先手必勝不意打ち万歳
全長約80mの地龍、この世界の寸法もメートルなのは不自然な気もするがどうでもいい。
問題はこの地龍をどうするか、無理に倒す必要はない、ここから引いてもらうだけでいい。
寧ろ倒したら死体の処理に困るに決まってる。
「とりあえず近づいて見てくるよ」
「……気をつけてくださいね」
珍しくティナとアラトが心配そうに僕を見るが、遠くから眺めているだけではどうにもならない。
地龍を刺激しないようにグラヴィティブーツを使いできるだけ上空から近づき様子を見る。
(……あれ? ウネウネしてるわりにはさっきからずっと同じ場所から離れないな……)
砂漠の砂に潜ったり出たりしているが、地龍はずっと同じ場所に円を描くように砂を泳いでいる。
いくつか地龍の不自然な点を見つけた僕は、確認を取る為一度戻り、コルトとマルタヒに尋ねた。
「今近くで見てきたんですが、もしかしてあの地龍はずっとあそこから動いていないんじゃないですか? 」
「……そうです、僕達もずっと見ているわけじゃないけど、いつもあの方角にいるみたいなんですよ」
「特にマリーナ鉱山を襲ったりしたことはないんですよね? ……なら下手に刺激せずにこのまま今まで通りにできないんですか? 」
正直あんなのに勝てる気がしないし、下手に攻撃して暴れだしたらもっと大変なことになる。
「そう言われましても……地龍が大人しい理由も分からないまま放置するのも安心できないと言いますか」
「……できれば魔導師様に討伐して貰いたいなぁ〜……なんて」
僕の魔法によって移動した一日にアラトが説得のため、僕のことをあれこれこの二人に教えていた。少々美化していた部分もあるが、ドラゴンフライの群を一人で退けた魔導師が僕であることを知った二人が下手に出ている僕達に地龍を何とかさせようとしてくる。
「……僕が倒せる保証なんてありませんよ? 」
寧ろ無理だと思うし、聞くところによるとあのデゼルトガレオンは現れて約半年特に目立った動きはしていないとという。
「噂程の高火力魔法があれば……何とかならないものですか? 」
直接的な被害を受けた訳ではないが、経営にかなりの被害を受けたであろうコルトがどうにかして僕に戦わせようとしてくる。
「魔法を当てるだけならいいですけど、倒せなくてもし地龍が暴れたりしたら誰が責任を取るんですか? 」
後になって文句を言われたらたまらない。
「……ですがあの地龍がいる限り子供達を返すことはできなくなります」
「……はぁ、分かりました。なんとかやってみるので働いている人達を避難させて下さい」
倒すと言った手前やめるとも言い辛い、やってみるだけやってみる。うまくいけば良し、失敗してもヤレって言われたから、ということにしよう。僕も子供だし何とかなるだろう。
それから数時間、マリーナ鉱山の作業員は皆避難を完了し、僕は先と同じように上空から近づき地龍を見下ろす。
地龍はやはり砂漠の砂を泳ぐように同じ場所をグルグルと回る。
「ハイドロボムッ!!! 」
先手必勝不意打ち万歳、さらに言えば叫ぶ必要すらないのだが黙って打つのは卑怯な気がした。
鼓膜が震えるほど大きな音と熱を発した僕の魔法は、ちょうど地龍の背中辺りに当たる。
地龍の巨体がズンと地面に沈み、爆発が土煙を巻き起こす。
「……グゥゥウオオオオッッッ!!!! 」
一拍付いた後、僕の魔法よりも大きくビリビリと響く地龍の咆哮があがった。
今の一撃に三分の二の魔力を使い、さらに言えば威力が散開しないよう一点集中の攻撃だ。まだ土煙で良く見えないが地龍の咆哮が断末魔でないなら僕達の負けだ。
(……こう言うのって、やったか⁉︎ とか言わなくても倒せてないこと多いよね)
暫くして砂煙りが収まり、地龍の体が露わになる。先の咆哮から地龍に音沙汰はなくその巨体も動かない。そして僕が魔法を放ったその場所は鱗がバキバキに割れ大きく地龍の背中が陥没していた。
しかし、僕の攻撃は鱗を割っただけで終わっている。鱗の中の肉が傷つき血を流す様子はない。人間で言うなら爪が割れた、くらいのダメージだろう。
(……じゃあもういっちょ! )
地龍が動き出す前にトドメをさそうと、土魔法で作った5メートル程の杭を割れた鱗の向かって打ち出す。
先程から何やら骨を踏むようなパキパキという音が聞こえる。
しかし杭が地龍に刺さる直前、破れて砕けた筈の鱗がメキメキと再生し地龍の体を覆い金属質な音を立て杭を弾いた。
「……は? 」
おそらくだが、この世界に回復魔法なるものは無い。切り傷や火傷ならまだしも、体が再生するための理由を知らなければ再生魔法は使えないはずだ。
「……そんなんズルいわ」
思わず大阪弁が出てきた。
地面に沈んだ地龍の体が徐々に盛り上がり、砂から顔を出し、顎に生えた長い牙と黄色い目玉を僕に向けた。
そんな事言ってる場合か? と言われそうだが流石ドラゴン、超かっこいい。
「……こ、こんにちは〜 」
地龍と睨みあうこと数十秒、気まずさに耐えれなくなった僕はとりあえず挨拶をしてみた。
地龍は僕から目線を外し何度かキョロキョロとした後、僕に目線を向け直した。
『今の攻撃、もしやお前か? 人間』
地龍はカタコトだが、確かな日本語で僕に語りかけた。
喋れんのかよお前、というツッコミをグッと堪え、地龍の問いに答える。
「えっ、あっ、はい……そうです、突然すいませんほんとに」
勝ち目は無いがコミュニケーションは取れるようなので、できるだけ申し訳なさそうにぺこぺこする。
『……私の知っている人間は今のような強大な魔法は使えぬはずだが? 』
「えっと……ちょっと僕が特殊でしてその……調子に乗ってすいませんでしたッッッ!! 」
どうせ飛んでいても魔法を打たれれば終わりなので、できるだけ誠意を込めるため僕は地龍の前に降り、正座中である。
お願いだから殺さないで、と必死に低姿勢を繰り返す僕を地龍は満足気に見下ろす。
『……話が通じないと思っていたとは言え、貴様は私に無言で近づき、卑怯にも不意打ちを仕掛けてきたのだから……覚悟はできているな? 』
地龍は気分が良いのか嬉しそうに語った後、返答を待たず、土の杭を空一面に広げ、僕に向けていた。




