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最強魔導師だって嫉妬する  作者: rainydevil
学園編
52/69

三人の夢

感想パゥワァーを貰って再出発しました。


異世界行きのトラック来ないかな_(:3 」∠)_

全くもって僕の人生は順風満帆、サーフィアさんの独立部隊の隊長ともなれば僕に逆らう者はほとんどいなくなるはずだ。詰まる所お偉いさんになれるのだ。

王命でさえサーフィアさんの命令は覆せない。


そうなれば名実共に僕はサーフィアさんのモノになってしまうわけだが、まぁサーフィアさんも酷い命令はしないだろう。


腹の中は隠して、持ち前の愛嬌で甘い汁を啜る猫のごとく、ちょっとばかしの魔法と顔だけで美味しい話がほいほい舞い込んでくる。


前回と同様に即答したい所だが、悩んだ振りをしながら、冷めた紅茶を飲み干す、空になったティーカップにメイドさんがコポコポと注ぐ。

頭良さげ風にカッコつけたのに、直ぐ注がれると微妙な気分になった。


「……どうだろうか? 悪い話ではないと思うのだが」

サーフィアさんの父親である陛下は、愛娘の恋路に介入することにニヤニヤしている。





断る理由も無いので二つ返事で了承する。


これで僕の人生は安泰になった訳だ、十分な地位と名誉を貰い、多分色々な人に尊敬される人生になる。


冒険的で夢あふれる生き方にはならなかったが、僕は価値のある人間になれるだろう。世界の中で、あってもなくても誰も困らない歯車にだけはなりたくなかった。

そして何より、サーフィアさんの隣に立って恥ずかしくない人間になれるはずだ。



ただ、与えられた立場ものでサーフィアさんとティナに見合う人間になれるのか。それだけが不安だった。



「そうかそうか! ありがとう、君ならサーフィアも満足するだろうし、何より私が安心できる! 」

僕がその場で決めたことに陛下は大層嬉しいようで、気の良い普通のおじさんのようによく話す。


「親バカ無しでもサーフィアは優秀でね、まぁ、いわゆる『持っている人間』だよ。

常々サーフィアの将来について期待していたのだが、側には真に心を許せる人間を置いてやりたかった、だから君を手にしたあいつがこれからどうなるか、私は本当に楽しみなのだよ」


陛下、いやリーブズ王は、娘の将来を嬉々として語る。僕は相槌と愛想笑いを返すだけで、自分のことが他人事のように思えてどうしようもなかった。



ーーーー



陛下と話した後、僕は王族直属の部隊の隊長という名誉ある肩書きを約束された重みも何も実感できないまま、ふらふらと城内を練り歩き、城門前で待っているはずの馬車へと向かう。


城門前の両端を警護する二人の警備隊が僕に気付き、鋭い敬礼をした後、僕から見て左側にあるレバーを体重を掛けて倒す。ゴリゴリと削れるような音がして、僕の三倍程の銅色の扉が土を引きながら開く。


僕は軍人でもなんでもないので、敬礼はせずに軽く一礼してから門を通る。

門の向こう側は鼠色と白色のタイルが交互に並べられていて、そのタイルが終わる所に来てやっと、日常に帰った気がした。




「……迷子ですか? 探すのも面倒なので早く乗ってください」

いつの間にか僕の背後に二匹の馬が引く白銀色の馬車が停まっていて、その片側の窓からは薄い青の入った灰色の髪を持つ女性が首を出していた。


「うん……ありがとう」

ティナが開けてくれた扉を通り、柔らかいソファーが向かい合うように置かれていて、内装は木目状の馬車に座る。

ティナの横に腰を下ろして扉を閉める。僕は人と話すとき、正面を向かい合うよりも首を回して隣で話す方が好きだ。文字通り人と向き合うのが苦手なだけかもしれないが、そんな自分に不満はない。


ティナの方を盗み見るとどことなくティナの顔が赤い気がする。


「え、エディ様」

「えっ? ん? な、何? 」

ティナの少し上ずった声に僕まで驚く。


「な、何故隣なのでしょうか? 向かい側が空いているのでは? 」

いつもの鉄仮面がほとんど剥がれたティナは、自分と僕の膝の隙間距離を見てモジモジしている。

何を今更そんな事で、と思ったが、よくよく考えればティナだってまだ二十歳なわけで、年相応の反応が可愛く思えて仕方ない。


「そうかそうか、僕が居なくて寂しかったかぁ、ティナはかわいいなぁ」

基本やられる側の僕なので、新鮮で楽しい。調子に乗ってティナとの距離をさらに詰めて、太腿と太腿をピッタリとくっ付けてティナの肩に頭を乗せて寄りかかる。

ティナからはうちの風呂場で使っている石鹸の匂いがする、僕も使っている、とても落ち着く匂いだ。


手痛い反撃が来ると思いきや、ティナは真っ赤になって湯気を立てている。流石に申し訳なく感じていると、ふと思うことが出て来た。



「ティナはさ、『夢』とかあった? 」

サーフィアさんに問われた質問だ、あの時僕は捻くれて答えた、僕には声に出せるような『夢』は無かったが、ティナにはあるのか、またはあったのか。


「い、いきなりですね……」

ティナは一つ咳払いをして、僕からほんの少し距離を取り、すっかり薄くなった鉄仮面を貼り付けて答える。


「『夢』でしたよね、…………。そう言われると、なかなか出てこないものですね、自分の『能力』と『欲』が釣り合わないと感じたら、それを『夢』と言うには抵抗があります」

「その『欲』が『夢』で、それの為に努力するんじゃないの? 」


なりたい、欲しい、それが『夢』じゃないのか、そしてそれを持っていない僕は負け犬なのか。

ティナが困った顔をする。


「それは理想ですけどね、……『夢』なんて無くて困るものじゃないと思うんです、むしろ、あって困ることの方が多いと思いませんか? 」

10歳の子供にこんな事言いたく無かったのか、ティナは「私は凡人ですから」と苦笑する。


「でも……それがないと、それがないとどの方向に脚を踏み出せばいいのか分からないんだよ」

エンジンは掛かっている、想いもある。ただ、それだけじゃ何処へ向かえばいいのか分からない。



「……エディ様の背中を押すのは私の仕事では無くなったんですね」

ティナは親離れした子供を見るような、悲しいような嬉しいような、暖かくて悲しい表情をしている。


「エディ様は、『夢』は大きくないといけないと思っていませんか? それとも、大きくあって欲しいだけ、とか? 」

思っていたつもりはないのに、図星を突かれたように心が抉られる。


「……小さくてもいいの? 」

スターになりたいだとか、貴族になりたいだとか、僕も色々あった、でもどれも違う気がする。


「もちろんですよ、そもそも 夢 は一つじゃなくていいんです、小さな夢を一つずつ叶えて、少しずつ幸せになればいいじゃないですか? 」

「でも、小さい夢だと、サーフィアさんの期待に応えれない」

サーフィアさんはずっと、僕の前を走っている、せめて横に並びたい。


「では、無理に自分で作らなくとも、誰かが見せてくれた『大きな夢』を追うのも悪くないのでは? 」

「……それで、サーフィアさんに失望されないのかな? 」

サーフィアさんが僕に何を望んでいるのか、期待にそえなければどうなるのか、何もかもが霧ががっていて分からない、不安になるばかりだ。


「……何を悩んでいるのか、完全には分かりませんが、サーフィア様と同じ女という点でなら。

私達はエディ様の能力で好意を寄せている訳ではありません、ただ少しでも前に進もうとする貴方を見ていたいだけですよ。

それに、もし立ち止まったからと言って、失望するとかそんな事はありません、また私達が背中を押してあげますから。


だから、もしサーフィア様が貴方に『大きな夢』を見せて下さるなら、私は『小さな夢』を沢山見せてあげます。どうせいつかは家族になる者同士です、それくらい共有してもいいのでは? 」


話し終えたティナは本当に綺麗だった、まだまだ固いところもあるけれど、この人がサーフィアさんの輝きに霞むところは一つも無い。


ティナの言葉を僕が良いように解釈しただけなのかもしれないが、靄ががっていたものが綺麗になった気がする。


「……ティナって凄いな、かっこいいよ、羨ましいなぁ……羨ましいよ」

何が羨ましいのか、自分でも分からない、ただ、アレができるから羨ましいとか、頭がいいから羨ましいとか、その人に紐付けされた能力ものでなく、その人自身本体としての格が違う。


それを10年以上一緒にいて気が付かなかった僕とは違う、こんな人が支えてくれるなら、きっと大丈夫だ。


ティナは何も言わない代わりに、馬車の中で僕との間に作った距離を自分から埋め、小さな僕の肩に頭を乗せて寄りかかった。

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