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最強魔導師だって嫉妬する  作者: rainydevil
帝国 カラシヤ奪還編
63/69

家族

火元が近く、肌がヒリヒリ目がコロコロして生理的な涙が浮かんではゴシゴシと擦るうちに、顔が煤で黒くなり足下の彼らと同じように顔が燻んでいた。


宙に浮く僕の足下では火柱と破裂音の轟音が響き薄暗い山中を橙色に染め、毛髪と爪のケラチンが燃える鼻を突き刺す臭いと人肉が焼ける香ばしい臭いが鼻の中で混じり吐き気を誘う。



ここが何処なのか地名とかはよく分からない、元来僕は方向音痴だし細かいことは考えないで飛んできた。

ただ行き着いた先で殺し合いをしていた、なんて言うか怖い。


帝国の軍服を纏う兵士と魔導師、その他の軍服は何処の国のものかは分からない。

とりあえずここで帝国兵士に加勢して敵を蹴散らせばいいのか。



「誰だお前っ! …… ど、何処のクソ野郎だ! どうやって飛んでるっ⁉︎ 」


しばらくぼぅっと眺めていた僕とは逆に、今まさに消えることに怯えた何処かの兵士が僕を見つけ、敵か味方を見分けようと怒声を飛ばしてくる。


僕はその誰かさんの頭に指先を向けてポンッと軽い音と共に吹き飛ばす、司令塔のなくなった体はふらふらと二、三歩歩き倒れた。


「……ぅっぷ」

堪えたつもりだが多分涙声になっていたと思う。

罪悪感はもう沸かなかった。



まるで地獄みたいだ、地獄に行ったことがないので知らないけど、ここがそうじゃないならこれ以上はちょっともう勘弁して欲しい。


皆が皆顔を皺くちゃにして土とに血に塗れて、犬歯を剥き出しにひどい顔をしている。


今僕の目の前で誰かが誰かの胸に槍を突き刺した。

街中で見かけると発狂しそうな光景だが独特の雰囲気のせいでそれも一つの背景のように見える。

つまりゲームみたいな感覚だ。


散らばった無数の槍や剣を魔法で持ち上げて地面を見下ろすと不思議に思った皆が手を止めて空を見る。


そのまま青の軍服に向かってそれらを振り下ろす。

予想していたよりも軽くて、まるで障子を指で突き刺すような軽くて濁った音が連なり血の匂いがいっそう強くなった、それは気のせいかもしれない。



どれくらい時間が経っただろうか、夢中になっていてよく覚えていない。

気づいたら周囲は木の焦げた鰹節のような臭いとチラチラと燃える炎と、勝利の雄叫びをあげる帝国兵士だけになり、僕は魔法と刀を向ける相手が居なくなっていた。

少し残念に思う自分にゾッとして深呼吸する。


右手には魔法刀が血と油でテカテカと光っている、ティナからかりた大切な物なのに、こんな使い方をした自分にどう言い訳したものかと後悔してしまう。



「…………君は、何者なのかな? 味方なのは分かったが……それほどの魔導師は帝国にはもう……」


帝国軍人の部隊長くらいだろうか、ウェーブのかかった金髪で今まさに死闘を終えた人とは思えない清潔感で僕に手を差し伸べて握手を求めてくる。


握手なんて小っ恥ずかしくてなかなかしないけれど断る理由もないので右手をだして応じる。


「……いえその、皇女殿下の友人というか……そんな感じです」


別に隠そうが隠さまいがすぐバレるのだが、今この状況で誰だ? と聞かれた僕にはそれくらいの肩書きしかなかったのだ。



「もしや……君はゾンネの方で噂になっていた……そうか⁉︎ ついにゾンネ王国が参戦してくれるのかっ……よかった、本当によかった……これで勝てるっ‼︎ 君がいれば我々は勝てるっ! お前達っ! 〝英雄〟が来てくれたらぞ! 」


「……まぁいいよ、それで? オリヴィエちゃんは今どこに? 」


もういいやどうにもでもなれ、全部最後にツケを払えばいい。

いつもこうして後悔してきた、でも今度こそ自分で尻拭いするつもりだ。



「あぁそうか、君は皇女殿下のご友人ということになっているのだったな、皇女殿下はここから北に真っ直ぐ進んだホズンという場所で指揮をなさっている」


「オリヴィエちゃん自身が? 何でそんな人が前線に出ているんだ? 」



「……お恥ずかしい話ではあるが、皇女殿下もかなりの魔導師でいらっしゃるのだ……そのお力を借りなければならぬほど私達は追い込まれているのだ 」


あぁそう言えば、彼女も僕と同じでこっちの世界に転生してきたのだった。なら僕と同じ魔法が使えてもおかしくない。それに元日本人の思考として最後の最後には自分が出るという思考は考えやすい。



「……そうですか、ありがとうございます。僕も向かってみます 」



名前も聞けなかった彼が僕の背にエール贈るのを感じながら空に上がると、さっきまで気にならなかった返り血と油で体が冷え、寂しくなる。

そう言えば昔、僕は英雄とか偉人とか誰もが羨む存在になりたかった。でもこんなのは欲しくなかった。


ーーーー




まだ幼く高くて冷たい声が飛んではそれに従い、赤の服を着た兵士が列をなしては魔法を撃ち何としてでもこれ以上敵が進むのを阻止しようとするが、それでも1人また1人と赤の服が倒れ、倒れた戦友を尻目に後退する。


「死んでも此処で奴等を止めなさい! 此処が通ったら何もかもがなくなって! 全部! 貴方達が今こうしているのも無駄になってしまうから ……だからっ! 」



神輿のような台の上に立ったオリヴィエちゃんは自らを的に飛んでくる魔法を防ぎながら何とか士気を保とうとしている。


よほど彼女が愛されているのかそれとも軍人としての矜持か、彼等は文字通り死にものぐるいで彼女に従い命を散らしている。



破裂した魔法の欠片がオリヴィエちゃんの左腕に当たった。彼女は悲鳴を食いしばって噛み殺す、僕は大きく息を吸って吐いてから彼女の乗っている神輿に降りて魔法刀を抜きそれを天に突き刺す。


法撃が鳴り止み、空から降りてきた僕を誰もが見上げている。



「……ぶ、ぶっ殺してやるからっ! かかってこいこのクソやろうがーーっ!! 」


かっこいい事でも言おうと思ったけど、あいにく思い浮かばなかった。



僕の大声と同時に止まった戦場は再び動き出し一斉に僕の方へ魔法と馬の駆ける音が向けられる。


驚いて座り込んだオリヴィエちゃんの腕を強引に引いて僕の背後に押し込み、横に整列した帝国軍の前にカーテンのように氷結層アイスバリアを展開させる。


氷結層アイスバリアが攻撃されて起こる振動音と衝撃が地面を揺らして僕達の声は聞こえづらくなった。


「ちょっと! 何しにきたのよっ!? 邪魔しないでって言ったでしょ! 」


「邪魔しないと君が死ぬから邪魔しにきたんだよっ! 」


「そうゆう問題じゃないでしょ!? あんたが戦っているのがバレたら大変なことになるのよ! 」


「今大変なことになってる人に言われたくないねっ 」


オリヴィエちゃんが黙って何とか言い包めたことに安堵しながら前を向こうとすると突然、襟首を掴まれて引っ張っられて、気づいたらオリヴィエちゃんの顔が目の前にあった。

こんな時なのにオレンジ色の目とその顔立ちは綺麗だ何で思ってしまう。


「どうせ勝手にきたんでしょ? 自分がどうなるか分かってるの? 」


しょうもないことを考えていた僕とは違って、オリヴィエちゃんは真に迫った顔をさらに近づける。



「…………分かってるよ、これから僕はダンマリを決め込んだゾンネ王国を戦争に巻き込んだ張本人として晒し者にされるんだ」


「そこまで分かってるなら! 今すぐ帰りなさいっ! お願い帰って!! 」


「うるさいなぁもう遅いよ、ほっといてよ。今度こそ僕は人らしく生きたいんだ、人らしく人のために生きたいんだ。誰かが覚えてくれる人生を選びたい、トラックに跳ねられて死ぬなんて惨めな死に方誰が許してくれる? 死んでまで認められない僕の気持ちが君に分かるか? 」



「分からないけど! 貴方には惨めでもいいから生きていて欲しいって思うから言ってるの!

……ねぇあのときは気付いてあげれなくてごめんなさい、でも貴方のことは会ってすぐに分かった、下手くそな真面目顔でサーフィアさんと楽しそうで安心した。私はこれでも随分と向こうで生きたのよ? だから幸せになってよ、ねぇお願い」


「はぁ? 何言ってるの? てかもう今はそれどころじゃないからさ、早く逃げてよっ! 」


「それどころだから言ってるの! ねぇ真也なんでしょ……? 」


「は? 」


それが自分の名前だったことを思い出すのに少し時間がかかった。それくらい僕の中での比重がこちらの世界に傾いていたのかもしれない。



最近ティナが出てこないです、個人的にはヒロインがガンガン戦うのは微妙なんです。

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