尽くしてくれた貴方へ
男の娘設定要らないだろとか思ってるそこの貴方! 私の趣味です。
日が沈みかけのオレンジ色の空の下、左右には鮮やかだが上品な植物たち、正面にはその美しい風景を台無しにする地龍の卵。
その殻には子供達の落書きだろうか「エディの卵」と書いてある、僕が産んだ訳ではない。
腫れた左頬を抑え、僕のこの耽美な顔に傷を付けた張本人を睨む。
「……主人に手をあげるとはいい度胸だな? 」
「職場でのパワハラとはいい度胸ですね、御主人様? 法廷までお供しましょうか? 」
多分、いや確実に負けるので普通に謝る。謝罪一つで絶壁とは言え美人のティナにセクハラできるならコストパフォーマンスは素晴らしい。
「全く反省していないでしょうが、今更なのでもういいです、御用は何ですか?」
ティナは花壇の土で汚れたメイド服をパンパンと叩き、半目で僕を睨む。どうにか会話をしようと行為に至った、自業自得だがここから真面目な話に持っていくのは苦しい。
「えっとぉ、ちょっと長くなるから僕の部屋で話さない? 」
真面目な雰囲気はできるだけ隠しながら、少し不自然にティナを誘う。
「……分かりました、身なりを整えて後ほど伺います」
何か感じ取ったのか、ティナは何時ものような冗談も言わず淡々と応える。
部屋に戻って数分、二度僕の部屋の扉がノックされる。
「入っていいよ」
普段はこんなこと言わないし、ティナはノックすらせずに僕の部屋に入ってくる。ごにょこにょしてたらどうするんだよ全く。
先ほどまでのメイド服とは違い、寝着だろうか、ティナは薄いピンク色の上下を着ている。
僕の部屋には対面で話せる机や椅子もないので、僕とティナはベッドに横並びに座る。
「……今日の試合のことですか? 」
既に陽は沈み、魔法を照らす街灯が僕の部屋に光を射し込む。
「いや、そのことはあんまり気にしてないよ」
ティナは意外そうな顔をする、負けず嫌いの僕を知っているんだろう。
「ねぇ、ここ辞めるの? 」
まどろっこしいのは嫌いだ、こうゆうのは直接聞くに限る、と思う。
目を合わせて会話するのも苦手だ、見透かされてる気がして気持ち悪い。それでもジッとティナの目を見る。
「……許可は頂いています」
ティナは誤魔化した返事ではぐらかす。
僕の質問に一瞬目を見開いた彼女だが、直ぐに何時もの冷たい仮面をして、感情を隠す。
「そんなこと聞いてるんじゃない、辞めたいのか辞めたくないのか、どっちだよ」
僕は短期な方で、ティナがどう思っているか、憶測でなく本当のことを知りたい。分からないことは怖いから、知って安心していたい。
「僕のことが嫌いならとっととどっか行けばいいだろ、 そうじゃないなら母さんに言われたぐらいでウジウジするなよっ! 」
少し熱くなった僕に、ティナは驚いた表情をした後迷惑そうに顔を歪まず。
「……エディ様は、自分のことだけでなく人のことも、少しは考えてはいかがですか? 」
ティナは膝の上で握り拳を作り、俯いて僕を批難する。
「うるさいな、泣いて喚いて怒って、それで同情かって相手に話して貰うのが僕のやり方なんだよ」
みっともないのも、自分勝手なのも分かってる、それが他人を傷つけることも知っている。それでも自分が一番かわいい、他人を傷つけてでも安心したい。
「何ですかそれ、本当に迷惑ですねっ、 何にも知らないくせに」
ティナは苛立ちを隠そうともせず、僕に毒を吐く。
「教えてくれないと分かんないだろ、好きか嫌いかの二択くらい自分で選べよ」
ティナにこんな酷いことを言うのは初めてだと思う。
「エディ様だって、 サーフィア王女様から婚約されたとき二択も選ばなかったじゃないですか、自分のことばっかり棚に上げて、自分の都合がいいことばっかり私に求めないで下さい」
「……じゃあどうしろって言うんだよ、僕からティナにあげれるものなんて何にも無いんだよ……何で今更見ず知らずの奴のところにいこうとするんだよ、僕の何が不満なんだよ、できることなら何でもするからさぁ」
僕がティナを言いくるめるつもりだったのに、いつの間にか僕の方が責められる。
「……エディ様はどうして、そこまで私に拘るのですか? エディ様が幼少の頃から勤めているメイドなら私の他に数人居ますし、もし容姿と言うなら、私なんかよりミシェルなどの方が若くて愛らしいかと……」
ティナの表情が徐々に暗くなる。
「……どうしてって、そんなの好きだからに決まってんじゃん、今まで散々僕に尽くしてくれたティナをはいそうですかって誰かに渡すなんて嫌だ」
いたって普通の感情だと思う、歳は離れているがそれでも若いティナは所謂幼馴染みたいな感覚だった。そんな簡単に割り切れるものでもない、と思う。
ティナは苛立っているのも忘れたように、僕の言葉に目を見開いく。
「そ、それは家族というか、そうゆう親愛的なものでしょう? 」
ティナの声が少し上ずる、微妙に期待しているようなそんな声だ。
「それもあるけど、全部ひっくるめてだと思う。恋とかはまだよく分からないけど、ティナが誰かと結婚するって言うくらいなら僕がティナを貰いたい」
口からペラペラと青くさい言葉が出てくるが、恥ずかしいとかの感覚が鈍っている。とにかく今がティナを連れ戻すチャンスなんだと思う。
「えっ?……あっ……ほ、本気なんですか? 」
いつもは澄ました顔で僕を罵倒するティナが今は口がニヤけるのを我慢しながら何度も僕に確かめる。
「うん、僕はティナのこと好きだよ、女性として」
ついにティナが我慢できず座っていた僕のベッドに倒れ込み、枕に顔を埋める。後ろからでも耳が赤くなっているのが分かる。
……え、ティナって結構僕のこと好きなんだ、はぁ〜へぇ〜……
「…………ふぅ。では、明日の朝にはエメリア様にはご報告を。お休みなさい、良い夢を」
ティナは僕の枕に満足したのか、一息つくとそのまま立ち上がり、僕の枕を脇に抱えたまま部屋を出て行く。
……パタリ、パタリッて扉を鳴らしてティナはさっさと僕の部屋を出た。扉の向こうでティナの鼻歌が遠ざかるのが聴こえてくる。対する僕はポカーンである。
何だか言質を取られた気分だ、まぁ特に悪いのことも…………ある。
さっき、 昼、 まさに今日……サーフィアさんと婚約したんだった……
まぁこの世界は重婚も認めらてはいるが相手が認めてくれるかは別問題。
サーフィアさんが認めてくれるか……まぁ無理ですよねぇ。頭と胴がさようならする。
ーーーー
チュンチュン
朝である。
結局、おめでたい日だというのに僕は一睡もできなかった。決して嬉しくてではない、恐怖に震えてだ。さらにティナに枕も持って行かれた。
ノックも無しに僕の部屋が開かれる、ここ最近は子供達が起こしてくれていたのだが、そんなこと無かったかのようにティナが僕を起こしに来た。
「……あら、起きていたのですね、おはようございます。エメリア様が呼んでいましたよ、それでは私は先に戻ります」
ティナは既にいつも通りだ、母さんが呼んでるということはもうティナが報告したのだろう。そして今日の朝にもサーフィアさんからの婚約届けが届いているだろう……うわぁ。
できるだけ時間をかけて服を着替える。余談であるが、今年で精神年齢が三十路前の僕は同年の両親になかなか叱られたりする、これは多分精神が肉体に引っ張られるとかそうゆう現象だ、ハイQED
どうでもいいことを考えながら母さんの元を訪ねる。
「おはようございます母さん」
母さんの部屋をコンコンとノックして扉の向こうへ挨拶する。
「……おはようエディ、入ってらっしゃい」
いつもより2割り増しに低い母さんの声が聞こえる、このトーンは激おこモードにちがいない。
覚悟を決めて扉を開き、母さんの部屋に入る。何かの花だろうか、爽やかな香りが僕の鼻を通り過ぎる。29歳の母さんはまだまだ美しく、贔屓目に見てもとびっきりの美人だ。心の中でお世辞を言って母さんのご機嫌をとる準備をする。
「おはようエディ君、昨日ぶりね」
なぜか母さんの部屋にはサーフィアさんが居た。