◇閑話 ティナの一日
ただいま6時45分、おはよう朝日です。
エディ様と共に一ヶ月の旅が終わり、ようやく日常へと戻って参りました。しかし誠に遺憾なことに……いえ、本当に許せないことに、私の毎朝の楽しみが一つ無くなってしまったのです。
それは何かと言いますと、毎朝エディ様の起床を促すお仕事です、エディ様はなかなか睡眠が深くちょっとやそっとでは起きません、ですので……まぁ、普段は恥ずかしくてできないような、触ってみたり撫でてみたり……
誰にも言えない秘密ですが、わたくしティナのファーストキスはエディ様の寝顔なのです。
そろそろお気付きでしょうか? そう、私はエディ様を心から愛しています。
考えてもみてください。私は今二十歳、そろそろ生き遅れと言われてもおかしくありません。いくら好待遇の職場といえ、人生のほとんどを一人の主人に捧げるにはこれくらいの理由はあって然るべきでしょう。
確かに私も初めは自分に驚きました、何せ自分より十も下の男の子に惚れたのですから。
話が脱線しました、話を戻しましょう。エディ様を起こす私の仕事を奪ったのはあの六人の子供達です。なんと余計なことをしてくれるのでしょう、私の至福のひとときを返して下さい。それに加えてあのニルヤとニルナとか言う双子はどうやらエディ様がお気に入りのようです、早々に対策をしなければなりません。
噂をすればエディ様が自室から出て来られました、一月ぶりに見るエディ様の制服姿はとても凛々しく……いえ、いつも通りの愛らしさです。……はぁ、今すぐにでも抱き締めたいものです。
「おはようティナ、今日も朝からありがとう」
エディ様は毎朝全ての仕様人にニッコリ笑いながら挨拶をなさいます、その笑顔はまさに極大魔法級。幾人ものメイドがこの笑顔に撃沈されました。
「えぇおはようございます、既にエメリア様もアウル様も朝食の準備ができていますよ、早くして向かって下さい」
常人からすると私がエディ様を嫌っているようにも見えるそうですが、そんなことは絶対にありません。
こうしてエメリア様、アウル様、エディ様の朝食が始まりました、本日はエメリア様自身が朝食を用意なさいましたがいつもは私達メイドの仕事です。
しかし……私はメイドとしては致命的な事に、料理があまり上手くありません、もちろん最低限にはできますが、とても貴族様に出せるような物にはなりません。
そんな私の料理を一月間エディ様はおいしいおいしいと毎日食べてくれました、きっと本当にそう感じているのでしょうが、私には何にも代え難い喜びでした。
朝食が済み、エディ様は学園に向かわれました。本日の私の仕事はあまり多くはありません、きっとエメリア様のご厚意でしょう、遠慮なく甘えさせて頂きます。
「ティナちゃん、少しいいかしら? 」
もう二十になる私ですが十三からここに勤める私をエメリア様は未だにティナちゃんと呼びます、少しだけ気恥ずかしいですが、娘のように扱ってくれるエメリア様を私も第二の母のように想っています。
「はい、なんでしょうか? 」
「先ずはあの子の我が儘に一ヶ月も付き合わせて申し訳ありません」
そう言ってエメリア様は私に頭を下げます。
メイドに頭を下げるのは何度も辞めて欲しいと頼んだのですが、エメリア様もエディ様もなかなか聞いてくれません。
「頭を上げてください、当然のことでをしたまでです、私の役目はエディ様のお目付役なので」
そう、私はエディ様と一緒にいれるだけで幸せです。
「……そのことなんだけどね? 」
エメリア様が暗い顔をして言い淀みます、如何したのでしょうか?
「ティナちゃんももう二十歳でしょ? そろそろ結婚とか……自分の人生を歩んでみてもいいんじゃないかしら? もちろん辞めさせたいとかそんなことは全くなくて、一人の女性として幸せになって欲しいの」
なんという事でしょう……こ、これがクビというやつでしょうか。もちろんエメリア様がそうしたい訳ではないことは分かっています……しかし、これを断るなはどうすべきか……
「いきなり……ですね。……少しお時間を頂いても宜しいでしょうか? 」
「ごめんなさい……そうよね、直ぐに決めれるはずも無いわよね」
エメリア様が落ち込んだようにシュンとしていますが今は自分の事で精一杯です。
私は借りている自室にこもり、どうにか考えを膨らませます。エメリア様の好意を断るにもキチンとした理由が必要です、一介のメイドに過ぎない私が理由もなく残りたいなどと言えば、エディ様への恋心がバレてしまうかもしれません。もしバレてしまったら……メイドが次期当主に恋をするなど言語道断、本当の意味でクビにされてしまう可能性すらあります。
やはり私とエディ様では格が違いすぎるのでしょうか……
そもそも私はエディ様のどこを好いているのでしょう、我が儘で変態で器も小さい。確かに容姿と魔法の才は優れていますが私は男性にそれらを求めません。
自問してしまいましたが答えは出ています、私はエディ様の不器用さが好きです。
エディ様は凡人が羨む程度には才能も能力も持っています、にも関わらず自分に無いものを必死に強請って、まるで見えない天井に目を凝らす。そんな不器用な彼を私は側で支えたいのです。
おかしいでしょうか? 私には何となく、駄目人間の世話をしたくなる人の気持ちが分かります。
きっとエディ様はこれから先、不相応なものを沢山背負ってどんどん生き辛くなっていくでしょう、現にエディ様に好意を寄せる女性は複数人いるようです、結局最後にはハーレムを築く甲斐性も無いまま全員を受け入れるのでしょう。そんな窮屈な人生を必死に頑張るエディ様がやっぱり私は好きです。
……何度も好き好きと恥ずかしいです。先ずはこのピンチを抜けなければなりません、何かいい方法が……有りましたっ!!!
結婚が私の幸せというなら、相手が居なければいいではありませんかっ!!!




