帰還
ティナの影が薄い……
今更なのですが、主人公の葛藤シーンとかってあんまり需要ないんですかね。でも書いちゃったので投稿しまーす。
「……お疲れ様です」
一仕事終えて戻って来た僕を、フォルカスが労ってくれる。寝不足とはいえ魔法を一発撃っただけのはずがどっと疲れに襲われる。
「あぁうん、皆んなもお疲れ様。……帰ろっか」
まぁ何というか、いざやってみればこんなもんか、って感じである。人殺しが。
ただ、何かしていないと罪悪感が湧いてくる気がして落ち着かない。これで良かったのだろうか、人殺しの理由を仕事とサーフィアさんのせいにして。これで良いと思ってやった筈なのに、また終わってから後悔したくなる。
「ねぇ、早く帰ろぉよ。確認なんかしなくても誰も生きてないよ」
「えっ……そう、ですね。帰りましょうか」
ぐいぐいフォルカスの袖を引っ張ると、察してくれたのか、本来一日おいての行定を巻いてくれた。
こんな所でなんて絶対に寝れないし、1秒でも居たくない。
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帰りましょう、と伝えるとマスターはホッと安心した表情を作り、いくばかは張っていた緊張が解けたように柔らかくなる。
しかし、いつもは羨ましくなるくらいに乳白色に薄い桃色の頬を揺らす彼の顔が、死人のように青白く、眼に浮かんだ涙を流れないように堪え、時折嗚咽を噛み殺す様が、私をどうしても苦しめる。
殺しは慣れるもの、私はそう教わったし、私も同じ事で悩んで苦しんだ。今も、どう折り合いを付けたらいいのか分からない。
ただ、どうにか彼の力になりたい、心からそう思う。
「何か、私にできることはありますか? 」
私の背中を抱き締めて馬に揺られる少年に尋ねる。
「えっ? ぅん、大丈夫だよ。出来れば早く帰りたいかな、お布団様とサーフィアさんに早く会いたいな」
彼の口からサーフィア様が出てきて少し嫉妬する。正直、今回の作戦について、私はサーフィア様を少しだけ幻滅した。
『何故貴女は、自分の恋人に虐殺を命じたのか? 』私に立場さえ有ればこう問い詰めたい、何故そんな事ができる? 彼は貴女の道具なのか? 少し幻滅なんてやっぱり嘘だ、私はサーフィア様が大嫌いだ。
「ねぇフォルカス」
「どうしましたか? 」
「サーフィアさんはさ、賢いでしょ? だからさ今回のコレも想定済みなんだよね? ちゃんと僕のことを考えてくれてるんだよね? 」
「…………それは、私もあまり頭が良くないので分かりません、ですが、きっとそうなのでしょうね」
何がそうなのでしょうね、だ。悔しい、悔しい悔しい悔しい。サーフィア様は戦場を知らないだろう。 人殺しもした事がないくせにっ。貴女はマスターを私よりずっと知っている筈だろうに、何故こんな簡単なことも分からないのか。
マスターはダメなところもたくさんあるけれど。必死で正しい人間であろうと努力していたのに、誰かの為に頑張っていたのに。そんな彼の人間性を侮辱したのはサーフィア様だ。
「マスター、私はずっと貴方の味方ですから。例え誰が貴方ぬ荊の王冠を被せても、私は貴方の騎士であり続けます」
「……そっか、うん。ありがとう、これからもよろしくね」
いつもの癖でまたマスターに忠誠を誓ってしまった、しかし素で返されるとどうにもむず痒い。しかも内容がまるでプロポーズみたいではないか、自分の顔がポカポカ暖かくなるのが分かってしまう。
「よ、よよよよろしくお願いしますぅ……」
あれ、おかしいな、私は言葉に不自由はしていない筈なのに……
「あはははっ、どうしたの? フォルカスが動揺するなんて珍しいね」
まぁ、マスターが笑ってくれたのでよしとします。
「マスターこそ、いつもは鬱陶しそうにするではありませんか」
「今日はそんな気分なんだよ、重いフォルカスも素敵だゾ」
何故かイラっとしますが、ならばもう少し重い女になってやりましょう。
「私は、マスターの為ならいのちもかけれます」
「……それは仕事だから? 」
「さぁ? どうでしょう」
「もしかして、口説いてる? 」
「私は人妻を口説く趣味はございませんよ? 」
「誰が人妻だよ、おい、僕は男だぞ、おい」
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「目標を完全撃破、犠牲者怪我人共に無し。カラシヤを確認した後帰還しました」
「そう、ご苦労様。……エディ君は何処に? 」
「マスターは既にお休みになられました」
「……仕方ないわね、貴女も戻って休みなさい。碌に休んでいないのに使ってばかりでごめんなさい」
そういうサーフィア様も目元にうっすらとクマが見える、仕事でもあったのか、それとも大事な人が頑張っているのに自分だけ休めなかったのか。もし後者なら、複雑な気分だ。
「そうだ、フォルカスさん」
「? はい、何でしょう? 」
私もそろそろ休もうと思い、サーフィア様に背を向けたところで再び呼ばれる。
それに、サーフィア様が私を名前で呼ぶときは、プライベートがかさむとき。
「私が居ないからって、エディ君に手出してないわよねぇ? 」
「まさか、何もしていませんよ。せいぜい唾を付けておいたくらいです」
そう、唾を付けたくらい。
「そう、良かっ…………良くないっ! 何してるのっ!? 」
「大丈夫です、ちゃんと拭いたので」
「そういう問題じゃないでしょう!? ……あれ? そうなのかな? そうだよね? 」
ちなみに本人とマスター以外には自明ですが、サーフィア様もマスターのこととなると結構ポンコツなのです。
「考えてもみてください、マスターにとっては初めての戦場です。そこで昂った男を宥めるのは女の役目ではありませんか? 」
正直自分でも何言ってんだ私、って気分です。が、今のサーフィア様なら軽く丸めこめそうです。
「ええっ!? そ、そうゆうものなの? ……で、でも、それは私の役目よっ!! 」
「やれやれ、サーフィア様。分かっていませんねぇ、帰還して後、安全な屋根の下で待っている女などに価値は無いのです。戦う男に必要なものは荒れた心を鎮める為、横にいる女なのです」
本来ならこんな口の聞き方は不敬罪で処刑されてもおかしく無いのだが、案外嘘ではない。
私は女なので良くは思わないが、軍の長期にわたる行軍の中には、兵士達を慰めるための女達を連れて歩く場合も多い。
まぁマスターには指一本触れても触れられてもいないのだが。
「そ、それが貴女だと? 」
サーフィアのがグヌヌッっといった顔で睨みつけてきますが、かわいいです。
「さて、それはどうでしょうか? 」
さて、サーフィア様で遊ぶのはほどほどにしておいて。
「そんなことよりも、サーフィア様」
「そんなことでは無いのだけれど……何よ」
「今すぐマスターの所へ行って下さい、貴女にしか、できないことなので」
「……そう、そうね。……そっか、私が間違ってたのかな……分かりました」
何だ、分かっていたのか。少しの安心と怒りがサーフィア様に湧いてくる、しかしどうする訳にもいかない。あわよくばいつか、その役目を私ができたら、なんて思ったり。
唐突に始まる登場人物紹介
エディルトス・ディアマン
本作の主人公、作中最強の筈なのにただよう小者臭。頭も悪くないが秀才ではない、勉強すれば賢くなれる程度、サーフィアさんが居る以上本作にて彼の頭脳が光ることは恐らくないだろう。
ちなみにヘタれ、14歳童貞。




