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最強魔導師だって嫉妬する  作者: rainydevil
学園編
33/69

ありがとうの価値

タイトル変更しました。

良いものをやろう、そんなことを言われた僕の目の前にある物はツヤツヤの褐色に僕より一回り大きい丸い球体。


卵である、でっかいでっかい卵である。


元地龍はこの卵を守る為に砂の鎧を付けジッと動かなかったそうで、鎧を壊した僕が責任を取ってこのドラゴンの卵の面倒を見る。ということになった。


(……ドラゴンの卵か……ふふふっ)


これは良いものだ!! イヤーせっかく異世界転生したのにチート能力の一つもないと思ってたけど、まさか10年越しにチートアイテムが貰えるとはっ! これを孵化させて僕のペットにすれば龍使いとか呼ばれたりして……


「エディ様の気持ち悪い笑みも久しぶりですね、さぁ早く帰りましょう」

ティナが帰りたくて帰りたくて、もう駄々っ子と化している。

地龍は僕に卵を渡した後直ぐに飛び去って行ったので

、僕はマリーナ鉱山に戻った。ちなみに卵は生き物扱いのようで、僕の重力魔法は使えない、仕方なくゴロゴロと転がして持ってきたが、中身は大丈夫だろうか?


「……その大きい玉は新しいおもちゃですか? うちにそんな大きい物は入りません。捨ててきなさい! 」

「おもちゃじゃなくて卵だよ!? ちゃんと自分で育てるからっ! お願いお母さん! 」

「ダメです! 元の所へ戻してきなさい! 」


捨て猫を拾う子供とお母さんみたいになっているが、ティナは持って帰りたくないだけだ。

卵は重力魔法が使えないので持って帰ろうと思うと当然馬をひくしかない。早く帰りたいティナは僕の重力魔法でひとっ飛びしようという魂胆なのだ。


「それに、あんな大きくなるペットを飼える訳がありません」

確かにそうだ。鎧を脱いでもあの地龍は60メートルもあった、卵ですら僕より大きい、どこで飼えと?


「やだっ! 飼うったら飼う!! 」

デカくなったら貴族になって領地を貰います、住民は地龍一匹。


まぁこんな言い合いをせずともこの卵は持って帰らなければならない。それが地龍との約束でもある、ここに放って置いて後でママ龍が見つけて激怒、何てことになったら洒落にならない。


「……なら私どもの馬車を使って下さい」

そう言ったのは僕が勝手にケチ臭いと思っていたコルトだった。

約束通り地龍を退けた僕を無下に扱う事もできず、子供達の返還と共に馬車代までオプションしてくれた。

そう言えばそもそもの目標は子供達を取り返すことだった。


「え? ありがとございます、では遠慮なく」

本音を言えばもっと寄こせ、元々の取り引きがこの条件だったのだが、釣り合わない気がしないでもない。




「……あの、お姉さん……あ、ありがとうございます」

連れて行かれた六人の子供達のうち一番年長だろうか、一度だけ話したことのある名前も知らない少女が子供達全員を代弁するかのように、たどたどしい口調で礼を言う。

それに続くように五人の少年少女達が僕にありがとうありがとう、と元気よく連呼する。


このありがとうが何よりも価値がある……なんて全く思わない。言葉なんて口があれば猿でも吐ける、現にこの子供達も、年長の少女以外はそもそも自分の置かれていた立場を明確に認識していた訳では無いだろう、だから地龍と戦った僕をまるでヒーローを見るかのような目で見ている。


もちろんこんな僕の考え方は多くの人に受け入れられ無いだろう、言葉には価値がある。当たり前のように思えるが、その言葉を貰った人には言葉を送った人の真意が分からない。それが僕には恐ろしい。

自分が受け取った言葉の意味をそのままの意味で受け取るのが怖い。


……まぁ、だからと言ってこの子供達の感謝を信じないほど僕もイカれてはいないが。要は僕にとって価値があるのは誰に言われたかよりも、何回言われたかだ。

誰かに認められることで自分の価値を再確認できる、誰かにとって必要な人間になりたい。




というかそろそろ男だと分かってもらいたい。


「えっと……」

女の子を何と呼ぼうか、名前すら聞いていない。


「あ、あの。私、ハルノと言います! 」

綺麗な金髪に似合わないみすぼらしい服を着た少女の名はハルノと言うらしい、幼女に似合う素晴らしい名前だと思います。


「……エディ、お前、まさかそっちの趣味か? 」

何故かアラトがドン引きしている、失礼な。僕はかわいいものを愛でたいだけである。


「アラトは黙ってろ。……えっと、ハルノちゃん? 遅くなったけど僕の名前はエディルトス、アラトとは学園の友達なんだ。それと今回のことはアラトのおかげだから、アラトにもお礼は言ってあげてね? 」


今回の一件だけで自分がアラトのように根っからのお人好しになった訳ではない、そう簡単には変われないけれど、自分以外の人に必死になるのも無駄ではような気がする。

ハルノちゃんは僕には見せない花のような笑顔で、アラトにありがとうとくり返している。


「……ハルノちゃんハルノちゃん」

「はい、なんでしょうか? 」

僕はアラトからハルノちゃんを取り返す。


「僕の事もお兄ちゃんって呼んで……もいいんだよ? 」

流石に自分でも気持ち悪い。

「えっ……」



「ハルノ、こいつ男だぞ? 」

アラトが当然のように言うと子供達だけでなくその場にいたコルトとマルタヒまで固まる……




場が凍ってから数分後、三人の男の子達とアラトは僕の脚にへばり付き、証拠を見せろと僕のズボンを脱がしにかかってくる、二人の女の子は僕の方をチラチラと見ながらひそひそ話をして、ハルノちゃんは目を白黒とさせて困惑している。

まぁそろそろ女の子扱いにも慣れてきたので別にお姉ちゃん呼ばわりでも構わないのだが。




(……それにしてもお姉ちゃんか)

もう思い出すことも、今更悔いも無いけれど、前世を思い出した。前世の僕には一つ上に姉がいた、特に仲が悪かった訳ではないが、この世界に来てからほとんど思い出すことも無いくらいの間柄だった。

元気にしているだろうか? 僕が死んで泣いてくれただろうか? 今の僕ならもう少し上手く付き合えたかもしれない。


聞きたいことが沢山ある、例えば僕の葬式では何人集まっただろうか? 五人、十人? ……一人も来なかったかも知れない。きっとその数が前世の僕の生きた価値だろう、多分ほとんどない。

もし一人も来ていなくても構わない、お前の価値はゼロだと笑ってくれても構わない。


今度こそ僕を見て欲しい。


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