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私に世界は救えません!  作者: 星影さき
第一章 はじまりは夕闇とともに
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港に集う者たち

 男二人とグリフォンの間に挟まれたリディアは、連れられるがまま森を歩き続ける。


 自分を盗もうとする理由は何なのか。人質にしてネラ教会を脅すつもりなのか。

 いくら考えても答えが出ることはなく、むしろ思考はどつぼにはまった。



 茶髪の男バドに視線を送るとどことなく機嫌が良さそうで、聞き覚えのない鼻唄を歌っている。

 一方、キャプテンと呼ばれた黒髪の男は目つきが鋭いせいか、不機嫌そうに見えた。


 そして恐らく、リディアはこの男に信用されていないのだろう。

 手首には変わらず黒髪の男の手が(じょう)のように絡み付いていて、振りほどく(すき)すら見えない。



 立場を考えれば逃走を試みるべきなのだろうが、うまく(のが)れることができたところで教会が許してくれるとは限らない。

 結局は逃走する勇気もでないまま、いまもこうやって盗賊の言いなりになっている。


 だが、このままついて行ったところで、盗賊など無法者たちの集まりだ。

 自分の身に何をされるかわかったものではない。


 進退ままならない状況にリディアの瞳は揺らいでいく。

 涙がこぼれ落ちそうになったところで、ふと歩みを止めて顔を上げた。

 黒髪の男が突然、足を止めたのだ。



「キャプテン、どうしたんスか?」

 恐らく、目的地についたわけではないのだろう。

 不思議そうな表情でバドが、黒髪の男の横顔を見つめている。


「あれ見てみろ」

 (とげ)を含んだ黒髪の男の声にバドとリディアも木の陰から、遠く離れた港の様子をうかがう。


 すると、神官や、熱心なネラ教徒たちが船の荷を一つ一つチェックしているのが見えた。


 クルーク港で積み荷の確認をしている光景など、リディアはこれまで一度たりとも見たことがなかった。

 神官たちはいつも祭事で忙しく、教会以外の場にいることすら珍しい。


 そんな彼らが港で荷の確認をするなど、一体誰が想像しただろう。


 彼らは恐らく、転落したリディアが生きている可能性に賭け、逃走・誘拐防止のために港の見回りをしているのだ。



「げげ。あいつら案外、仕事早いっすね……」

 苦笑いをするバドに、黒髪の男は淡々と言葉を返す。


「お前も、ああだといいんだが」


「冗談言ってる場合っスか」


「現状どうしようもねェだろう」

 乾いた笑いを見せるバドに、黒髪の男は突き放すような言葉をかける。


 それに負けじと腕を組んだバドは、口を結んで必死に頭をひねる様子を見せた。


「あ、そうだ。それならコイツに乗って、この子とキャプテンだけ先に船に向かうってのは? 我ながら名案だと思うんスけど」

 バドはグリフォンの頭を叩いて笑い、グリフォンは首をかしげながらバドの顔を見つめた。


 だが、黒髪の男は浮かない顔をしている。

 バドの提案は良案だと思うのに、とリディアは疑問を抱えたまま言葉を待った。



「少しは頭を使え。ノクスに乗るなんざ目立ちすぎるし、あいつらにバレたら仲間を危険にさらす」


 男の言うことはもっともだった。

 暗黒竜(ジェリーマ)の封印継続という大役を果たせるのは、世界に数十名しかいない祈りの巫女と神の使いだけだ。

 そんな巫女を誘拐したなどと知られたら、ネラ教会は黙っていないだろう。


 唯一の宗教であり、政治的な力も持つネラ教会の歴史は、救済や平和の維持といった美しいものばかりではない。

 他の宗教を許そうとせずに廃絶しており、民もまた、それを是としてきたのだ。

 巫女が盗まれたとあらば、どんな手を使ってでも奪還しようとすることは、想像に(かた)くない。



 バドは唸りながら悩み続け、グリフォンのノクスは男二人を交互に見つめている。

 リディアは、どうすればこの板ばさみともいえる状況を脱せるのか、そればかりを考え続けた。


 静かな森の中、バドの唸り声だけが響く。

 この時間はいつまでも続くかとも思われたが、突如として黒髪の男が顔を上げた。


「バド、前言撤回する。お前にしちゃ上出来だ」


「え、どういうことっスか?」


 バドの問いに、黒髪の男はにやりと口角を上げていく。

 その表情は自信に満ちており、策の成功を確信しているかのように見えた。

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