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最強魔導師だって嫉妬する  作者: rainydevil
学園編
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◇閑話 ティナの婚活

エメリア様には申し訳ありませんが名案が私に降って来ました。

例えエメリア様の好意とはいえ相手を選ぶ権利は私に有ります、非常に心苦しくご迷惑をおかけしますが紹介された男性を全て断ってしまえばよいのです……


自分でもいささか安直すぎるとは理解していますが今の私はなりふり構っていられません。

これでエメリア様にかけたご迷惑は私の一生をかけてエディ様に尽くすことで許して貰いましょう、我ながら完璧な作戦です。

さっそく作戦を実行に移しましょう。



屋敷のメイド専用に作られた自室を出てエメリア様のお部屋に向かいます、余談ですが私達メイドの貸し部屋は二階、エディ様達ご家族の部屋はそれぞれ一階になっています、従って私が一階を訪れるとき、必然的にエディ様のお部屋を通り過ぎることになります。


誰かに恋をしたことのある人には理解して頂けるでしょうか? 気になる異性の部屋、というものはまるで綺麗に包装されたプレゼントボックスのように魅力があるのです。

ゆえに毎日プレゼントボックスを開封できる私はとても幸せ者です。



一階へ下りた私は理由も無いのにエディ様のお部屋の前で脚を止めてしまいます。考えてみれば本日の私はまだプレゼントボックスを開封していません。それもあの子供達のせいです。


……確かエディ様が一日一回のお楽しみの事を『おはようガチャ』 略して『おはガチャ』 などと意味の分からないことを言っていました。

まさに私にとってのおはガチャはエディ様のお部屋に進にゅ……もとい清掃に訪れることそれに違いありません。


主人の許しも出たことなので心置き無くエディ様のお部屋を堪能しましょう。軽くステップを踏みながらドアノブに手を掛け、大きく扉を開きます。




「…………」

「…………ふぇ? 」




私は静かにプレゼントボックスを閉め、冷静になります。


私が見た状況を簡単に説明させて頂きましょう。まず私がエディ様のお部屋の扉を開きます、中には同じメイド仲間であり私の後輩のミシェルが居ました。

ここまでは何も不自然ではありません、今日の私は実質休暇中、他のメイドがエディ様の部屋を清掃しに入ることは致し方ありません。


しかし、しかししかししかし。


清掃を終えたであろうミシェルは、あろうことかエディ様の寝具に潜り込み、ふやけた顔にヨダレを垂らしながらエディ様の枕に頬ずりをしていたのですっ!!



「ティナ先輩っ!!! 待って下さいっ!! これにはっ! これには海よりも深い由があるんですっ!!! 」

ガタンッという音と共にエディ様のお部屋の扉を乱暴に開き、ミシェルが泣きながら私の脚にしがみつきます。


「…………」

エディ様によくゴミを見る目、と称される私の得意技でミシェルを迎撃します。


「ミシェル……たった今から貴女は私の敵です。同僚のよしみです、せめて苦しまずに済ませてあげましょう」

私は手にした魔法刀からスラリと刀身を抜き、私の脚元で喚くミシェルの首筋にピタリとあてます。


「待って下さい待って下さい!! というか何処からそんな刀出したんですかっ!? 」

そんな刀とは失礼な、この魔法刀はエディ様護衛のためアウル様から借り受けている魔法刀です。確かアウル様が若い頃戦争で御活躍したとき、国王様から承った物だとか。大層な名前が付いた名刀らしいですが生憎私には興味がないので忘れてしまいました。


故に私命名 ”何でも切れちゃう刀” です。

この魔法刀、接近武器にも関わらず魔法電導率も凄まじいのです、ですので炎魔法を使いながらミシェルの首を飛ばしても血が飛び散ることもないということです。愛するエディ様のお部屋を穢らわしい変態風情の血で汚すわけにはいけませんものね。


「では御遠慮なく」

「ななな何が御遠慮なくですかぁっ!!! 遠慮して下さいっ!! 」


驚くべき事にミシェルは斜め上から振り下ろした私の一閃を白刃取りで防ぎました。人間やればだいたいのことはできるですね、ティナびっくり。




「……冗談はほどほどに、しかしさすがに許される行為では有りませんよ? 」

「冗談には見えませんでしたけど……はい、申し訳ありませんでした」


そう言ってミシェルは俯き、目に涙を浮かべます。同じくエディ様に想いを寄せる者として、ミシェルのか弱く護ってあげたくなるような姿に、私の心がザワついてしまいます……


「相手はご主人様です、不相応な夢を見るのはやめなさい」

私はメイド長のように厳格なわけではありませんが、無意識にキツめに、そして自分に言い聞かせるように。



「……不相応だからって、好きになったんだから仕方ないじゃないですか……」

ぼそりと……しかし確かに、ミシェルはそう呟きました。

ミシェルは、最近になってここで働き始めた十三歳の少女。大きな目で私を弱々しく睨みつけて。

矛盾だらけの私に偉そうなことを言う権利などありません。


「いくら好きになっても、身分違いの恋など苦しいだけに決まっています」

諦めて下さい。叶わないから諦めて下さい。貴女が諦めてくれたら私も諦めることができそうなんです、そうすれば、今こうして恩のあるエメリア様に楯つく必要も無くなります。


「人間だけが、好きな相手を選べるんですよ? ……その権利を手放すなんて勿体無いと思いませんか? 」

ミシェルは自信なさげに、まるで私に確認するように。私が好きになっても、エディ様が私を好きになって頂けるとは限らないのに。

多分、エディ様が私に向ける感情は愛情ではありません。エディ様が私を必要としてくれているのはよく解ります、しかしそこにあるのはきっと自分の理解者への必要性です。エディ様はきっと、私を通して自己の価値を見いだしています。

私はこんなにも想っているのに。




「確かに……そうかもしれませんね。今回は不問にしますがエディ様の枕に抱き着くことは辞めなさい」

それでも、例えどんな形でも側にいたいのが惚れた弱みというものでしょうか。小さな決心と共にミシェルの返事も聞かぬまま私はエメリア様のお部屋に向かいます。



しかしお部屋にエメリア様はおらず、どうやらお気に入りの庭で花に水遣りをしているようです。

私は屋敷の庭に出てエメリア様に静かに近付きました。

「……エメリア様」

私は花に水を遣るエメリア様の背に話しかけます。

数日前までエメリア様の趣味によって色鮮やかに、しかし派手過ぎない調和の取れた美しさを持っていた屋敷の庭は、エディ様の拾ってきた地龍の卵によってジャングルの奥地のような原始的な雰囲気を醸し出しています。


「あらごめんなさい、ちょっとこの卵をどうにかしたくって……」

最愛の娘のおもちゃといえ、さすがに地龍の卵はお気に召さないようです。当たり前ですね。


「申し訳ありません」

私もそれを持ち帰った一人ですので。


「あっ、ティナちゃんを責めてるわけじゃないのよ? ……それで、ティナちゃんはどうしたい? 」


エディ様と結婚したいです。


などともちろん言えるはずもありません。

「……私に殿方の知り合いはいませんので、よければエメリア様に御紹介して頂けたらと思いまして」

私は思ってもいないことを口にして頭を下げます。今の私はどれほど惨めか、エディ様の前でなかったことが唯一の救いです。


「まぁ!? よかった、じゃあティナちゃんが幸せになれるように立派で素晴らしい男性を私が見つけて来てあげるわ! 楽しみにしておいてね!? 」


エメリア様はとても十歳の子持ちとはお前ないキラキラとした笑顔で、心の底から私の幸せを願っていることが私にもよく解ります。


(申し訳ありませんエメリア様……)

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