嫉妬
本日は後7話ほど投稿します。
ティナがぶーぶーとうるさいので僕達は早々と帰ることになった。子供達を運ぶ大型の馬車が一台、僕とアラトとティナが乗ってきた馬車が一台、さらに地龍の卵を運ぶ馬車が一台。別に馬車そのものは要らなかったので、代わりに馬車の操縦者を二人貸してもらっている。
荷台に大きな卵を括り付け運ぶ馬車、なんとも奇妙だ。
流石にティナも帰路に出てくる魔物まで僕に戦わせようとはせず、馬車の上からウインドカッターを飛ばし魔物を倒す。少しでも早く帰りたいのか魔物が出る度に馬車を止めたりせず、魔物は出てくる瞬間から、いやもう出てきたときには細切れになってビクンビクンしている。
R18-Gとは一体何だったのか、子供達も馬車の操縦者もガクガク震えている。
こうして約一ヶ月ぶりに僕は王都に、我が家へ帰ってきた。
「ただいまーーーっ!!! 」
家出のコツは二つ、一つ目は中途半端に数時間で帰って来たりしてはいけない、親の怒りが心配に変わるまでは帰って来てはならないのだ。そしてもう一つ、帰るときは堂々とだ。是非参考にして欲しい。
「あらお帰りなさい。元気にしてた? 」
……心配されていないのかな。いや、きっと母さんからティナへの絶対的な信頼なはず、そうゆう事にしておこう。
「ティナにいじめられました、減給でお願いします」
「はいはい、父さんがエディが帰ったら来るようにと言っていましたよ? 書斎に居るから落ち着いたら顔を出してあげなさい」
あぁ、まぁこれは普通に怒られるパターンだ。考えてみれば10歳の息子がメイド付きとはいえ一ヶ月も無断で学園を休み家出したのだ、前世ならお巡りが頑張る事態になったはず。素直に謝ろう。
「あの、母さん……」
「ん? どうしたのエディ」
「……その、えっと……心配かけてごめんなさい」
母親に謝罪や感謝を伝えるのはどうしてこんなに恥ずかしいのだろうか。母さんは小さく笑いティナの元へ行った。
僕は旅で汚れた服を着替え、父の書斎を二度ノックする。
「父さん、エディです。ただいま戻りました」
扉越しにそう言うと、体をぶつけたような鈍い音が数回聞こえた後物凄い勢いで扉が開かれた。
「エディか!? こんなに長い間何処へ行っていたんだっ!! どれだけ心配したかっ! 」
父さんは怒りと安堵をごちゃ混ぜにした顔で僕に怒鳴る。
「えっと……心配かけてごめんなさい。友達と遊んでいました」
別に地龍のことを話してもいい、どうせ後でバレるのだが今言うと余計に心配をかけそうだ。
「……そうか、でも本当に無事でよかった」
父さんは目に薄っすらと涙を浮かべて何度も僕を抱きしめる。完全に娘扱いだが本当に心配をかけていたことを実感する。家出のコツをもう一つ、家出は控えましょう。
「なぁエディ、 確かに私もエメリアもお前が優秀なことにとても鼻が高いさ、でもな、私達からお前に優秀であって欲しいとは思わないんだよ、健康な体があればいい。何をそんなに焦っているんだ? 」
「……焦っているように見えますか? 」
自分ではあまり実感がない、ただこのままは嫌だ、もっと、もっと価値のある人生にしたい。死んでからも誰かに思い出して貰える人生にしたい。
「父さんから見てだが、無理に変わろうとしているように見えるぞ? 」
さすがは親なだけではある、図星を突かれたが嫌なものは嫌だ。
「……まだ僕は何もしていません」
そうだ、まだ何もしていない。ドラゴンフライの時も今回のことだって、いつだって借り物の力でヒーローになった。そりゃあ借り物でも褒められてチヤホヤされたら嬉しい、でも満足はできない。
アラトが羨ましい、彼は自分の意思で動いた、流されて流されて、結局19年も生きて何も残せなかった僕とは大違いだ。
「……私は父親失格なのかもしれないな、子供のことが全く分からないよ」
父さんは悲しそうにそう呟く、こうして独りよがりで迷惑ばかりかける自分に嫌気がさす。いっそ全て話したい、自分は一度死んだ人間で、前世からズルズルと下らないこだわりを持って父を困らせていると。
全て話して両親が僕を愛してくれるのか、心のどこかで信じることができない、父さんは自分が二人目の親だと言われたらどう思うだろうか、もしかしたら僕は捨てられてしまうかもしれない、両親を信じれない自分も嫌いだ。
お互い気不味い沈黙の中、コンコンと扉がノックされた。
「旦那様、少しよろしいでしょうか? 」
ティナが扉の向こうから父さんに話しかける。扉を開けるとティナと、その後ろには六人の子供達が綺麗な格好をして並んでいた。
「……お取り込み中でしたか、申し訳ございません」
ティナは頭を下げ下がろうとするが、父さんもまた僕との沈黙を避けるためティナの話を聞く。
「ティナ、エディの面倒をありがとう。……その子供達はどうしたんだい? 」
「はい、詳しく説明すると長くなりますが、簡潔に言いますとエディ様が助けた子供達です」
ティナはいつも僕を持ち上げてくれる、口には出さないがティナも僕を大事にしてくれているのが良く分かる。しかし今回ばかりは僕の手柄ではない、間違いなくアラトの手柄だろう。魔法のチート知識なんかよりもアラトのような優しさが欲しかった。
「僕が話すよ、父さん、この子達を将来の僕の部下としてここで雇って欲しい。給料は僕の財産から払ってくれて構わないよ」
元々身寄りもない子供達だ、アラトへの細やかな抵抗として尻拭いくらいはしてやろう。




