デゼルトガレオン
颯爽と現れてカッコよく助ける。
まさにヒーローみたいな登場をした僕等だが、実際にする事は先ほどの冒険者達とあまり変わらなかったりする。
「つまりはこの子供達を貰いに来ました」
「……全然話が見えないのですが」
子供達を連れて馬車を引いていたのは細身で気の弱そうな男性と、炭鉱で働いてますと言わんばかりの筋肉を持ったダンディなヒゲおじさんだ。
どうやら細身の男性、名をコルトと言うらしい、こちらがマリーナ炭鉱の財政担当のようで、先の助っ人の礼を言われた後さっそく交渉に移った。
「まぁ簡単に言うと、その子供達をワイズガード卿から買った金額の倍を出すから譲ってくれませんか? ってことです」
「……私どもが買い取った額の倍ですか? 」
細身で頼りなさそうに見えたコルトだが、さすがは財政担当、金の話となると目を鋭くさせ、少しでも多く僕達から引き出そうとそんな顔をしている。
せめてもの幸運はこの二人が話しの通じる人間であること、門前払いだけは避けることができた。
「これこれコルト君、お金も大事だが今の私達は人が必要なはずだよ? 」
「そうですな、ついついお金の話になると周りが見えなくなるのが私の悪い癖」
やめろエセ右○さん。
「……ではその子供達を僕達に譲ってはくれないと? 」
「そうだね、この子達がお嬢ちゃんとどうゆう関係かは知らないけれど、今私達も人手不足でね。すまないがこの話は無しにして貰いたい」
「……詳しく聞かせて頂いでよろしいでしょうか? 」
ここまで来て、はいそうですかと帰れない。だが思い通りにならないから暴力で解決しようとするほど僕の頭もぶっ飛んではいない。
「話してどうなるものでもないが、そうだね。まず私達の現状から説明しよう、私達の働くマリーナ鉱山は一つだけではなく、広い地域で沢山の銀が産出するんだ。だから多くの穴を開けては銀を掘る、そうやって私達は儲けてきたんだ。しかし困ったことが起きてね、最近鉱山帯に地龍が出現したんだ、そのおかげで我々人間が安全に近づくことができる穴が激減したんだよ」
「掘れる穴が減ったのに人手不足なんですか? 」
話の腰を折る形になったがもっともな疑問だと思う。
「普通はそうなんだけどね、やはり私達も銀の不足による相場の変動は避けたい。では今まで通りの量を掘らなければならないよね? だから新しい穴を開けるんだよ、幸いマリーナ鉱山は何処を掘ってもだいたい銀は出てくる」
「……そんな力仕事をこんな子供達に? 」
「猫の手も借りたいってところだね」
いやぁ、まぁだいたいこの先の予想はつくでしょう?
「じゃあ! 俺たちがその地龍を倒せば解決するんだなっ⁉︎ 」
ほらね?
コルトとヒゲマッチョ、名はマルタヒと言うらしい。二人は顔を見合わせた後、少し苦笑してアラトに訂正を加えようとする。
「えっと……お坊ちゃん? 地龍というのは全長が50メートル近くある竜種の魔物なんだ、人間の力でどうこうできるものではないんだよ」
50メートルのドラゴンって、確かに男の子としては心踊るものがあるけれど、自分が戦うとなると別問題だ。
「大丈夫ですよっ! こいつがいれば倒せます! 」
アラト君ちょっとーー
「そうは言ってもねぇ……」
二人はアラトの言葉を子供の戯れ言と思い、また苦笑いをする。
正直もうめんどくさい、どうせこの二人は僕達の話を間に受けはしないだろうし、そんな二人にアレコレ説明するのも時間がもったいない。
早く家に帰りたい、本当に帰りたい。
「……はぁ、もういいです。時間がもったいないので早く地龍を倒しに行きましょう」
ティナがうんうん頷いている、君も帰りたそうだしね。
アラトも含めポカンとしている三人を尻目に、子供達を閉じ込めている檻の上層をウインドカッターで切り取り、開いた天上からコルト、マルタヒ、アラト、ティナを放り込み、重力魔法で空へ飛ばす。
だいぶ密度が高くなってしまったが直ぐに着くので我慢して欲しい、お馬さん達はお留守番ね。
「ちょっとちょっとちょっと!!! 何するんですか⁉︎ こんな事していいと思ってるんですか⁉︎ 」
うるさいなぁ、ちょっとは子供達を見習って黙ってろよ。
因みに子供達は思考を放棄してか大人しい。
まだコルトがうるさいが、無視して蓋の空いた檻をそのまま飛行機代わりにして一気にマリーナ鉱山へ直進する。
僕の事をよく知らない子供達とコルト、マルタヒはそれぞれの反応を示す。
子供達は僕の事をスゴイスゴイと褒めたて、コルトとマルタヒは商売人、圧倒的な物流と機動力に声も出ないようだ。くるしゅーない。
本来なら馬車で一週間は掛かる道のり、障害物も馬の事も何も考えなくてすむ飛行機(仮)は約一日でマリーナ鉱山へ到着した。
今までの僕達の旅は何だったのか、エンジンの付いた自動車を後ろから押して進んでいた気分だ。
マリーナ鉱山、そこは一面が砂漠で岩肌がむき出しのゴツゴツとした岩と大きな崖が印象的で、前世なら観光名所と言いたくなるような見晴らしの良さである。。
なんなら遠目で地龍らしきバカでかい何かがうねうねしている。
「アレが地龍ですか? 」
「……そうです」
初めこそ煩かった二人だが一日も経てば大人しくなった。
それよりも地龍、固有名で言えば『デゼルトガレオン』という名の竜種らしい。名前がカッコイイ、今までの魔物の名前が安直すぎてカッコ良さが際立つ。
自信満々だったけれど全く勝てる気がしない、50メートルと聞いていたけどその倍はありそうに見える。
まず遠目でもしっかりと特徴が分かるほど大きい、龍という名だがドラゴンのような翼は無く、どちらかというと砂漠を泳ぐ鯨のような体をしている。
さらに加えるとその体は灰色の岩のような鱗で覆われ、四本の手足は砂漠を泳ぐためのヒレのような形、そして一番の特徴は口元にある長い長い二本の牙だ。
さらに悪いことに、ただデカいだけでなくその巨体み見合った膨大な魔力で土魔法を使ってくるそうな。
「……やっぱ子供達攫って帰らない? 」
「……私も同じことを考えていました」
ティナと両想いだ、嬉しいな。