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最強魔導師だって嫉妬する  作者: rainydevil
学園編
38/69

一人で大丈夫

サーフィアは ちじょに しんかした! ▼


あの有名なファンファーレ音が聞こえた気がする。あの後僕は女の子みたいな悲鳴を上げ、サーフィアさんの手を振りほどいて逃げて来た。

サーフィアさんのちょっとしたイジワルなのだと思うけど、いやそうであって欲しい。

でも普通にやり過ぎでしょうよ、十歳の子供に色仕掛けするなんてどうかしてる、掛かると思ったのだろうか? 掛かるんだよな、これが。

まさかサーフィアさんが肉食系女子だったとは。


「……やれやれ人気者は辛いなぁ」

誰も居ないの校舎をテクテクと歩きながら、久しぶりに調子に乗ってみる。




「誰が人気者なのでしょう? ねぇエディ君」

誰も居なかったのに、ねぇクロナさん。


「……どうしてこんな所に居るのかな? 」

ここはまだ高等部である、クロナが来る理由などそうないはずだ。


「授業が終わって急いで何処かへ行ったと思ったらサーフィア様のところですか……それで、サーフィア様とはお楽しみに? 」

クロナの口調がいつもの三倍は冷たい、クロナが僕の姿をジロジロと見るので、何処かおかしいのかと思い自分の姿を確認する。


サーフィアさんに手を入れられたシャツの裾はズボンからはみ出て、上のボタンも二つ外れている、我ながらエロい格好だ。


「……今日はアツイネ」

思いつく限り最悪の言い訳で誤魔化す、クロナのゴミを見る目に心が痛い。僕が何かする度にクロナからの好感度が音を立てて崩れていくような、寧ろ初めて出会ったときが一番好印象だった気がする……


どうやらクロナは本当にゴミ、もとい僕を探しに来たようで。ようやくクロナと会話らしい会話をすることができる。


「サーフィア様とは仲直りできましたか? 」

クロナは僕とサーフィアさんの間の事情を知っている、ずっと気にかけてくれていたのだろう。クロナは僕の隣で腕を後ろで組んで歩く。


「うーん、別に仲違いした訳じゃないけど、サーフィアさんはまだ諦めてくれないみたい。というか前より手段を選ばなくなった感じがする」

僕の精神は十歳の純粋ボーイのそれとは違うのだ、サーフィアさんほどの美女に誘惑されて無事なはずがない。まさに僕の頭の中では天使と悪魔がやっちゃえやっちゃえ、と囁いている。天使さんおーい。


「……にしては嬉しそうですけど? 」

いけないいけない、数分前のクロナがカムバックしてきた。お引き取り願おう。




クロナの目からハイライトが消えはじめたので、どうにでもなれーという気持ち半分面白半分、両の手のひらでクロナの手を優しく包み、片膝をつく。

「お姫様……私は貴女だけをずっと想っていました 、私と結婚して頂けませんか? 」


どの世界でも、女性は王子様との恋愛物語が好きなようで、これはたまたまティナが持っていた恋愛小説の台詞の一つ、うろ覚えだが確かこんな感じだった。鳥肌モノだぜ。

包んだクロナの手から微かな震えが伝わる、さすがに怒られると思ったが……予想とは逆にクロナは黒目をグルグル回して顔はリンゴのように赤く、まるで少女漫画のテンプレ主人公のように照れていた。


「へぁ!? ……ぅぅ……なんてこと言うんですかっ!!! 」

ここでまさかの爆発魔法、しかも僕からのお墨付きを手加減無しに叩き込まれる、もちろん普通に受けたら消し炭になるので氷結層アイスバリアを張って炎を防ぐ。


忘れてしまいそうだがここは煌びやかな高等部の廊下、そんなところでプロポーズ紛いの行為をする僕も僕だがクロナもクロナだ。

クロナの魔法は高等部の廊下を突き破り吊り下がるシャンデリアを粉微塵、誰かの肖像画と紅の絨毯を燃やしながら校舎に大穴を開ける……

当然もろに受けた僕もただでは済まず、爆発の衝撃に氷結層アイスバリアごと校舎を抜け空に投げ出される。


穴の空いた校舎がよく見える……これをなおすのはきっと僕だ。




「……ぐぇっ」

グラヴィティブーツは履いていないので空を飛ぶことができず、地面に落ちてしまう、風魔法でいくらか軽減したものの美少年にあるまじき声が出てしまった。

投げ出された僕の近くで、今まさに下校中だった生徒が倒れた僕と炎をあげる校舎を困惑した様子で何度も見比べる。


(てか燃えてる!! めっちゃガッコー燃えてるぅぅうううーーーっ!!! )

「洪水っ(フロート)!!! 」


洪水フロートは中級の水魔法、大量の水を出すだけで攻撃魔法ではない。この魔法は空気中の水蒸気を大量に使うせいで空気がカラカラに乾燥するが今は仕方ない、洪水フロートによって生み出された水が高等部の校舎に被せられ炎は鎮火する。


「……ふぅ」

お隣の名も知らぬ生徒さんは口をぽかんと開いたままだ。


高等部の校舎は地面を含め水浸し、大きな校舎の一角には焦げて黒ずんだ大きな穴……今日は帰ろう。

どうせ怒られるんなら明日でもいいや、怒られるで済んだらいいな、普通に考えたら犯罪者にされても不思議でないような。

口の閉まらないお隣さんを残し僕は帰路についた。






「ただいまー」

愛しのマイハウス、僕は荷物を自室に投げ込み制服のまま庭に出る。


「お帰りです、エディ様」

まだ敬語に慣れないタヤが庭の掃除をしている、ディアマン家の仕様人はそう多くないので五歳といえ即戦力だ。


「ただいまタヤ、ここの仕事は大変じゃない? 」

「今までの暮らしと比べると天国みたいなものですよ」

「……そっか、ならいいや」

多分タヤはそんなつもりは少しも無いのだろうけど、暗に恵まれた自分が責められた気分だ。


「……? それとアラト兄さんはどうしてましたか? 」

タヤは僕の様子に気がついたようだが聞いてはこなかった。


「アラトはいつも通りだよ、友達に怒られてた」

暗くなった気分を戻すためアラトの話題に変える、アラトは学園につくなりリョウとトーマスにさんざん怒られていた、僕も同じくらいクロナに責められたけど。


「それでさ、この卵はどうなの? 」

僕が庭にダッシュしてきたのは別にタヤと話すためでは無い、屋敷の庭を大きく占拠する地龍の卵の様子を確認したかったのだ。ただこの卵には母さんすら苦い顔をしていた。


「どうと言われましても……いつ産まれるんでしょうね……」

「ほんとそうだよね……」

貰った当初はワクワクドキドキしたけれど、よく考えればあのサイズのドラゴンの卵である。孵化に何年、いや何十年かかるか全く分からない。僕が生きてる間に産まれるかも不明である。


「魔法で温めてみたり、とかどうですか? 」

「……タヤは地龍の目玉焼きとスクランブルエッグ、どっちがいい? 」


僕の冗談に、タヤはどっちもいらないです、と言いながら仕事に戻っていった。冷たいです、もっと構ってよ。


ビクともしない卵に飽きて屋敷の中へ戻るがティナの姿が見えない。ネットもゲームも漫画も何もないこの世界で僕が楽しくできるのはティナのおかげと言っても過言ではない。

そんなティナがいない。由々しき事態である。

主人がメイドの部屋に行くのは基本的にNGなので、母さんにティナがどこに居るのか尋ねることにした。

コンコンと母さんの部屋をノックする。


「母さん、僕です。ただいま帰りました」

「はーい、おかえりエディ」

そう言いながら母さんは扉を開け僕を部屋に迎える。


「おかえり、わざわざどうしたの? 」

「いえ、特に用事ではなくティナが見当たらないなと思って」

そう言うと母さんの顔が少し曇る。


「……エディは本当にティナちゃんが好きなのね。いい機会だから話すわ」

母さんはお洒落な茶飲み机に僕を座らせ、自身も反対側に座った。


「あのねエディ、貴方がずっと面倒を見てくれているティナちゃんに懐いているのもよく分かるの、でもね? ティナちゃんもそろそろ二十歳なの……その、賢いエディなら解ってくれるよね? 」

つまり……ティナが居なくなってしまう、そんなのは耐えれられない。ティナは僕が貴族になっても一緒に居てくれると約束したはずなのに……


「……ティナは何て言っています? 」

「さっき……お見合いをしたいから紹介をしてくれないかって……」







目の前が真っ暗になる。理解が追いつかない、ただ分かるのは嫌だということだけ、ティナは僕のものなんだ、だから誰にも渡さないし渡せない。

ずっと一緒だったんだ、特別な絆とかそんなものは無いかもしれないけれど僕にはティナが必要なんだ……ずっと僕の側にはティナが居た、これからもそのはずだったのに……怖い。

両親よりもずっと僕を見てくれていた、誰も反応してくれなくてもティナだけは僕に呆れてくれた。この世界で一人ぼっちだった僕は、ティナが居てくれたから寂しくなかったんだ。



本当は寂しかった、いきなりトラックに跳ねられて見たこともない人達の子供になって。知り合いも家族も誰一人いない世界に来て。

本当は泣きたかった。前世の両親に助けて欲しかった、仲良し度微妙な姉にもう一度会いたかった。


そんな僕はティナが居たから泣かなかった、ティナだけは見ていてくれたから寂しくなかった。



「嫌だ、それだけは嫌だっ!! 」

初めてかもしれない、初めて母さんに反抗した。僕は机に身を乗り出して叫ぶ。


「……エディ、自分のことだけで無くティナちゃんのことも考えてあげなさい。あの子の人生を一生縛り付けるつもりですか? 」

母さんの冷静な声が機械的で冷たく聞こえる。だが母さんの言うことは正しいのかもしれない。

度々屋敷のメイドが辞めたり、新しくはいったりしていることは知っていた。ティナとの別れから目を背けていただけだった。



「貴方はもう一人でも大丈夫よ」

そう言って母さんは涙を流す僕を優しく抱きしめた。

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