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最強魔導師だって嫉妬する  作者: rainydevil
学園編
16/69

苔の生えた勇気

うるさい……まるでヘリが風を切るような、まるで大きな虫が羽ばたくような大きな音が聞こえる。



昨日はシタさんと話した後テントに戻って眠りについた、ここは木々に囲まれ鳥のさえずりと小さな虫の鳴き声しか聞こえない湖の側だったはず……



ここまで考え、やっと今の異常事態に気がつくとテントを飛び出した。

するとまさに今起きたばかりのように髪をバサバサに撒き散らしたサーフィアさんが血相を変えて走り回っていた、しかしその間も絶え間無く頭上から先の羽ばたく音がずっと聞こえてくる。

「サーフィアさ……


言い終わる前に頭上に目を向けた。

一言で言えば圧巻としか言いようがない、雲ひとつない晴天を黒に塗り潰すかのように全長3メートル程の体に四枚の大きな羽を付け、四対八本の脚を持つ何かが空を覆うように飛んでいる。



ドラゴンフライ、そう呼ばれる魔物の群れだ。

この世界にも自然界の掟がある、その中の一つにまるで化け物のトンボが空を覆い、数百年に一度畑も村も町もはたまた国ですら飲み込み蹂躙する厄災というものがある。



「シタとマイルとラルが居ないの! エディ君お願い力を貸して! 」

サーフィアさんが必死の形相で頼み込んでくるが、僕にはまだこの光景が地球のテレビで見た『生き物大移動』くらいにしか思えなかった。


「別にそんなに慌てなくともどこかに様子を見に行ったんじゃ……

そう言いかけたとき、初めて今の状況を把握し、身体の芯が凍るような感覚に襲われた。


話半分にサーフィアの言葉を聞き流しながら空を見ていると、一匹のドラゴンフライが地上から見たら小さな、だが四本の手脚に自分と同じ制服を着た人間を手に持って飛んでいたのだ。

恐らく見張りをしていた三人も同じように助けも呼べず連れさられたのだろう、その瞬間感じたこののない恐怖が僕の体を襲う。



「逃げなきゃ! サーフィアさん! 魔法で飛ぶので今すぐここから逃げましょう! 」

死ぬかもしれない、怖い。この世の未練とかそんな大それたものはない、ただただ死への恐怖に脂汗が浮かぶ。


「そんな事できないわ! シタとマイルとラルも連れさられたのよ⁉︎ それに他の生徒だって! 助けに行かないと」

「助けにって、あんな数の中からどうやって助けるんですか⁉︎ 死ぬかもしれないんですよ⁉︎ 」


正直に言うと、連れて行かれたのがサーフィアで無くてよかったと安堵した、そんな自分が恥ずかしかったが、それでも自分さえよければいい。

「そうだけど! ……それでも私達がやらないといけないの、ここで逃げても王都が狙われる。それに私達はそのための魔導師でしょ! 」







僕はどこかで自分の魔法はまるで成績表で、魔法を使うことはタネを自分だけが知っている手品のように考えていた。

この世界も前世と同じくらい、人間に甘い世界だと思っていた、どうやら甘やかされていたのが自分だけだったみたいだ。



「だから何だって言うんだよ‼︎‼︎ サーフィアさんは力もそれに見合うだけの勇気も正しさも持ってるかもしれないけど、僕は普通なんだ! 一緒にしないでくれ‼︎ 」

もう恥も外聞もない、見栄のためだけに魔法を使っていたつけが今になって返ってくる。自分よりも弱いはずのサーフィアさんが闘おうとしてもなお逃げ出したかった。



「ギィェェェーーーッッ!! 」



僕の叫び声に気付いたのか、空を飛んでいたドラゴンフライが三匹ほど二人の方へ風切り音を出しながら降下してきた。

「サンダーボルト(雷球)ッッ」


サーフィアさんのレイピアの先から青白い稲妻がドラゴンフライの羽を焼き切り、辛うじて一匹を墜したが、二匹のドラゴンフライはサーフィアの魔法を見て、怯えている僕に目標を絞った。


「エディ君‼︎‼︎ 」

「ひぃ‼︎ う、うわぁぁあああ‼︎‼︎‼︎ 」

情けない声を上げ、尻餅をつき、死に物狂いでトンボ二匹には大きすぎる半径10メートル程の火炎球ファイアーボールを作り二匹のドラゴンフライを蒸発させる

「何なんだよ……何で僕がこんなことしなくちゃならないんだよ‼︎ 」

「……それだけの力が有るんだから、それを使う義務があるのは当たり前よ」

サーフィアさんは怒ったような、そして必死に自分にも言い聞かせるような、そんな顔をしていた。


「……お願いだからそんなに期待しないでくださいよ、僕は所詮偽物なんだ、そんな勇気あるわけないだろ」

もう言葉遣いもめちゃくちゃで自分でも何が言いたいのか分からなかった。


「私だって怖いに決まってるでしょ! だけどやらないといけないの! それができない魔導師なんていくら強くても価値は無いの!! 」







自分の価値がなくなる、僕にとってそれは死ぬことよりも怖い言葉だ。

前世で自分の価値を認めてもらう為に、狂犬みたいに吠えて吠えて、吠えまくっても誰も振り向いてくれなかった。何よりつい数時間前テントの中でに自分を欲しいと言ってくれたサーフィアを失望させたくない。


「分かりましたよっっ‼︎ やればいいんでしょ! 」


僕は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で、長らく使わず、苔の生えた勇気を引っ張りだしてきた。




恒例のエディ君うじうじタイムですが、次話からやっと主人公らしくなってもらいます。

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