娘さんをください
12月になりましたね、一昨日、今月分の課金ガチャ代をクリスマスガチャで使い果たしたので、続きを書こうと思います。
なろうが無料サイトで本当に良かったです。
魔法祭が終わり、ようやく日常に帰ることができる。この世界の四季は地球の同じ、今は夏の終わり頃で少しずつ朝が肌寒くなってきた。
ところで魔法祭の御前試合、優勝したのはサーフィアさんだったらしい。僕はそもそも出場していること自体知らなかったが、僕が一度も試合を観ていないことにご立腹だった。少し考えたらサーフィアさんが出ていない筈もないのだが、生憎僕の頭はポンコツなのだ。
まぁそんなことはどうでも良くて、本日の学園は休み、マリーナ鉱山から帰って久しぶりの休日である。
本来なら部屋に引きこもって惰眠を貪るつもりなのだが、そんな訳にはいかない。
サーフィアさんの父上、この国の国王、リーブズ王に招待されたりした、ぶっちゃけ面倒、呼ぶなら平日にして欲しかった、学園休めるもん。
今回は正式な場でなく、あくまでプライベートで娘の婚約者と話す、というものらしいがさっきから僕の心臓が元気いっぱい伸縮している。
ドラゴンフライの一件で父さんから礼儀作法を一通り習ったが、残念ながら一カ月そこらで僕の脳はアップデートされたようだ。
黒歴史だけはしっかりバックアップされているのは如何なものか、思い出すだけで顔が熱くなる。
「ほら、エディ様、シャンとして下さい、終わりましたよ」
意識を飛ばして幽体離脱を試みるがティナによって阻まれる。
本体に意識を戻し、鏡に映る自分の姿を見る。
「……何これ」
普段は制服か寝巻きしか着ない僕が、派手な赤色に金文字の入った羽織りに白のソックス、肩まで伸びた髪は後ろで固め、前髪はオールバック。胸には星型の勲章が二つ。これはドラゴンフライ討伐の時に貰った物だ、これが多いほど名誉だとかなんとか。売ったら高そう。
どちらも大層な名前がついた章だったのだが、繰り返し言うが僕の海馬は仕事をしない。
「ちょっと行って挨拶してくるだけじゃないですか、やる気出して下さいよ……全く」
ティナが聞き分けのない子供に手を焼いている。
そんなこと言われても、行ったら行ったで、娘はお前にはやらんっ! とか言われてグーパンされそうだし。
駄々を捏ねながら馬車に引きづり込まれる、曲がりなりにもうちも貴族なわけで、見栄を張るためだけに作られた派手なキャリッジで王城まで運ばれる。
「エディ、着いたぞ」
僕の横に居る父さんと少なからず緊張しているようで、言葉数が少ない。
にしても僕と同じオールバックなのにやたら似合っている、何なんだこの差は。
「へいへい…………グェぅ」
てきとうな返事をしたら拳骨が飛んできた、痛い。
「いいかエディ、お前は今からこの国で一番偉い人に会うんだぞ? 下手なことをしたらそのまま打ち首にされかねないんだからな? 」
心狭すぎるよね、そんなことでいちいち打ち首してたらストレスで禿げそう。ところで打ち首と右乳首って似てるよね、つまりは おっぱい。
頭の中がおっぱいでいっぱいの幸せ状態になった僕は、鼻息を荒くして城門をくぐる。
今日は王座のある王堂には向かわず、王族の私室のある一室に呼ばれる。流石は王城と言うべきか、学園の高等部の校舎さえも安く見える程の煌びやかさである。
この壺とか壊したら僕の人生何回分の借金になるんだろ、マ・○ベさんとかが喜びそう。これはいい物だ。
「じゃあエディ、私はここまでだ。私は話が終わるまで待っているから、くれぐれも粗相のないように」
それだけ言うと父さんは踵を返しスタスタと歩いて行った。
「……え? 」
まさかの父さんが敵前逃亡、呆然としている間に、父さんの背中はもう見えなくなっていた。
父さんが逃げて暫く、仕えているメイドさんに僕は通される。そこは予想よりも質素で、褐色の絨毯に机とソファー、普通の民家の部屋と変わらない部屋だった。
部屋の中央には長方形の机を挟んで向かい合わせに二つのソファー、僕はその片方に座り、運ばれた紅茶をちびちびと飲む。
待つこと10分、ノックも無しに扉が開かれこの城の主が現われる。
僕は慌ててソファーから立ち上がり頭を下げる。契約を取りに来た営業マンスタイル、やったことないから知らないけど。
リーブズ王は僕の前を通り過ぎ、向かい側のソファーにどかっと座る。
「あー、久しぶりだな、エディルトス君。頭を上げてくれ」
意外とフレンドリーな方なのか。僕がゆっくり頭を上げると、目の前の白い髭を蓄え、衰えを見せない体をした老人は和かに微笑んでいた。
「あ、お……お久しぶり、です? 」
尊敬語? か丁寧語? の類いを使おうとしたが、どれが正しいのか分からない、ついでに言えば久しぶりと言ってよいのかも分からなかった。
「まぁまぁ、そう硬くならんでくれ。聞いての通り今の私は一人の親としてここに居るんだよ」
雰囲気からすると僕の頭と胴がパージする必要は無さそうだ、少しだけ緊張が解れる。
「は、はい……えっと、この前の件は申し訳ありません」
以前、サーフィアの婚約を断ったことは少なからずリーブズ王の顔に泥を塗ったのかもしれない。先に謝罪するよう父さんから強く言われた。
「あーいやいや、結果的には君があやつを貰ってくれて良かったよ、……いやほんとに」
そう言うリーブズ王の顔は遠い目をしている、サーフィアさんはわがままっ子だったのだろうか。
「……何かあったんですか? 」
だいたい予想できるが、やはり気になる。
「君にする話でもないのだが、……王権なんて要らないから自由をくれだとか、結婚相手は絶対に自分で決めるだとか、結局私が折れてあやつが学園を卒業するまでは身分を隠し、一般生徒として通うことになっているのだが……
エディルトス君、あやつの手綱はしっかり握っていてくれよ? くれぐれも離してくれるな、それさえ守ってくれれば私は君達を応援する、……サーフィアをよろしく頼むよ」
ガタイの良い老人は両手を膝に乗せ、低く僕に頭を下げる。慌てて僕も机に頭突きする勢いで深く頭を下げる。
ただ、手綱を握っているのは僕では無いし、握られているのもサーフィアさんでは無い。既に尻に敷かれている僕はサーフィアさんに口ごたえできるような勇敢な心は持っていないのだ。
サーフィアさんの逸話を聴くこと暫く、サーフィアさんはサーフィアさんのようだ。
また、サーフィアさんには二人の兄姉がいるようで、第一皇子、つまりは皇太子と第一王女はどちらも成人して各地で活躍しているとか何だとか。
自国の皇族さえ知らない僕にリーブズ王は白い目をしていたが、いずれ会うことになるらしい。
サーフィアさんの兄貴ってことは相当なイクメンなんだろう、何だろうね、僕の周りだけ美形のバーゲンセールなんだけど、爆発しろよ、マジで。
「ーー。……あぁ、すまない、私ばかり話してしまった。エディルトス君も何か有るんだろう? 」
嬉々として娘の自慢ばかりしていたリーブズ王だが、僕の話も聞いてくれるようだ。
「わざわざ陛下にお話することでもないのですが……」
そう前置きして、ヴァヌス・ガレリオン公爵からの手紙の内容、そしてサーフィアさんが許可しなかったことを尋ねた。
陛下は腕を組み、しばし目を閉じる。
「君が我が国の戦力になってくれるのは願ったり叶ったりなのだが……サーフィアが素直に言うことを聞くとも考えれんなぁ」
激しく同意、略して禿同、しょうもない事を考えながら陛下の言葉を待つ。
「……ヴァヌスはなぁ、とても野心家なのだよ」
陛下は渋い顔で腕を組む。
「それは、大丈夫なのですか? 」
貴族で野心家というのはあまり良いイメージがない、反乱を起こして主人公に木っ端微塵にされるのが世の常だ。
「あぁいや、悪い意味では無いよ、彼奴はよくこの国に尽くしてくれている、その上でさらなる国益の為に勝てる戦争をしよう、と考えている」
僕達のゾンネ王国は大陸でも一、二を争う大国である、今でこそ戦争はしていないが、その気になれば小国の一つや二つ、ということらしい。
「……僕としては現状この国に大きな不満はありません、ですので必要以上の殺し合いはちょっと」
僕とて日ノ本の国のゆとり世代だ、戦争を全面反対とは言わないができればしたくない、当事者となれば尚更である。
「私も同意見だ、必要以上の怨恨は残すべきではない。ヴァヌスが君を欲したのも軍事面での強化であろうが、今はその時ではない」
残念ながら僕の『人生エリート計画』は砕け散ったようだ。
「それでなのだが……」
先まで目を鋭くして自国の未来を考えていた政治家の顔から一変、リーブズ王は尻にしかれた親父の顔でまごつく。
「どうかしましたか? 」
話は終わったので、早く帰りたい、あったかホームが待っているのだ。
「いや……サーフィアのことなのだが、来年の卒業後には身の上を明かすのだが、皇族であることを明かす上で、どうしても護衛や直属の部隊が必要になるのだが……」
まぁ、当然だと思うが、それがどうしたのか。未だ察しの悪い僕に陛下は溜息を付いて続ける。
「サーフィアが君をそのトップに立てたいそうだ」