二回戦
42話にしてやっとルビの振り方を知りました……
随時修正していきます。
楕円形のアリーナの周りを囲むように大勢の観客が叫び、笛を吹き、ヤジを飛ばしている。
そんなステージのど真ん中で僕は立っている。ここからは観客の一人一人がよく見える。
人の目に晒されるのはまだ慣れないけれど、それでも自分が今主役になっている、昨日は感慨にふける余裕が無かった。例えばどれだけの人間が生きている内にスポットライトに照らされるのだろうか、今の僕だって大したことはない、たかだが学校の学園祭のステージと同じだ、それでもそんなちっぽけな光すら当たらない人だっている、それが僕だった。だからスポットライトは蛍光灯くらいで十分だ。
夢にまで見た自分の為のステージ、皆が僕を見る、きっと多くの人が僕のことを記憶に残すだろう、それだけでも生まれ変わった価値があると思う。
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『本日はビオス魔法祭二日目っ! 司会は昨日に引き続き私とマイルとその妹ラルでございますっ!! 』
『ございま〜す』
マイルさんの司会がスピーカーから放たれ、やかましかった観客達がいっそう盛り上がる。僕は見ていないけど二回戦にもなると見応えのある試合が増えるそうで、昨日は虫食い状に空いていた空席が今日は見えない。
『それではさっそく選手紹介に入りましょうっ!!
まずは昨日余裕の勝利を果たしたエディルトス選手っ!! どうやら今日は魔導具を変更してきたご様子、どんな戦いになるのでしょうかっ!? 』
『あ、そうそうお姉ちゃん、その魔導具についてお便りが来てるよ〜』
『どれどれ……ふむふむ、PN ”エディ君の彼氏” さんからです』
『闇が深いね〜』
何してんだあの人。
『 ”私がエディ君にあげた魔導具は二重効果という能力で、使用者の使った魔法を自動で複製し発動する効果よ” らしいです、つまり単純に全ての魔法が二倍、という訳ですね、あーズルい』
『もう鬼に金棒どころか鬼に魔導具だね』
その例え分かりにくいよ。
しかしとんでもなないチートアイテムだな……こんなものつけて爆発魔法とか使ったらレーナ先生も怒りで爆発しそうだ。
『そして対するはこの人っ! 我ら高等部次席、噂では腐ってるとかそうでないとか?! シタ選手で〜っす!! 』
『いや〜、シタはエディ君の実力知ってるだけに当たり運が悪いね〜』
あ、今日の相手ってシタさんだったんだ、サーフィアさん教えといてくれたらよかったのに。
「エディ君久しぶり〜 最近サーフィアが迷惑かけてるみたいでゴメンね? 」
「お久しぶりですシタさん、知ってるなら止めてくださいよ……」
「止めても止まらないから無理だよ〜」
『こらー、二人とも仲良くおしゃべりしてないでさっさと初めてよっ! はいスタートッ!! 』
突然の試合開始に僕は驚き、後ろに下がり距離を取る。魔導具は二つまでのルールがあるので今日はグラヴィティブーツは履いていない、機動力がある方がいいのだが、ただ刀を持ちたかった。それだけだ。
しかし後ろに下がった僕に対してシタさんは真っ直ぐ僕の方に突っ込んで来る。
日々近接戦闘の鍛錬を積んでいるシタさんから素の運動能力で勝てるわけもなく、あっという間に追いつかれ、シタさんの振るう二刀流のダガーを魔法刀と拙い剣技で捌く。
魔法刀より短いダガー二本を器用に振り回され、僕は魔法刀を振ると言うより盾にしながらジリジリと下がる、ここまで接近されると魔法を使う隙がない。
元々魔法は魔力を用意し、使う魔法を想像したあと、撃つ座標を固定しなければならないのだ。
「……ふっ……エディ、君のっ! ……弱点は知ってる、からねっっ!! 」
刃と刃がぶつかる鈍い音が鳴り、僕はアリーナの隅に追いやられる。これって魔法で戦う競技じゃないの?
「エディ君は魔法でアイスバリアを張ってからじゃないと絶対戦わないチキン野郎だからね、魔法さえ使わせなければただの子供だね」
酷い言われようである、確かに言われてみればそうだけども。
ジリジリと後退して遂に逃げ場が無くなった、シタさんは魔法を警戒しながらゆっくりと近づいてくる。
「……ほ、ほら。魔法の試合ですよ? 魔法使いましょうよ魔法……暴力反対」
「エディ君に魔法で勝てるわけないでしょ、ほら、早く諦めなさいよ」
そう言いながらダガーを構え直す、隙が無い構え……かどうかは武の心得がない僕には分からない。
「はっ……! 」
もう後ろに下がれないので一か八か魔法刀を振り被る、ガンッガンッと二度振るがシタさんは難無く弾き返す。
そして次は横に一太刀、今度は魔法を使いながらだ。
なまじ斬れ味がいいので忘れがちだが魔法刀だって立派な魔導具だ。魔法刀に魔力を流し込み、氷魔法を刃に纏わせながら横に振る、指輪の魔導具を付けた左手がポッと暖かくなる。
これをもしシタさんが魔導具で防いでも魔導具ごと凍らせてしまえ、という作戦だ。
「やばっ……!! 」
しかし修行歴1ヶ月の素人の一振りなど簡単にかわされ、シタさんは二度バックステップを踏みながら僕から離れる。
だが驚くべきは指輪の魔導具の威力、一回分の魔力で二回魔法が出た、メガ○ルーラみたいだ、もう古いか。
僕が魔法刀を振ったその扇状に氷柱が並び、アリーナの三分のニ程度が氷漬けになった。
『お、おおっ〜〜〜っっ!!! 先程までの泥仕合とは一変! これまた凄い魔法が出ましたっ!! 』
自分でもこんなことになるとは思っていなかったが、とりあえず計画通り風にしておく。
「……エターナルフォースブリザード、相手は死ぬ…………ふふっ」
言ってみたかった、死んでないけど。
『技名は ”エターナルフォースブリザード、相手は死ぬ” らしいですね〜』
あ〜やめて恥ずかしぃ……
新たな黒歴史を代償にシタさんとの距離が取れた、今度こそ襲われる前にアイスバリアを張る。さらに指輪によりアイスバリアが二重になる。
「…………チキン」
シタさんが半目でぼそりと呟いたのが聴こえた、今度は精神攻撃でくるとは卑怯な。
しかしもう大丈夫、アイスバリア2枚あればもう何も怖くない、我は無敵である。
同時にアイスバリアの球体内で、魔法刀を持つ無意味さに気付く。
盾ができたことに大きくなった僕は先程までとは逆に果敢に攻めたてる。
「岩石砲!! 」
地龍にされた魔法を真似し、拳大の岩の塊をシタさんに向けて放つ。もっと大きく出来るが、それをすると当たったとき大変なことになる……
しかし高笑いをしながら魔法を撃ち出された魔法は全て躱される、シタさんと僕では戦闘経験が違いすぎるのだ。
シタさんはアリーナの縁を沿うように走り、それを追うように僕は魔法を連射する。
『お〜、一気に攻守が逆転しましたね、魔導具と才能の暴力ですなぁ』
『これで初等部とかさ、学園にいる意味が分からないよね』
二人に悪いことをした覚えはないが、言われたい放題である。そんな実況とは思えない放送を聴き流しながらシタさんを岩石砲の乱射で狙うが、動き回るシタさんには一向に当たらない。
数撃ちゃ当たる、はず。指輪のおかげで魔力の消費もそれほど多くないのでさらに岩石砲を増やす。
一点狙いでは当たらないので、散弾のように拡散させながら魔力を放つ。
『おぉ?! エディルトス選手がさらに魔法を増やしました、ノーコンを数で埋める作戦のようですねっ!! 』
僕がノーコンなんじゃなくてシタさんが凄いからに違いない、きっとシタさんはドッジボールで最後まで残るタイプ。
流石に面に広がる弾幕を全て躱さすことはできず、被弾とはいかないがシタさんの顔を歪める程度には擦り、少しずつダメージを与えている。
互いに大きく距離を取り、僕は魔法を止め、シタさんも脚を止める。魔法を撃つことは息を吐くのと同じ感覚である、クールタイムを取り次で仕留める準備をする。
「……やっぱり凄いねエディ君」
「でしょう? 」
最近になって調子に乗る悪い癖に気付いたがなかなか治らない。
「……一度は追い詰めたし私的にはもう及第点だけど、もうちょっと頑張ってみるね」
「できれば頑張らないで欲しいんですけどね…… 」
短い掛け声と共にシタさんは二本のダガーを両手に、一直線に僕の方へ駆けて来る。
「岩石砲っ(ロックブラスト)!! 」
「風刃っ(ウイングカッター)!!! 」
シタさんは僕の岩石砲を風刃で弾きながら、とこどころ被弾しながら猛スピードで距離を詰めてくる。
僕まで残り50メートルほど、氷結層を張っているので詰められても恐らく問題無いが、辿りつかれたら負けな気がする。
残り40メートル。
「氷柱槍!! 」
「土流壁!! 」
シタさんは自分の数メートル先に土流壁を造り、僕の氷柱槍を防ぎ、それが破壊されてたらまたその先に建てる。
残り30メートル。
「流星群っっ!!!!」
今日一番の大技、アリーナの上空に浮かんだ直径1メートルほどの無数の岩塊が、まるで隕石のように地面に降り注ぎ、シタさんを襲う。
岩塊の落ちる轟音と土煙で音も前も良く見えない、しかしシタさんは片腕を押さえながらも脚を止めない。
「……風圧っ」
目の前2メートルのシタさんが息も絶え絶えで魔力を振り絞る。
風魔法の初級の初級、風圧が僕の背後から吹き、氷結層に囲まれた僕はグンッと前に押し出される。
「?! ……ぐっ!! 」
ついにシタさんとの距離がゼロになる、シタさんは氷結層に掌を添える。
それでも氷結層があれば大丈夫、僕はシタさんに向け再度魔法を準備する。
「……はぁ、はぁ、はぁ……私の、勝ちね」
氷結層に手を付けたシタさんはそのまま風刃、と唱える。
氷結層の中で発生した風刃がフッっと僕の制服の襟を切り裂く。
「……マイリマシタ」
僕は二回戦で負けた。