初めての成長
僕の作った魔法によって周囲はもはや森と言える状態ではないが、森の中にあったドラゴンフライのコロニーへ戻ってきた。
爆心地からさだいぶ離れた距離にあったはずのコロニーだが、ドーム状の上部壁はすっかりなくなり、残りのドラゴンフライも全て逃げてしまった。
(空っぽの甲○園球場みたい……)
「……下の壁は残ってるからきっと大丈夫だよね」
軽く現実逃避をしながら土壁の瓦礫を掻き分けてサーフィアさん達を探し始める。
「サーフィアさーん、大丈夫ですかーー……」
いくら呼んでみても反応がない、最終手段を使ってみる事にした。
「サーフィアお姉ちゃーー「どこにいるのエディ君‼︎ サーフィアお姉ちゃんはここよ‼︎‼︎ 」ん……」
瓦礫を掻き分け、ガバッという効果音が聞こえそうな勢いでサーフィアさんがボサボサの頭を出してきた、色々言いたいことができたが今は我慢だ。
「よかった……無事でよかったですサーフィ「お姉ちゃんよ‼︎ 」
せっかく目を潤わせて感動のシーンぽくなったのに台無しだよ、というかお姉ちゃんって呼んでもいいじゃなくて呼べ、なんですね。
「……はぁ、無事みたいですね、他の人達は一緒じゃないんですか? 」
「他の子達は、1人ずつ救出して外に逃がしたから無事なはずよ、ここにいるのは私とシタだけ」
そう言ったサーフィアさんは、よっと言う掛け声と共に地面から目を回したシタを引っこ抜いた、親友をニンジンみたいに扱わないであげて。
「他の皆は大丈夫なはずよ……エディ君の魔法で死んでなければだけどね」
「……冗談ですよね? 」
「冗談よ、多分吹き飛ばされて骨を折るくらいでしょう」
正直骨折も冗談ではないがサーフィアが言うにはセーフらしい、最悪全部ドラゴンフライのせいにしてしまえばいい。
「それにしても、一つにつき一つの国が無くなるとまで言われているドラゴンフライのコロニーを一人で全滅かぁ、エディ君これから大変なことになるよ? 」
「そうなんですか? 」
「当たり前でしょう……一人で国を落とせる魔導師を誰が放っておくのよ」
「えっ……捕まったりするんですか? 」
「まさか、皆エディ君のご機嫌取りに必死になるってことよ、自分のところにきてくれーってね。まぁ私も昨日同じことをした訳だけど」
サーフィアさんは少し恥ずかしそうな顔で言った。
でもこれはもしかすると色んな人にご褒美が貰えたりしたりするかもしれない、いや貰えなくてもねだる、命を賭けたんだから。
「……知らない人のところに行くくらいならサーフィアの味方になりますよ」
「今はそれくらいでいいわ、ありがとう。それと私のことはお姉ちゃんと呼びなさい」
「……はい」
「お姉ちゃんに敬語は使わないよね? 」
「…………うん」
(あれ、サーフィアさんとは甘い恋人関係なるのとばかり……)
あれだけ乱立していた恋人フラグはどこへ行ったのだろうか。
そんな事を話しながら馬車を拾うため昨日のテントへ向かう途中、サーフィアさんにズリズリと引きずられていたシタさんが目を覚ました、ていうか親友ならもうちょっと優しくしてあげなよ。
「……サーフィア? 」
「おはようシタ、怪我はない? 」
「……心配するならもうちょっと優しく運んで欲しかったけど、大丈夫だよ。それと何かすっごい音がして色々飛んできて私も吹き飛んだんだけど、どうなったの? 」
「あれをしたのエディ君よ、文句は彼に言いなさい。ちなみにドラゴンフライもコロニーも全部吹き飛んだわよ」
「……色々意味が分かんないんだけど、ほんとなのエディルトス君? 」
「えっと……それは本当で、すいません」
「いやいや、私のことはいいんだけど……はぁぁ、これはエディルトス君の競争率が上がったね、サーフィア」
シタさんがため息を吐きながらサーフィアさんに言った。
「ふふんっ、ところがどっこい、エディ君は今日から私の弟なのだ‼︎ 」
「……とうとうサーフィアの頭がおかしくなったかーー」
「失礼なっ! ねっエディ君? 」
「……はい」
「ねっ?」
「……うん」
「ねっ?」
「……うん、お姉ちゃん」
きっと今の僕の目は死んでいるのだろう。
「……もう私は何も言わないよ」
シタさんの顔が完全に諦めた顔になってしまった。
「それで、これからどうするの?ドラゴンフライの犠牲者は出てないんでしょ? 」
「そうだけどこれだけの事態だからね、もう授業は続けられないよ。それに逃した皆も学園に向かう様言っておいたから私達も馬車を連れて帰るわよ」
「了解っと……はぁぁ、やっと終わったよ、本気に死ぬかと思った」
シタさんがそう言ったとき、自分があんなに怖かったことを思い出した。
「その……ごめんなさい」
「ん? 何でエディルトス君が謝るの? 」
「……ほんとは怖くてシタさん達を見捨てて逃げ出そうとしたんです」
「……まぁ確かに見捨てられたら悲しいけどエディルトス君は来てくれたじゃん、それに私達を助けに来たのは二人みたいだし、皆そんなもんだよ」
そう言ってシタさんは面白そうに笑った。
しばらく魔法によってなぎ倒された木々を進んで行くと、昨日夜を明かしたテントが見えた。
「おーい! おーい! 」
「大丈夫ー? 」
テントの前ではサーフィアさんに助けられたマイルさんとラルさんが待っていた。
「貴方達……先に戻ってよかったのに」
「いやいや、サーフィア達が心配でね、それに何か凄いことになってたし。あれエディ君でしょ? 」
「ほんとはマイルがエディ君の魔法を見たい見たいってなかなか逃げ出さなかったの」
「全く……まぁ無事で何よりね、それじゃあ帰りましょうか」
生きた心地がしなかった半日だけど、少しだけ変われた気がする、そう思うと泣きながらドラゴンフライと戯れたのも悪くない気がする。
(もう二度と、金輪際、絶対、絶ぇっっ対にごめんだけど)




