ビオス魔法学園 魔法祭
今日はここまでです。
まるで集中できない、ティナが見合いをすると聞いてから何にも手がつかない。今だって目の前でレーナ先生が何やらクドクド言っているが僕の耳には入らない、右耳から左耳へさようなら。
あぁそうだ、僕が学園を爆破したあと、局地的豪雨に晒したことをレーナ先生と学園の先生達が怒り心頭。
今度こそ僕を反省させようと僕はここ数日毎日呼ばれて説教されている。いや別にワザとじゃないし毎回反省してるんですよ? そもそも今回の僕は寧ろ消火活動をしただけです。
……というか、今そんなことはどうでもいい。ティナが、ティナがいなくなる。
「 ……今回は反省しているようですね」
何時になく元気のない僕を見て、レーナ先生は反省していると勘違いする。いつもなら嬉しいけど今はそれどころじゃない。
「まぁまぁレーナ先生、今日はこれくらいで……エディルトス君もこの後試合があるのですから」
あぁ、そういえば今日からか。楽しみにしていたのに今年の魔法祭は楽しめそうにない。試合があるんだった、今になってシード枠を無くしたのが悔やまれる。こんな調子で上手く戦える気がしない。
「……今日はこれくらいでいいでしょう、エディルトス君の試合は午後からなので準備はしておいて下さいね」
そう言ってレーナ先生は僕を解放する。今日から魔法祭が始まった学園には、広場やグランド、所狭しと露店が並び多くの生徒や来賓でごった返している。
もちろん僕が高等部の校舎に開けた穴は魔法で閉じて目立たないようにしてある。
「エディ君が落ち込むなんて珍しいですね、そんなに絞られたのですか? 」
レーナ先生に解放されたものの、祭気分になれない僕が無意識に自分の教室に帰るとクロナが残っていた。すでにホームルームは終わり生徒達は各々魔法祭を楽しんで良いはずなのだが。
「……ほとんどクロナのせいなんだけどね」
「うっ……だ、だからこうして残ってるんじゃないですか! 」
「まぁ、そっか、ありがとね」
「やっぱり、最近のエディ君変ですよ? いつもそうなら可愛げがあるのに」
最近クロナがお姉ちゃん風を吹かせてくる。このくらいの歳だと女の子の方が心の成長が早いのだろうか。
あと僕は可愛い、それくらいしか取り柄がないからね。
なんか悲しくなってきた。
「はいはい、どーせ僕はウンコ野郎ですよー」
「そこまで言ってないのに……」
何と無く、じっとしているのも勿体無い気がしたので魔法祭の気分だけでも味わおうと教室をでる。クロナもそれに続いて僕の隣を歩く。
「せっかくですから一緒に回りませんか? 」
「ん、ありがと」
初等部を抜けて噴水前の広場に出る。数々の食べ物の屋台から祭りらしい娯楽、あちこちから客寄せの声が聞こえて少しだけ楽しい気分になる。
「エディ君、これなんかどうですか? 」
クロナが出店の一つから何やら銀色の物を手に取って訪ねてくる。
「魔導具か、こんな物までここで売ってるんだね」
「魔法祭ですから、一応」
クロナが手にしていたのは1メートルほどの長さの銀色の棒の先に鳥の羽根の様な装飾が施された杖だった。そういえばクロナはまだ自分の魔導具を持っていなかった。
「おっちゃん、これの素材は? 」
魔導具で大事な物は素材である、銀が魔法の電導率が良いとされている。僕のグラヴィティブーツは銀だけで作ったがよく調べたところ、他の金属との合金にした方が高性能になるそうだ。ティナの魔法刀なんがが良い例だ。
「そいつは銀とニッケルが4対6でできた魔導具だよ、値段は金貨2枚」
金貨2枚と聞いてクロナがビクッとする。魔導具としての性能は良さそうだが日本円で20万円、ほいほい払える物でもない。
クロナがガックリしながら店に魔導具を戻す。
「小説では男の人がパッと払ってプレゼントしてくれるのに……エディ君お金持ちなのに」
クロナが訳の分からないことを言って口を尖らせる。20万円パッと払う男の人とか怖いんだけど。
「クロナの壊した校舎が金貨2枚じゃ済まないんだけど……」
「じゃ冗談だよー」
あ、クロナが涙目になった、かわいいな。
「ま、クロナは僕の弟子みたいなものだしね。今度僕が作ってあげるよ」
金属こねこねとかしてみたい。
「え!? あ、ありがとう」
よっぽど嬉しいのかクロナの顔が赤くなる。僕って前世でも友達少なかったし、友達にプレゼントとかしたことないんだよね。贈る側なのに楽しみだ。
「そ、そう言えば! エディ君は一回戦の相手ちゃんと調べてきましたか? 」
「え? そんなことしないといけないの? 」
最近それどころじゃなかったし、まぁ多分大丈夫でしょ。
「はぁ、万が一にも負けたらどうするんですか? 色んな人がエディ君に期待しているのに」
「……そんなのどうでもいいよ」
勝手に期待して失望するなんて迷惑でしかないんですよ?
「そんなことだろうとは思ってましたけどね、怪我はしないでくださいね」
ならはじめからそう言って欲しかったです。
ーーーー
『生徒の皆さん、御来賓の皆様! 魔法祭楽しんでいますかーー!? 只今よりこの魔法祭のメインイベント、ビオス魔法学園御前試合が始まります! 司会は私マイルとその妹のラルでーすっ! それではさっそく一回戦の選手の入場で〜すっ!! 』
選手控え室にも放送が聞こえてくる、マイルさんとラルさん、最近会ってないな、元気そうだね。というかマイルさんの方がお姉ちゃんだったんだ、知らなかった。
そんなどうでもいいことを考えながら控え室を出てアリーナの入り口をくぐる。
会場はここ、アリーナ全体は土色、漫画等でよく見るコロッセオの様な闘技場だ。周りには階段状の観客席、まだ一回戦にも関わらず観客席はほぼ全て埋まっている。
『第一回戦の選手はこちらっ! 生徒からは初等部の天使! 教師陣からは歩く害悪! 優勝候補のエディルトス・ディアマン君でっーーす!! 』
『わーパチパチー 』
歩く害悪ってなんだよ、そんな風に思われてるんだ。まぁいっか、ラルさんは仕事しようね?
『対するは高等部二年、スコッティ・ボックス選手ですっ! スコッティ選手はボックス子爵家の次男さんですね〜、二年で出場ということでなかなかの実力者です。とても楽しみですね! 』
『ねー』
マイルさんの紹介と共に僕の反対側から男子生徒アリーナに入ってきた、身長170センチ程で細身、懐かしい黒髪黒眼にメガネをかけている、日本にいても違和感がないような生徒だ。
ス…ス、スズキ先輩は杖型の魔導具を一つ手に持っている、この試合で使える魔導具は一人二つまで、しかし当然二つ併用するのは難易度が高い。
僕は脚にグラヴィティブーツ、手にはティナから借りた魔法刀。やっぱり日本男児はいくつになっても剣が大好き、子供は傘を振り回し、大人も駅のホームで素振りをしている。
『では両選手、位置について下さい! 』
僕達はお互いの距離50メートルほどの地点に向かい合う。
『それではっ! 試合かいs
「死ぃぃいねぇぇぇええええっ!!!! 」
……へ?
『おおっとスコッティ選手! フライング気味の先制攻撃だぁーっ! 何やらエディルトス選手に私怨がある模様! ヤッちゃう勢いで風刃を撃ちまくるぅっ!! 』
え? この試合殺しちゃ反則だよね? あの人目がヤバいんですけど、誰も止めないの?
鬼の形相で乱射してくる魔法をアイスバリアを盾に、腕を組みドヤ顔してみる。
『しかしエディルトス選手は余裕の表情っ!! 』
『ちょっとウザくてかわいいね〜』
「はぁはぁはぁっ……」
『おっと早くもスコッティ選手魔力切れかっ? 先ほどまでの猛攻が止まってしまいました! 』
『あのアイスバリアがチートだよね〜、360度全方位バリアに自動でエディ君に付いて動くんだよ? あんなの無理無理』
『ラ、ラル……実況してよぉ……』
このまま倒してしまってよいのだろうか……勝手に魔法使いまくって勝手に魔法切れ起こして開始5分で丸腰状態、一体僕に何されたんだよ。
「あ、あの、倒しちゃっていいんですか? 」
『あっ、はい、どうぞどうぞ』
眼力だけは衰えず、ぐるると唸るスズキ先輩の額にスーパーボールくらいの石を飛ばして当てる。
ポコッという音と共に先輩は倒れ僕の勝ちとなった。
何だこれ。
しかし僕の内心とは裏腹に会場は大盛り上がりとだ、先輩が大暴れしたせいで一見派手な戦いに見えなくもない、アイスバリアしゅごい。
そんなこんなで無事二回戦に進出、確かトーナメント式で4回勝てば優勝、三回戦からはリーブズ王が御覧になるらしい。
クロナは僕がちゃんと戦えるためにわざわざ連れださてくれたのかな、感謝しないと。
ティナの事もどうにかしないと……でもまだ時間はある、辛いことや悲しいことは後回し後回し、今苦しくなって時間が経てば何とかなる、今までだってそうやってきたし実際何とかなってきた。今ティナがいればそれでいい、後回し後回し。きっと何とかなるさ……