偽物の天才
どうやら魔力切れが起きたらしい。
というか魔力って概念があるらしい……修行とかしたくない。
「エディ⁉︎ 大丈夫⁉︎ 怪我はしてない⁉︎ 」
母さんが泣きそうな声が聞こえる。
目を開けると両親が心配そうに見つめている、心配をかけてしまい申し訳ないのと同じに、自分のことを心配してくれる人が居ることを嬉しく思う。
「いったい何をしたんだ!? まだこの子の魔力では火も起こせないはずだが……」
「今はそんな事どうでもいいでしょ⁉︎ エディが大変な目にあったのよ⁉︎ 」
愛が重い、僕自身特に異常がないだけに母さんが心配性に思える。
正直なところまだ母さんを母さんと呼ぶことに少し抵抗が残る、別に前世の家族に未練など無いのだが、自分と元同い年の女性を母さんと呼ぶには少し気恥ずかしい。
「だが……あの爆発は間違いなくこの子がやったのか? 」
「えぇ……私が少し火を出す魔法を見せただけで、本当に天才なのかしら」
おぉ、これぞ転生した我が子は天才設定、今世のスタートダッシュは成功だ。
「まだ言葉も話せないはずだぞ……だがこの子をこのままにしておくのは少し危険だな……」
「ぉえんぁあぃ(ごめんなさい……)」
さすがに家を壊したことを謝らないわけにはいかない。
「もしかして本当に私達の言葉が分かるのか? 」
「ぁい(はい)」
「……本当に理解しているんだな」
(……何故かこの世界の言葉が日本語にきこえるんだなこれが)
結局部屋を吹き飛ばす魔法が使える赤子をそのままにしておく事もできず、両親は屋敷に仕える女性をお目付役にした、まぁ当然だ。
メイドである、やったねっ‼︎
お目付役となったのは今年で13歳となるメイドでティナという名で身長が150㎝くらい、灰色でセミロングの髪をハーフアップにした小柄な少女だった。
どうやらこの子は屋敷の使用人見習いのようで、ディアマン家に人材の余裕はないらしい。
「エディルトス様、魔法なんて使わないでくださいね? 何かあったら私のクビが飛ぶんで」
両親は人を見る目が無いのだろうか? 3歳児にこんな奴をつけるだろうか、なんと言うか13歳にしては冷たい子だ。
まぁいい、かわいいから許そう、かわいいは正義だ。
「……ぁーい」
「……本当に言葉が分かってるんですね」
知らずに言ったのか、いい性格してるな。
だが魔法は練習しなくてはならない、何せ魔導書によると魔力は使わなければ増えないそうだ、しかも日常的に魔法が使われるこの世界、割とみんな魔力を鍛えている。
一刻も早く差をつけなければならない。
でも修行とかほんと勘弁だよなぁ……
修行・練習・努力・その他諸々。
今までずっとしてきたつもりだった、前世でずっと好きだったバンドをコピーしようと、楽器を練習したこともあった、そして素人にしては上手くなれた。
だが自分と同じ歳の人間が自分よりも何倍も上手く人を引きつけた、悔しかったが僕は毎日練習していなかった。
【毎日努力できること自体が才能で、毎日努力できるやつが天才なんだ】
そう自分に言い訳して天才じゃないから努力できないんだと思うことにしていた。
何をしても自分に甘かった。
勉強だってした、でも1日中はしてはいなかった。
【これだけしたから十分だろ】
そんな事を考える自分が嫌いだった。
でもしんどいんだよ、漫画のキャラじゃないんだ、簡単には変われない。
そうやってまた言い訳をした。
あれから8年。
魔力を増やす訓練は続けている、とは言っても1週間に1日くらいはサボってしまう。
それに魔力を増やすために魔力を使うだけだ、1日の夜に全力の1発を夜空に打ち上げて終わり、後は気持ちよく眠るだけ。
自分に甘いのは変われないがかなり魔力も増えてきた、既に大人達と並べるくらいにはなった。
【そこそこ】頑張るだけでも大人達には褒められた、その辺を走りわまっているはずの歳の子が自分達と同じくらいの魔力を持ち想像もつかない原理の魔法を使うのだ、当然だろう。
「エディルトス様、また魔法ですか? そんなバカみたいな威力の魔法を練習して何する気ですか……」
「でも使えたらかっこいいだろ?」
「はぁ?……女みたいな顔して何言ってるんです?」
「……イケメンだろ? 」
「百歩譲って美少女ですね」
「そっか……」
ティナは僕が理解している事を知っていても態度は変えなかった、たまにどうかとは思うけどそんなティナも悪くない。
あれから少しして話せるようになったが、容姿の方は期待していた中性的なイケメンではなく完全な女顔になってきたようだ。
「……モテるかな? 」
「外見の割になかなかゲスいですね、世の中には物好きなお姉さん達もいますよ」
「惚れた? 」
「私はチョロインではないです、気持ち悪い」
……どうやら異世界の女性はチョロインというテンプレは嘘のようだ。
というかチョロインなんて言葉どこで覚えたんだよ。
「というか主人に向かって気持ち悪いとはなんだ⁉︎ 」
「すいません、こうゆうのが好きだと思っていたので」
「僕は変態じゃない」
本当はちょっとドキドキした。
「そうですか、では今後は切り替えましょう」
「……いや、今まで通りでいいよ」
「はいはい、というかエディルトス様、そんな事はどうでもいいので早く準備をして下さい、今日から学園があるんですから」
そう、僕ことエディルトス・ディアマンは今日から魔導師を志す魔法学園に入学するのだ。