アラトとお金とお猿さん
朝日が顔を出し、オレンジ色の空が気持ちの良い朝を連れてきた。隣には100本の出来上がったジュース瓶とゾンビみたいな顔のアラトが転がっている。
結局作業が終わらず、アラトを僕の部屋に招き夜通しで作業を行ったのだ。
どうやら僕が寝ている間にアラトはノルマをこなしたようだ、我が社の社員は優秀である。
「アラト起きろ! 今からこれを半分を学園、半分をお前の店に送るぞ」
「うぅ……エディルトスの鬼、悪魔……」
……まだ寝ぼけているようなのでとびっきりのお目覚めをプレゼントしようと思う、アラトの周囲を魔法で氷点下まで下げてやる。
「……寒ぃ…………やめろやめろやめろ寒い寒い! 起きるから! 」
「おはようアラト、 昨日はお疲れ様! 」
いい社長は社員を労うことを忘れない。
「今何時だと思ってるんだよ、荷物を運ぶにしてももう少し時間があるだろうが」
「僕の目が覚めたんだから仕方ないだろ? 」
「理不尽すぎる……」
アラトの目が覚めてしまったからには仕方ない、少し早いが商品を運び込むことにした。
100本のジュース瓶を運ぶためにアラトは何度も往復をしないといけない、本当は僕が重力魔法で運べば終わりなのだが、あくまで働くのはアラト君だ。
……見ていて少しかわいそうだったので、もう一度アラトに重力魔法を教えてあげるようと思う。
「はぁ……はぁ……、運び終わったぜ」
「お疲れ様、後は僕がやるからアラトは休んでていいよ」
「おう……お前も少しは働け」
という訳で僕達二人は、学園の広場の真ん中に来ている。この広場はレンガ張りの床の真ん中に噴水が建てられていて、学園に来た生徒達は必ずここを通って自分達の教室へ向かう。つまりここで宣伝していればおのずとと学園全体に広まる、というわけだ。
「……で、俺はなんでいるの?仕事終わりじゃないの? 寝かせてくれないの? 」
「一人じゃ恥ずかしいだろ 」
そんな話をしていると男女二人組の生徒が広場にやって来たので、さっそく宣伝を始めるために二人組に話しかけてみた。
「おはようございます、少しお時間よろしいですか? 」
アンケートの調査員みたいになってしまったが二人組は脚を止めてくれた。
「あれ? エディルトス君だ、どうしたの? 」
僕は顔も知らなかったが向こうは僕の事を知っているみたいだ。自分で言うのも変だがこの学園で僕はちょっとした有名人だったりする。
「実は友達と面白い飲み物を作ってみて、それを宣伝してまわってるんです。今回は無料ですのでお試しにどうぞ」
そう言って僕は二人にジュース瓶を渡すと、二人は不思議な顔でガラス製の瓶を見た後中身を飲んだ。
「わっ!辛っ! 私はちょっと無理かも……」
「……そうか? 俺は美味いと思うぞ? 後で買いに行くよ」
やはり炭酸はどちらかと言うと男子の方に人気のようだ。
「……そうですか、ありがとうございます。これは放課後に街の大通りに面してる店で僕が売っているので、よろしくお願いします」
どうやら女生徒の方は僕が売っている、というところに食いついたようだ。まぁ売り上げに貢献してくれるならどちらでもいい。
こうして何人かの生徒に配っていると、いつの間にか僕達は多くの生徒に囲まれていた。
「おい、エディどうするんだ? もう全部渡してなくなったぞ? 」
「……どうしよう」
二人でまごついている間にも僕達を囲む人の数はどんどん増えていく。
「すいませーん!! もう全部無くなっちゃいました! 放課後に街で売っているので今はごめんなさいっ! 」
声をあげて品切れを主張したがやはり不満の声があがる。無料で配っていたのに残りは金を払えと言われて文句が出るのは仕方ない。
しかし不満の声をよく聞くと「エディ君からのプレゼントが……」とか「家宝にしたいのに……」とかばかりだ。せっかく作ったジュースの商品価値があまりないようでアラトがかわいそう。
仕方ないので最終手段に出ることにした。
「……じゃあ! 貰ってない人は僕とのフリーハグでっ!! 」
自分のハグにフリーもクソも有るのかと思ったが周囲の生徒には大盛況のようで、むしろジュースを貰った生徒が残念な顔をしている……
結局黄色い声と共に僕が一人ずつハグすることによって事態は収まった。中には変なところを触ってくるお姉さん達や、少なくない数の男子生徒が僕を抱きしめにきたのは語るまでもない。
結局放課後にアラトの親父さんの店に商品を置いて貰い、僕が売り子をすることで飛ぶように売れた。
ちなみに料金設定は銅貨4枚だ。
今まで触れてこなかったがこの国の貨幣は銅貨と銀貨と銀貨、さらに白金貨である。
銅貨とは大体日本通過で約100円ほど、銀貨で5000円ほど、金貨で10万円、白金貨は1千万円ほどらしい。この辺は見たことがない。貴族や商人でない限りそこまで大きなお金を動かすことはないからだ。
話を戻すと炭酸ジュースに銅貨4枚は少々高い気もするが、何せ元の果実ジュースが銅貨1.5枚ほど、さらに純水、人件費と考えるとこれくらいが妥当だと思ったからだ。
実際に今日の売れた数は無料の50本を引いても約300本、途中足りなくなって裏方でアラトとアラトの親父さんに作って貰っていた。
そして売り上げが銅貨1200枚、日本円で12万円だ。そこから材料費が銅貨500枚、アラトの親父さんに払う場所代が300枚で僕とアラトの取り分は1人銅貨200枚、つまり銀貨4枚分だ。放課後の数時間でこれだけ稼げるのは十分だと思う。
しかし十分に宣伝ができた今、目下の目標は大量生産だ。僕が大量の水を一気に炭酸水に変えることは可能だが、何せ炭酸水は長時間経つと二酸化炭素が抜けてしまう、どうにかして人員を増やしたい。
結局話を聞いたクロナとリョウに手伝って貰い、数日間アラトのアラトの親父さんの店で炭酸ジュースの販売を続けた。ちなみに商品名は『ファソタ』だ、ソだから。
初日は学園の生徒ばかりだったが、店が繁盛していることに引きつけられた一般のお客様さんも増え、今では僕が売り子をする時間だけで1000人もの人がファソタを買いに来るようになった。
それに伴い僕の接客スキルもアップした気がする。お釣りや商品を渡す時、お客様の手をギュッと握ると、頬を染め次の日も来てくれることが多いのだ。
店が起動に乗り出した頃、僕達は学生らしくない小金持ちになっていた。何せ一日に一人当たり銀貨6枚ほどが手に入るのだ。
リョウとクロナには黙っているが、アラトなんて一人で『あのお店』に行ってキャッキャッウフフしているみたいだ。
帰ってくるたびに満足気な顔に、肌がツヤツヤしている。
「なぁエディ坊よ、あいつが稼いだ金だから何にも言わねーが、アラトの野郎何に金使ってるんだ? 」
まぁこうなるわけだ、正直アラトは行きすぎだ。作業がない日はほとんど毎日行っている、どこの猿だよ、そりゃあ親が心配する。
さすがにアラトの名誉のために、息子が娼婦館に行ってますよ、なんて言えないので誤魔化したが、そろそろ一度釘をさすことする。
という訳で僕は前にアラトと来た娼婦館の前でアラトが出てくるのを待ち伏せしている、名づけて『ラブ○の出口でバッタリ知り合いに出会った! 大作戦! 』だ。相当恥ずかしいと思う。
しかしかなりの時間待ってみたがアラトは一向に出てこない、どれだけお楽しみしてるんだと思ったが、待っているのも暇なので突撃してみることにする。
「「「「いらっしゃいませ!!!! 」」」」
いやぁ絶景絶景、懐が温かい状況でこの光景はクるものがある。
「ってあれ? こないだのかわいい男の娘じゃない、どうしたの? 」
前に僕達に話しかけてくれたお姉さんだ。
「何度もすいません、実はこの前僕と一緒にいた赤毛の男の子がここに来てると思うんですが……」
さすがにお楽しみ中に出て来いとは言い辛いです。
「……えっ? あの子はあれから一度も来てないわよ? 」