逆襲のサーフィア
レーナ先生と話した後、教室には多くの生徒達が登校していた。日本とは違う押し扉を開け、一ヶ月ぶに自分の教室に入る。
扉が開く音と共にいくつかの視線が僕に集まる。
「エディ君だっ!! 」
誰かがそう叫ぶとクラス中が一斉に僕を見る。
「あー、えっと、おはようございます……」
未だにこの感覚は慣れない、まるで自分が人気者やスターになった気分だ、あながち間違ってもいないのだが元々生徒Aだった僕には刺激が強い。
注目されて挙動不審になっている僕にクロナが近づいてきた、クロナの発する黒いオーラのせいか誰も僕に近づこうとせず、皆がクロナ注目する。
「……エディ君? 」
「ひゃっ、ひゃい!! 」
これは怒っていらっしゃる、僕と大して変わらない背丈のはずが、心なしか大きく見える。
「一ヶ月も……学校も私の家庭教師もサボって……何処で、何を、していましたか? 」
クロナは僕の目を見てニッコリと笑う。口は笑っているのに目が笑っていない。
「えっと……レナードに聞いてないの? 」
「私はエディ君の口から聞きたいですね」
悪いことはしていないはずだが浮気を責められている気分になる。
「……トカゲの卵を拾って来ました」
うん、嘘は言ってない。トカゲの卵を拾って来たのだ、嘘じゃない。
「何を意味の分からない事を言っているのですか? 今度何も言わずに何処かへ行ったら許しませんから」
クロナはそう言って僕の横を通って教室から出て行ってしまった。後でクロナのご機嫌を取っておこう、何をされるか分からない。
僕が居ても居なくても授業は滞り無く行われる、久しぶりの日常を味わい、さぁ帰ろうと荷物を纏めているとレーナ先生に腕を掴まれた、凄い力だ。
「……なんでしょうか先生、僕は今すぐ帰らなければなりませんっ! さぁ早く手を離してっ!! 」
「そういう訳にはなりませんっ! エディルトス君を逃したとなれば私が会長に何をされるかっ!! 」
だから、貴女の方が立場は上でしょう……いやサーフィアさんは王女様だから一概には言えないのかな?
まぁ何にせよレーナ先生はサーフィアさんにトラウマでも植え付けられたのだろうか、なおさらサーフィアさんの所へ行きたくない。
抵抗虚しく、途中で逃げないようにレーナ先生に監視されながら高等部の教室へ向かう。高等部と大層な名前だけあって凹凸のない綺麗な床に様々な絵画が飾られた廊下、まさに魔法学校と言って差し支えない校舎だ。是非僕達の教室もこんな風に豪華にして欲しい。
「レーナ先生、僕達の教室もこんな風にしましょうよ」
廊下には絨毯が敷かれ天上にはシャンデリア、前世と比べても遜色ない人工色で彩られたここは、城と言われても納得できる。初めて高等部に脚を運んだがまさにホグ○ーツだ。この絵が喋りだしたりしそうだ。
「無理に決まっているでしょう……ここがこんなに凄いのは高等部の生徒の半分が既に国から正式に魔導師と認められてるからよ」
なるほど、確かに正規魔導師を汚い学校に入れておくのはいささか風聞が悪い。それにしても初等部との格差が激しすぎでは無いだろうか。予算をもっと寄越せ。
「予算をもっと寄越せ」
「誰に口を聞いてるんですか」
レーナ先生が僕の頭をペシリと叩く、地味にノリがいい先生を僕は好きだ。
「それに、初等部の備品を次から次へと壊してるのはエディルトス君でしょうに……」
まさかの戦犯は僕だった、修繕費は僕のポケットマネーから出ているので許してほしい。というか数年もすれば僕も高等部だ。今はあの豚小屋で我慢してやろう。
「……はい、ここが会長の教室です」
先生は紅色に金の刺繍が入った一枚壁の前に立つ、そこにドアノブは無くかといってスライド式でもない、レーナ先生がその中心に手を当てると、壁は中央から二つに別れ長方形の入り口になった。
「この扉も魔導具なんです、さっきみたいに一定量の魔力を注ぐことで自動で開く仕組みになっています」
自動ドアなんて十年ぶりだ、だが魔法を使わないと開かないドアは自動ドアと呼べるのだろうか。
そんなことを考えていると開いた扉の向こうからカツカツと音をたてて一人の生徒が僕の前に来た。
長いブロンズの髪に大きく力強い碧眼、自信ありげに口を釣り上げる、以前と変わらないサーフィアさんの姿に僕は少しだけ安堵する。
「……お久しぶりですサーフィ「お姉ちゃん」……」
あれ〜?
「私の夫になるのが嫌というのことはやっぱり弟になりたいのでしょう? あぁ、あとレーナ先生はもう帰っていいわ」
以前と変わらないというか悪化している、残念美人の称号がぴったりだ。というか先生の扱いが酷すぎませんかね。
ワンモア、というジェスチャーか、サーフィアさんは腕を組み僕を見ながら顎をクイクイッとする。
「えーっと、お久しぶりです、お……お姉ちゃん」
顔が熱くなるのが自分でも分かる、サーフィアさんのクラスメイトの前で兄弟プレイをさせられた……屈辱である……でもちょっと興奮した。
いつの間にかレーナ先生は居なくなっている……
満足そうに頷いたサーフィアさんは僕の手を取り、まるで園児を引率するように教室の中へ入る。そして椅子に座ったかと思うと、僕の手を引き膝の上に座らせる。ちょうどサーフィアさんの膝の上に僕が座っている体制だ。
「えーっと……これは一体? 」
クラスメイトの前でこの行動、サーフィアさんのメンタルは何でできているのだろうか?
「はーい、女王様がお望みだよ〜。皆早く帰ろうねー」
サーフィアさんの友人で、クラスメイトのシタさんがそう発すると誰も文句一つ言わず荷物を抱え教室から出て行く、女王様とか言われてるんだ、王女様じゃなくて。
女王様の命により僕達二人だけになった教室で、サーフィアさんは僕を背後から抱きしめる。膝の上に座ってもサーフィアさんの顎辺りまでしかない僕の首筋に、二つの幸せが詰まった柔らかい物体が押し付けられる、ん〜マーベラス。
まさか人払いしたのは……ここでムムムな行為をしちゃうのだろうか。しちゃうのだろうか!?
「お話しというのはなんでしょうか? 」
幸せを噛み締めながらサーフィアさんに尋ねる。
「得にないわ」
無いのかよ。
「誰かさんが一ヶ月も何処かに行ってしまったせいで、私のエディ君成分が足りなくなっただけよ」
エディ君成分とは一体……だがサーフィアさんにも心配をかけてしまったかもしれない。
「えっと……心配をかけて申し訳ありません」
「まぁ無事で何よりよ、そんなことよりも……」
そう言いながら、サーフィアさんは僕の左耳を口に含み、制服の中に白い腕を射し込んだ。
「うぇ!? ……え! えっ!? 」
困惑する僕をよそに、サーフィアさんは僕の耳を舌でなぞり冷たい手で僕の下腹部を撫でる。サーフィアさんの体が熱い、僕は訳が分からなくなり目をグルグル回して思考を停止させる。
「……ねぇ、私といいことしない? 」
サーフィアさんの生暖かい息が僕の耳を触る。
感想を……クレメンス




