夢の続き
50話 ブクマ100件達成しました、ありがとうございます!m(__)m
これからも何とか……何とか…頑張りますよ、ハイ
喧騒から少し外れたここには今、人の姿はない。
いつの間にか見つめ合った僕とサーフィアさんは、お互いに目を閏わせて離せない。
ついにサーフィアさんは目を閉じて首を少し前に突き出す。何か塗っているのか、程よく濡れたサーフィアさんのピンク色の唇に引き寄せらる。
後半歩、僕の瞼も少しずつ閉じ、長い睫毛が風に吹かれて揺れる。
「ちょっと……何やってんの? 」
突然現れた影に僕とサーフィアさんはビクリと飛び上がって離れる。
そこには残念なものを見る目のシタさんがいた。
昨日僕に折られた腕を包帯で釣り、ところどころある顔や体の傷に、白い湿布のようなものを身体中にペタペタと貼っている。
僕は残念と思う反面、少し安堵している。僕のメンタルはまだサーフィアさんとキスできるほど強くはない、これから強くなる予定もない。人前でキスできるリア充ってほんとすげぇな、パネェっす。
しかしサーフィアさんは心底ガッカリしているのか、親友のシタさんに牙を剥く。
「シタ……貴女は私の恋路を邪魔するというのね、……万死に値するわ」
万死に値するとか、どっかのマイスターじゃないんだからさ。
「はいはい、落ち着きなさいサーフィア。ほら、周りを見るっ! 」
シタさんはそう言って、グルルと唸るサーフィアさんの背中をパシリと叩く。
僕もつられて周りを見ると、さっきまで誰も居なかったはずの広場にはぽつりぽつりと、鼻の穴を膨らませてこちらをチラチラと見る少年少女達が居た。
途端サーフィアさんは、湯気が出そうな勢いで顔を赤くし、涙目を揺らしながら俯く。
「「「「おおぉーーーーーーっっ」」」」
サーフィアさんのギャップに外野共が湧く、僕も湧く。
クラスメイトの前で僕を剥こうとしたくせに、これはあれだ、人にやるのはいいけど自分がされるのは免疫がないタイプだ。
居るよね、尻に敷かれたくてツンツン女子と付き合ったのに、恋人関係になった途端デレデレになる子とか。……僕は何を言っているんだろう。
「ちょっとサーフィア、貴女のペットが鼻の下伸ばしてるわよ」
ん? 僕のことかな? まぁいいや。
「そ、それで……シタは何をしに来たのかしら? 」
顔を紅潮させたままサーフィアさんは強がる。
「たまたま通りかかった所で知り合い二人が盛ってたらそりゃあ止めるでしょ? 」
盛ってたって……まぁそうだけどさ、止めるかな? 僕はコソコソ覗いてニヤニヤするタイプだ。断じて変態ではないから、誤解しないように。
「失礼ね、私達は今から愛を確かめ合おうとしていただけよ」
サーフィアさんはいつもの調子に戻ってきたのか、発言が過激になる。エロフィアさんだ、口に出したら殺されそうだ。
閑話休題
鼻息の荒い野次馬共を追い払い、僕達は再び人気のない場所を探して歩く。
別に変なことをするつもりはない、ただ僕もサーフィアさんも否が応でも目立ってしまうため、なかなか落ち着いて話せない。
祭の喧騒から随分と離れ、僕達の学ぶ初等部の裏側、素行の悪い生徒達がたむろう細い通路とベンチ。
薄暗いそこには誰にも居らず、白い壁とフェンスの間にベンチが並んでいるだけだ。
よっこいせ、と僕とサーフィアさんは腰を下ろす。
腰まである美しく真っ直ぐのブロンズの髪、神の造形と言っても過言ではない横顔、ほのかに香る程度の甘い香り。どれを取っても僕には勿体無い程の女性だ。
赤錆に蝕まれたベンチに座ってもなお、輝いている。自分がこの人の横に座っていいのか、こんな甘ったれの自分が。そんな気分にさせられる。
陰険な思考を飛ばすため、頭をぶるぶると横に振り、脳みそを空っぽにする。ない頭を振り絞るより空っぽにして柔軟に対応していく方がいい。……うん、僕今ちょっといい事言った。
「どうしたの? 」
僕の奇怪な行動にサーフィアさんが少し頭を傾ける。
少しだけつり目の力強い目元を緩め、いつもの我が物顔を隠し、気品のある柔和な笑みで僕の顔を覗く。
僕と二人きりのときにだけしてくれるサーフィアさんの表情だ、おふざけの主従関係でなく同等に扱ってくれる気がして誇らしい、同時に少し焦ってしまう。
「あの……実は昨日こんな手紙が届きまして」
先日、顔も知らぬヴァヌス・ガレリオンさんから届いた手紙を見せる。既に独断で決めることはできない、未来の妻に就職先を知らせぬ訳にはならないのだ。
ところで「妻」と「嫁」ってどう違うんだろう、僕は「嫁」の方がピチピチして若々しい感じがするから好きだ。若くてかわいい画面越しの彼女を「俺の嫁」なんて言っていたからかもしれない。
そんな頭からヒマワリが生えてきそうなことを考えていると、サーフィアさんが僕宛の手紙を読み終わった。
「ダメよ」
と一言。
「……サーフィアさんが見合う人間になれって言ったじゃないですか」
さっきと違うぞー、おらおらおらぁー。
「それとこれとは違うわ、私がこの男を嫌いなの。だからこの男に愛する夫を任せることはできないわ」
完全に私怨じゃないですか。
あと、ちょくちょく愛するとか愛してるとか、さらっと言わないで欲しいです。流してるけどドキドキします。
「ぅーん……でも、悪くないと思うんですよね」
ちらっとサーフィアさんを見る。
「悪くないってさ、軍属になるのよ? 甘ったれのナヨナヨエディ君が? 無理でしょ」
サーフィアさんが若干馬鹿にした流し目を僕に送る。
なんて失礼なんだろう、でもまぁ、確かに。僕が軍に入って筋トレして愛国を叫ぶ? 何それ、意味わかんない。
「でもでもだって、勿体なくないですか? こんな美味しい話」
例えるなら東大に名前書いたら入れるとかそんな話である。
「……そんなにここに行きたいの? 」
サーフィアさんが情に訴えるような目をする。
「いえ、そうゆう訳ではないんですが……目の前に楽な道が転がってるのに、わざわざ自力で不確実なモノを探す必要があるのかなって……」
もっと頑張ればより良いモノが手に入る、……かもしれない。
かもしれないモノに頼らなくても、何で今で満足できないんだ。どうせ人類99%は居てもいなくても何も変えれない人間だ。現状を受け入れて身の丈に合った幸せでいいじゃないか。
僕も同様に、少なくとも騎士団に入ればサーフィアさんの夫として恥ずかしくない程度の地位も名誉も、二人の妻を幸せにできる甲斐性だって手に入る。
「……エディ君には夢とか、そうゆうのって無いの? 」
「夢? ですか、……そうですね、特に無いです。別に強い拘りのために苦しまなくても、今が幸せならそれでいいです」
確か……昔は色々と有った気がする、成りたい職業、やりたいこと、その他諸々。
しかしその為に何かを捨ててソレに向かって走り切る程の情熱を僕は持ち合わせていなかったし、今から考えたら「夢」というのもおこがましい。
敢えていうなら、この世界でサーフィアさんとティナを幸せにすることが僕の夢だ、恥ずかしいから口には出さないが。
「前から思ってたんだけどさ、何でそんなに捻くれてるの? そうゆうのがかっこいいとでも思ってるのかな? 」
サーフィアさんは少し怒ったような、向上心の欠片もない僕に苛立っているようだ。
「……ごめんなさい」
図星を突かれた気分がして恥ずかしくなる。
「……す、素直なのね」
シュンとした僕にサーフィアさんは毒気を抜かれたようで。そのまま俯いていると、サーフィアさんはアワアワして慰めるように僕の頭を撫で始めた。うふふ。
「強く言ってごめんね、……でも私からもお願いがあるの」
そう言ってサーフィアさんは、僕が貰った手紙と同じ刺繍がされた、もう一通の手紙を僕に手渡す。
「明日、城に招待するわ」
僕が手紙を読む前に、サーフィアさんが内容を伝える。




