リョウのお話
最近、嵌っているソシャゲでガチャ更新とイベントが一向に来ません。
課金しなくて済むという安堵と共に早く新ガチャを望む私はもう末期だと思いました。
✳︎次話から久しぶりのファンタジーが始まります、多分。
結局昨日、父さんは帰ってこなかった。
敵前逃亡したと思われた父さんは、正式な会議だなんだとかで今日も王城に居る。
働く父さん大好きっ、ビバ労働! もっと僕の為に働いてっ!!
少しは成長したと言え、クズはクズなのだ。
因みに、本気で言っている訳ではないので嫌いにならないで欲しい。
そして僕の成長と言えば先ずはこれ、早起きである。
朝、起きない事で定評のある僕は、ティナに苦言を吐かれること10年、やっとこさ一人で起きれるようになったのである。
今日はいつもより30分早い起床である。今日だけかもしれないが大きな進歩である、はず。
早起きは三文の徳、いや、三文がどの程度の価値なのかは知らないけど、……確か割とショボかった覚えがある。
朝の貴重な睡眠時間とはした金、どっちが貴重かと言われれば、まぁ僕は前者派だ、きっと昔の人は守銭奴だったんだろう。
個人の一方的な見解をあたかも有難い言葉のように流布するのはいい迷惑である、君達古代人のせいで、ママとパパ達は子供を早く起こす大義名分を得てしまった訳なのだから。
と、ここまで思考する事約5分。
それみろ、三文が今で言う30分なら、もう6分の1は訳の分からない妄想タイムで消費してしまった。
やはり三文などはした金、脳のニューロンを休ませる睡眠の方が何倍も建設的である、ハイ論破。
「という訳で、お休みなさい」
「起きなさいっっ!!! 」
あまりの驚きに、ウベャァ と変な声で布団から飛び上がる。
声の先には、綺麗な顔に青筋をピクピク立てたティナが立って居た。
「だからノック無しで勝手に入るなっていつも言ってるだろっ!! ニャンニャンしてたらどうするつもりなんだよっ!! 」
ティナの剣幕に僕も、頭のおかしい事を捲したてる。
「したけりゃすればいいじゃないですかぁっ!! 」
ついにティナまで頭がおかしくなった、最近キャラが明後日の方向へ向かっているが大丈夫なのだろうか。
少し落ち着いて冷静になる。
「何だよ、まだいつもより30分も早いじゃないか、ちゃんと起きるからまだ寝ててもいいだろ? 」
二度寝は日常の中の細やかな幸せ、絶対不可侵の領域、ホーリーフィールド、ちょっとかっこいい。
「いつも私達が起こしているのはこの時間です、エディ様を起こすのに30分も掛かるだけです」
なんと、では僕の早起きは早起きにあらず、三文どころか30分の睡眠時間を失っただけである。
やっぱ早起きとかするもんじゃねーな。
しかし、二度寝しようにも目が覚めてしまい、ティナに不満をブチブチとぶつけながら着替える。
余談だが、ティナは僕が目の前で着替えようがすっぽんぽんになろうがピクリとも反応しない、そんな事でニャンニャンできるのだろうか? 未来の夫婦生活はどうなることやら。
着替えが終わり、薄い桃色の寝間着から学園の制服姿になった僕はティナの後をチョコチョコ付いて行く。
「今日はアウル様がいらっしゃらないので朝食はお一人で、とのことです」
「ふーん、了解。ティナは? 」
「既にとりましたよ」
「一緒に食べたらいいのに」
むしろ一緒に食べたいのだが、ティナは嬉しそうだが少し寂しそうだ。
「それは……もう少し待って下さいね」
ーーーー
ティナがデレてから一時間後、いつもより少し早い登校をした僕は、リョウとアラトに挨拶する。
「エディ、今日からよろしくな」
アラトから何かよろしくされてしまった。
はて、何をよろしくされたのだろうか? よろしくする、と聞いてエッチな方の意味を取る僕の頭はきっとピンク色なんだと思う。
「僕にそっちの趣味はないぞ」
取り敢えず覚えていないので、てきとうに誤魔化す。
「は? 何言ってんだ? 頭大丈夫か? 」
アラトに頭の心配をされた、耐え難き屈辱である。
「で、何だっけ? ごめん、覚えてないや」
「初めからそう言えよ、……魔法教えてくれるんだろ? 」
あぁ、そう言えば、アラトの成績不振と不登校から僕が家庭教師みたいな事をするよう、レーナ先生にお達しが来ていた。
魔法祭が終わった今日から特訓開始するみたいだ。
「あー、了解了解。放課後からでいいよね? 」
「それでなんだけどさ、リョウも一緒じゃダメか? 」
「ん? 別にいいけどなんで? リョウは結構頭いいじゃん」
確かリョウは学年でもなかなかの高成績の優等生である、それに比べアラトは成績不振に不登校、典型的な不良である。
「いやぁ、だって俺だけ教えて貰うのもなぁ、リョウにだったらいいだろ? トーマスも誘ったんだけどあいつは要らないってよ」
「まぁ、別にいいけど、リョウはいいの? 」
首を回して黙っていたリョウに尋ねる。
リョウは昔、魔道士に魔法を聞くのは非常識、という姿勢をガンとして変えなかった、それに魔法のセンスも悪くない、このまま高等部にいけばそこそこの実力者になれるはずだ。
どういう心境の変化なんだろうか。
「……エディ君がいいなら、僕にも教えてください」
リョウの歯切れが少しだけ悪い。
授業が終わり放課後になる、つまりは僕達の時間である。
盗んだバイクで走ったりしていい時間なのだ。年代が違うのでここの部分の歌詞しか知らない。
しかし、盗んだバイクも盗むバイクもない訳で、僕達三人はいつぞやにクロナが爆破した学園のグランドに集まる。
放課後すぐの時間もあいまってグランドには大勢の生徒がそれぞれの事をしてウェイウェイ騒いでいる。
残念ながら飛行魔法を使えるのは僕だけなのでクディッチをしている生徒は居ないが、魔法を使って少林サッカーやテニヌをしている生徒はチラホラ見かける。
たまに謎の部活動から勧誘が来るが、まだ死にたくないので今のところは全て断っている。
「んじゃあ、始めよっか」
言いながら、クロナに教える時に愛用していた移動式のブラックボードをガラガラと引っ張ってアラトとリョウの前に立てる。
「よろしくお願いします」
「……んぁ? ……よろしくお願いします」
アラトはリョウに釣られる。
「はいはい、んじゃあ簡単な炎魔法からやってくか」
基本はクロナのときと同じように、酸素くんと水素くんのお話から始める。
pixivみたいなのがあれば酸素くんと水素くんの可愛らしいイラストが有って説明しやすいのだが。
僕の脳内設定では、酸素ちゃんは赤毛ショートで巨乳の元気なボクっ娘、水素ちゃんは青髪ロングで清楚な貧乳美少女である。いつの間にか二人とも女の子になっていたが、気にするでない。
因みに僕のpixivのブックマークは、エッチでかわいい女の子でいっぱいだった。
必死にアラトに説明を試みるがアラトは一向に理解してくれない、説明すればするほど頭から煙をあげる。
仕方ないので、酸素ちゃんと水素ちゃんのイラストをデフォルメでブラックボードに描く。
「今アラトの周りにはこんな感じの見えない二人の美少女がふわふわ浮いてるんだ、どうだ? 嬉しいだろ? 」
アラトは美少女と聞いた瞬間、急激に真面目な顔で想像し始める。
「そうそう、今アラトの頭の中に浮かんでる美少女だ」
アラトの口元が緩む、気持ち悪い。
「その美少女は二人でセットなんだ、二人居て初めて大きなエネルギーを生む、二人はプリ◯ュアなんだよ、OK? 」
ぷいきゅあがんばぇ。
何故かこの説明でアラトは炎魔法を理解する、早々に理解して炎魔法の練習をしていたリョウには「何言ってんだこいつら」みたいな顔をしているが、アラトと一緒にしないで欲しい。
初日はアラトが僕の炎魔法を使える様になるまで練習してお開きとなった。
陽が傾いてきた頃、使ったブラックボードを元の場所に戻し、荷物を纏めていると、リョウが僕を待っていた。
「アラトは? 」
「店の手伝いがあるそうで、もう帰りました」
アラトの実家の商店に炭酸ジュースを置いてから、なかなか繁盛しているようで、良いことだ。
「……ふーん、じゃあ僕等も帰ろっか」
リョウは頷いて僕の隣に立つ。どうやら、僕に話があるみたいだ。