第一の使命を果たしなさい”と告げてくる手紙が入ってて……」

 不安からリディアは口元に手をやり、微かに震える。


「第一の使命とは、なんだ?」

 ファルシードは声を落として尋ねてきて、リディアは過去の恐怖も思い出して涙目になっていた。


「このままじゃコーネリアさん、許婚(いいなずけ)と無理やり結婚させられちゃうの」


 その言葉にファルシードは、無言のまま目を見開いた。



「猶予が三年あるって言ってたのに何で……どうしたらいいの……?」


 おろおろと狼狽えるリディアの隣で、ファルシードは視線を落として唇を固く結んでいく。


 “自分たちにできることは何もない”

 リディアには、彼がそう言っているようにも見えたのだった。

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