リリィ
蓋を開けたらサーフィアさんが王女様だった、いやもうほんと勘弁して欲しい。スケベ心を転がされてるのは僕も同じだったみたいだ。
それにしてもサーフィアさんと結婚か、悪い話では無いんだけどなぁ……
別に不満はない、でも僕がサーフィアさんと初めて会ったのはつい二ヶ月ほど前だ。
そんなこんなで悶々としながら学園に向かったところなぜかクロナの機嫌が悪かった……
なので関わらないでおくことにした。
「エディ君⁉︎ 無視するとはどういうことですか⁉︎ 」
「い、いやー気づかなかったなぁー。お、おはようクロナ」
「サーフィア王女とのこと! お爺様が嬉々として話してくれました! どうゆうことですか⁉︎ 」
どうやら僕がサーフィアさんと結婚すればクロナには手は出せないと思い。喜んだレナードが全部バラしたらしい、ほんと使えねぇなあのクソジジイ。
「あー……いや、まだ決まった訳じゃないんだよ? 」
これがあの有名な修羅場というやつなのかしら。誰とも付き合ってすらないけど。
「それでもです‼︎ エディ君はどうするつもりなんですか? 」
質問をしたクロナは自分が責める資格がないのを知ってか、少し申し訳な顔をしている。
「……そんなこと言われても分からないよ、サーフィアさんは好きだけど結婚とか言われても困る」
「でもこれは王様が決めた縁談ですよ? それにエディ君に悪いことは一つもないと思うんですが……」
「結婚しろって言われてする結婚なんて嫌だね」
かっこよさげな台詞を吐いたが、前世でも恋人と一年も続いたことないし、結婚どころか婚約中にフられる自信がある。
「エディ君ってほんとわがままですよね。自分の事ばっかり考えてます」
ドストレートな悪口を言われてしまった。
結局クロナはこれ以上追求してこなかったのでいつも通りクロナに魔法の授業を行った。
ちなみにクロナに魔法を教える授業料はしっかりとレナードから受け取っているが、残念ながら僕の手元には一銭たりとも回ってこない。全てティナが管理しているせいだ、酷いと思う。
いつも通りレーナ先生の魔法による謎科学の授業を聞き流しアラトとリョウを誘って遊ぼうかと考えていたところ、悩みの種が自分からやって来た。
「エディ君久しぶり! さぁ今から私とデートに行きましょう‼︎ 」
下級生のクラスに欲望丸出しで突撃できるサーフィアさんは正直凄いと思う、クラスの女子とかが凄い睨んでるし。僕は男子に睨まれてるんだけど。
「……突然どうしたんですか? 」
「そのままの意味よ、エディ君に拒否権はないわ」
するとサーフィアさんは一枚の何やら高級そうな紙を見せてきた。
そこには『エディ君を一日好きにできる券(再利用可)』とかわいらしい丸文字で書いてある。
確かにそんな約束をしたけどやり過ぎな気がする、御丁寧に王印までしてあるし、職権乱用だ。
皆が欲しそうに見てるよ?
これで僕の放課後は完全にサーフィアさんに握られてしまった訳だが、別に嫌じゃない。何度も言うがサーフィアさんは10人いたら20人振り返る程の美人だ。
残りの10人はほら、アレ、虫とかカエルとか。
気になるのはクロナの好感度くらいのもの。
「エディ君……今日は無理矢理でごめんね? この券もあんまり使わないようにするから」
学園を出て賑わう大通りに出る前、サーフィアさんは迷惑をかけた僕に嫌われたくなくて不安のようだ、でも二度と使わないでは無いんだね。
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ? 」
もっと気の利いたセリフを吐けたらいいのだが、生憎僕にはできない。
「……ならお姉ちゃんって呼んで? 」
まだ諦めてなかったのか、もう会うたびに言われるのも面倒なので僕も腹をくくろう。お姉ちゃん大好き。
お姉ちゃんとの兄妹? 姉妹? デートは思った以上に楽しかった。あまり街まで出たことのない僕にサーフィアさんは露店で人気の魔物の肉や魔導具店などを紹介してくれた。
「お姉ちゃんの魔導具はあのレイピアだよね? 」
「そうよ、本当は城の宝物庫からかっぱらってきたんだけどね。これが結構しっくりきてさ」
「綺麗な魔導具だとは思ったけどそうゆう事だったんだ……」
まぁ自分の家に落ちてた物ならいいんじゃないかな?
「魔導具と言えばエディ君のでしょ、空を飛べるなんてそれだけで魔導師の歴史が変わるのよ? 」
「ふーん……別にそんなに大したものじゃないけどね、お姉ちゃんにも教えよっか? 」
「もって……そんな簡単に人に教えていい物じゃないのよ? 」
心配されてしまった、でも残念ながらアラト達は理解できなかった。
「お姉ちゃんなんだからいいんじゃない? 」
お姉ちゃんは照れくさそうな表情でニヤニヤしていた。多分理解できると思う、何せ僕の知る限りただ一人『電気』というものを知って使っているからだ。
日が沈み始め、そろそろデートもお開きにしなければならない時間になった。しかし僕達二人は本当に聞きたいことを聞くことができていない。
「……サーフィアさん、帰る前に少しだけ話しませんか? 」
僕だって腐っても男だ、これくらいは見栄をはるべきだ。
「……なぁに?改まっちゃって」
サーフィアは少し寂しそうな顔で僕の答えを待っていた。
「婚約の話です……あれはどうゆう事なんですか? 」
「どうゆうって、そのままの意味よ。私の欲しいものとお父様が欲しい物が重なった。それだけよ」
「答えになってません、サーフィアさんも、リーブズ王も。人間の皆が皆、利益だけで動くと思ったら大間違いです」
多分サーフィアさんと結婚なんて前世でいう宝クジの一等賞くらいのラッキーだと思う。でも宝クジみたいにラッキーだけでは終われない。
たいして娯楽も、生きる以外にお金の使い道もないこの世界だ、そんな物が手に入るよりもサーフィアさんからの信頼を失う方が怖い。
それに、多分今のサーフィアさんは僕の【魔法】と【見てくれ】に”意味”を見い出している。この醜い内面までは知らないだろう。
「……私は、利益だけじゃないんだけどね」
そうであっても、僕はまだサーフィアさんの【見てくれ】と【地位】に価値を探してしまう。
多分、サーフィアさんと同じ顔で同じ王女という肩書きの全く別の人でも、僕の心は簡単に揺れる。
「今の僕は多分、自分よりもサーフィアさんを大事にできません。まだ自分の事で精一杯なんです」
どうせ失うのが分かっているなら、こんなに辛い思いをしてまで腹の底まで探り合う必要はないと思う。
上辺だけの関係にも【そこそこ】の価値はあると思うから。
「……そっかぁ、元々今回は無理な気がしてたけどやっぱり辛いなぁ、まさか王女の私がフられるとは思わなかったよ」
僕だって辛い、だから恋愛なんてしんどいんだよ。自分で精一杯の凡人が人にまで気を回せる訳がないだろ。
本当は僕だってサーフィアさんと婚約をしたい、こんなに美人で非の打ち所がない人だ。それでも今流されて二度と取り返しがつかなくなるよりはマシだ。
自分の不甲斐なさに涙が溢れたのはなぜか僕の方だった。
サーフィアさんごめんなさい。