サーフィア・バラウ・シュトラール
ゴブリンを倒してはい休憩ではないみたいだ、ほんとは休憩したかったけど。
「先に進むわよ、今日は森の中央にある湖まで行くからね」
湖を背にした状態だと夜の見張りの方向が半分になり、しかも食料が簡単に取れるらしい。
その後魔物と遭遇する事なく湖に到着した僕達はまだ日か登っているうちに夜営用のテントを建てた。
「じゃあ今から夕食を取ってそれが終わったら今日はもう休みましょう、見張りはマイルとラル、私とシタで二時間毎に交代、エディ君は初めての戦闘で自分が思っている以上に疲れてると思うから今日はいいわ」
「……ありがたいのですが僕は大丈夫ですよ」
日本人は休んでいいと言われると休めないのだ。これぞ社畜民族。
「今日はラッキーくらいの気持ちでいいわよ、明日からはもっと森の奥に入るからエディ君の火力に頼ることになるしね」
「そうそう、サーフィアがエディルトス君の寝顔見たいらしいから甘えちゃいなよ」
僕の寝顔と見張りの労働、等価交換が成り立つだろう、多分。
見張りが決まったら夕食だ。
「サーフィアさん、夕食はどうするんですか? 確か食料は何も積んでませんよね? 」
「この授業は基本自給自足だからね、まぁ見てて」
そう言うとサーフィアはゴブリンとの戦闘に使った綺麗なレイピアを取り出し、レイピアの先を湖の付けた。
「えいっ 」
バチバチッと聞こえる音と共に水面が跳ね、水面にはビクビクと痙攣している淡水魚? が浮かんだ、まさかこんな漫画みたいなことをすると思わなかった。
よく見るとその魚? はナマズの顔にブラックバスの胴体が付いた30センチほどの大きな体に、何故かサンショウウオのような手足がついている、いやいやいや。
(これ魚じゃないだろ……)
「……まさかとは思いますがこれが今晩の夕食ですか? 」
「……そのまさかよ、仕方ないでしょ今日はゴブリンしか出なかったんだから。ゴブリン食べたい? 」
うんこ味のうんことうんこ味のカレーの選択だ、本当に勘弁して欲しい。
「……いえ、こいつでいいです。ちなみにお味はいかがなもので……」
前世ではゲテモノほど美味しかったりする。
「不味いわね」
「不味いよ」
「「ゴブリンみたいな味」」
ゴブリンとどう違うんだよ思ったけどうんこを食べるよりかはマシだ、というかマイルさんとラルさんはゴブリン食べたんだね……
僕が若干引いているとサーフィアの手によって次々と夕食が出来上がっていった。
淡水魚の塩焼き、淡水魚のから揚げ、淡水魚のムニエル…………
サーフィアさんの卓越した料理スキルを駆使しても、うんこは磨いてもうんこだった。
サーフィアさんの初手料理が光るゴミだった事に少し悲しくなり、明日は必ず食料を調達しようと固く決意したのは言うまでもない。
完全に日が沈みテントの前に広がる森は月の光に当てられゴブリンが居るとは到底思えない神秘的な光景になっていた。
「さぁ……エディ君、一緒に寝ましょう? さぁさぁさぁ! 」
そんな情緒もクソもないサーフィアさんの声が聞こえる、貞操の危機かもしれない。
「もう、落ち着きなよサーフィア。ごめんねエディルトス君、エディルトス君が私達の班に来るって知ってからずっとこの調子でね」
「大丈夫ですよ、僕もサーフィアさんの班になりたかったので」
そう言うと堪えれなくなったのか、サーフィアさんは僕を抱きしめそのままテントに連れ込んで行った、一応抵抗する振りはしておこう。
「た〜す〜け〜て〜(棒)」
「ヤバくなったら叫びなよ〜助けに行くからねー 」
そんなシタさんの声が背後から聞こえた。
テントは元々三人用であるはずなのに何故かサーフィアは僕のすぐ隣にいる、嬉しいけど実際にされるとドギマギしてしまう。
サーフィアさんは僕を背中から抱きしめているが、なぜかいつものように騒がしくする事はなく、寧ろ少しだけ落ち着いた雰囲気だ、サーフィアさんの何か言いたげな様子がふざける事を許さない。
「……どうかしたんですか?」
「……今日はお疲れ様、ゆっくり休んで……って言いたいところなんだけどね、少し話があるの」
サーフィアさんは今まで出さなかった、少し寂しそうな声をして僕の背中に顔をうずめた。
「……どうしたんですか? 」
「私はもう来年には学園を卒業して、今は詳しく言えないけど、そこで私の人生は私のものではなくなるの」
「……よく分かりませんが僕が力になれることですか? 」
(シンデレラみたいなことかな?)
「単刀直入に言うとエディ君、全て保証するから私の物にならない? 」
サーフィアさんにそう言われた後、僕が答えあぐねているとサーフィアさんは名残惜しそうに僕を抱き締めて『少し早いけど見張りをしてくるね』と言いテントを出て行った。
考えがまとまらず悶々としたまま寝れる筈もなく、サーフィアさんが出て行ったしばらくした後僕も見張りに参加しようとテントを出た。
意外な事にサーフィアさんは同じく見張り中のシタさんの膝に頭を乗せて眠っていた。
「勘違いしてあげないでね、今までこの子が見張り中に寝ちゃった事なんて無いんだから」
「……シタさんは知ってたんですか?」
シタさんは僕が来たことに驚かず、寧ろ予想通りのようだった。
「一応親友だからね」
「理由は知ってるんですか? 」
「知ってるけど教えない」
「……そんなの不公平じゃないですか、そっちは全部よこせって言う癖に僕には何も教えてくれない」
「それを言われると弱ったなぁ」
そう言いながらシタさんは困った様に笑った。
「もし……サーフィアさんが欲しい物が僕の魔法なら全て教えます、それでいいでしょう?」
今までサーフィアさんがかわいがっていたのが自分ではなく自分の魔法だと思うと少し頭に血が登った。
「それは違うよ、この子が欲しいのエディルトス君、君だから、それは間違えてあげないで」
そう言われて少し頭が冷えたが、それでも何と応えたらいらいのか分からない。
「……そんなすぐに答えれませんよ」
「別に急ぐ必要はないよ? でもさ、私は寧ろ悩む方が不思議だなぁー、この子頭もいいし魔導師としてももう一流と言っていい、実のとこら家柄も悪くない、さらに同性の私から見ても羨ましいくらいの美貌だよ? 私が男だったら迷わずヒモになるよ」
そんな事を言われたら単純な僕は悩みよりも美人に求められるという、前世では一度も味わえなかった優越感に浸ってしまう、そんな事を考えているといつの間にか目は閉じていた。
少し物語を詰め込みすぎたかもしれません。