リトルブレイバー
これまでの1〜18話を全て一人称に変更し加筆しました。もし良ければ目を通してみてください。
何とか魔物の群れを撃退し学園に戻った僕を出迎えたのは、まるで英雄の帰還のような賞賛と歓迎だった。
まぁちょっとは、いやかなり期待していた。
「エディ君! 大丈夫ですか? エディ君が一人でドラゴンフライの群れと戦ったと聞いて本当に心配したんですよ? 」
クロナが涙を拭った後であろう赤い目をしてまくしたててきた。
「特に怪我はしてないよ、ちょっと魔力使い過ぎて眠たいだけかな」
むしろ自分の魔法で吹き飛んだのが一番痛かった。
自分の無事を伝えると待っていた大勢の人に囲まれる。
「エディルトスくーん! 助けてくれてありがと‼︎ 」
「これが噂のエディルトス君かー。女の子みたいだな」
「エディルトス君の魔法で腕折れちゃったけど助けてくれてありがとう! 」
「よっ!『リトルブレイバー』」
三人目の人は本当にごめんなさい、わざとじゃないんです。
「っていうか『リトルブレイバー』ってなんですか⁉︎ 」
「いやね、サーフィア会長に助けられた後。逃げている途中に空で泣きながら戦ってるエディルトス君を見た子がいて。その子がエディルトス君の事をリトルブレイバーだって言ったのよ」
名前は知らないが親切な女生徒が教えてくれた。
しかも泣きながら戦っていたのがバレてる、これじゃあどこが英雄の帰還だよ。初めてのお使いを褒められてるみたいだ……
「……リトルブレイバーだけは辞めて下さい」
「私は良いと思うけど? 小さな勇者。今日のエディ君にはぴったりの名前だと思うなぁ」
サーフィアさんまでそんな事を言ってくる、しかもなぜか自分のことのように自慢気だ。
小さな……はまぁ僕の身長からして仕方ないけど。
勇者ってアレでしょ?普通の男子高生が突然美人の王女様に召喚されて、スケベ心をあれよあれよと転がされて、理由もないのに魔王伐倒とかにドナドナされるやつ。
全国の勇者様は自分の労働環境を振り返った方がいいとエディ思うな。
「というわけで勇者は無しで」
「何がというわけなのか分からないけど、それだと『リトル』?」
今度はチビときたか。
「……もう何でもいいです」
結局変な二つ名がついてしまった、もう好きに呼んでくれたらいい。
そんな感じで生徒達に質問攻めを受けているとレーナ先生と僕に実践授業の説明をしてくれた先生が来た。
「エディルトス君おかえりなさい。本当にありがとうね……本来は私達が救出に向かうべきだったんだけど」
「まぁ、俺達だけが向かったところで返り討ちにあって終わりだからな。先ほど国の魔導師隊に要請したところなんだよ」
「えっ……もしかして僕が頑張る必要なかったんですか?」
サーフィアさんの嘘つきめ。
「そんな訳ないだろ、この国の王都を護っている全魔導師隊に要請がいったんだぞ。国が傾くところだったんだからな」
そうなのか、サーフィアさんごめんね、大好きだよ。
「そういえば……サーフィアさんがこれから大変な事になるとか言ってたんですけど何かありましたか? 」
「そのことなんだけど……」
レーナ先生がいい辛そうに言葉を濁した。えっ、ご褒美ないの?
「当然と言えば当然なんだがな、ことの顛末を王に伝えたところ、連れて来いってことになったんだよ」
「それはどこか悪いことがあるんですか? いっぱいご褒美くれるんでしょう? 」
「……それだけだといいんだがなぁ」
何とも不安を残す先生の言葉を聞いた数日後、僕はこの国の国王様であるリーブズ・バラウ・シュトラール国王と謁見するため王城を訪れている。
ちなみにこの数日間、煩わしいほどチヤホヤされた。学園のどこへ行っても褒められ、撫でられ、抱きしめられる。僕の鼻は天狗もびっくりなくらい伸び切っている。
しばらくすると僕の前の扉が開かれ、王座を前にする謁見の間に入った。謁見の間には王座にリーブズ王が、そして部屋の両端にはこの国の重鎮であろう貴族達がズラリと並んでいた。
あ、レナードがいる。そういやこの爺さん王直属の魔導師隊を指揮する家の当主なんだった、こっち見んな。
どうせ一代限りだと礼儀作法など少しも習っていなかった僕はこの数日の間、父さんとの猛練習によって何とか形になった挨拶をした。
「エディルトス・ディアマン、ただいま参上しました」
父さんに習った通り王の前で片膝をつき、頭を垂れて話した。正直こんなセリフを自分が吐いたと思うと恥ずかしくて悶絶してしまいそうだ。
「よく来たなアウルのむす……むす……息子よ」
おい、今隣の秘書っぽい人に目線で確認しただろ?
「ゴホンッ……今日は其方に聞きたいことが幾つかある。まずはこの度の魔物騒動について、国を救ったお前に何も無しという訳にはいかん。何か今欲しい物はあるか? 」
「……いえ……特には」
いや考えてもみて欲しい、そりゃあ僕もさっきまでおねだりする物を色々考えていた。お金とか地位とか名誉とか……女の人とか? でもいざ王様とお偉いさん達の前となると『これが欲しー』なんてとてもじゃないけど言えない。
早くも伸びた鼻っ柱が折れてしまった。
「そんなに怖がることはない、お前が今本当に欲しいものを言ってみろ」
見透かされたようで恥ずかしかったが、リーブズ王はまるで子供を諭すかのように僕に優しく声をかける。
「……私はいつかこの国で誰もが認める貴族になりたいと思っています、そのために私は15歳の成人までにそれに見合うだけの人間になることを約束します。ですのでそのとき、私に貴族の席を譲って頂けないでしょうか」
リーブズ王も他の貴族も驚いた様子だ、この後僕にこの国に留まるよう言うつもりだったのに、意外にも僕の方からこの国の貴族になりたいと申し出たのだ。
正直に言うと今すぐにでも貴族にしろと言えばなれるだろう、僕を欲しい国はごまんとあるだろうし何より暴力というこの世界最強のカードは僕が持っている。
でも今はこれでいい。
「……そうか、なら約束しよう。これは口約束ではない、今ここにいる全員が承認だ、分かったな? 」
王がそう言うと貴族達が一斉に頭を下げた。
「本当はもう一つ聞くつもりだったがそれについては今日はよい。それにしてもあまり欲が無いのは貴族にとって損だぞ? 今回は私が色をつけてやろう」
そう言ってリーブズ王は悪戯っ子のように笑う。
そして数日後、僕の屋敷に ゾンネ王国 第二王女サーフィア・バラウ・シュトラールとの縁談の手紙が届いた。