爆弾魔エディルトス
クロナに魔法を教える約束をした次の日、クラス中は何やら不穏な空気に包まれていた。
美少女のクロナと仲良くなれたことに舞い上がった僕が教室に入るなり。
「おはようクロナ‼︎ 僕も(魔法を教えるのは)初めてだけど今日は二人っきりで(魔法を)楽しもうね‼︎ 」
なんて口走ったせいである、もちろん教室内の女子達は阿鼻叫喚である。
どうもクラスの中での僕はマスコットのような扱いのようで、何をするにも暖かく見守られている。
魔法を教えることは隠しつつクロナと二人で誤解を解いて回ったがそれでも教室内の女子達は不満そうな顔、男子達は密かに思いを寄せていたあの子が男か女か分からないようなやつに根こそぎ持っていかれていたことに白目を剥いていた。
どうだ、これがDNAの違いだ、分かったか。
「……いいなぁ、クロナ」
「私もエディ君と二人っきりで……」
「よかった、エディ君はまだ綺麗な体……」
「こうなったら………監禁するしか」
バカなことを考えていると女の子達の呟きが聞こえてくる、少し危険な香りがする女子達がいるがこれくらいはもう生徒会長で慣れてしまった。
一度くらいヤンデレちゃんに監禁されたいと思う僕はMなんだろうか。
「エディ君、後でお話があります」
当たり前だがクロナは怒っていた、きっと将来クロナの旦那さんは尻に敷かれることだろう。
そんなこんなで放課後、二時間ほど正座を続けガクガクになった脚で僕はクロナへの魔法講座を始める。
「じゃあ今日は炎系の魔法をやってみようか、クロナはどれくらいできる? 」
先ずは一番実用的な火魔法から教えていこうと思う。
「……実は私は少しの火を出すこともできません」
クロナは申し訳なさそうに応える。
「少しも? 確か熱くなれって命令するだけでも火は出るはずだけど……」
意味分かんないけど。
「それです‼︎ 誰に聞いてもそう言うのですが意味がわかりません‼︎ 一体何に熱くなれというのですか? 」
誰もが当たり前だと思うことに疑問を持ち解き明かそうとするのは、天才と言われた人間が大成する前、愚か者と呼ばれていたのと同じではないだろうか。
そう思うと天才を諦めきれない僕の心がチクリとが痛んだ気がした。
「先に答えを言っちゃうと熱くなれって言われてるのは『空気』だよ」
「くうき……ですか? 」
「うん、それじゃあクロナ息を吸って口を閉じてみて? 」
「こ、こう? 」
そう言うとクロナな頬っぺを膨らませた、美少女は何をしてもかわいいね。
「そう、じゃあ今クロナの口に入ってる物は何? 」
「んぅ? ふぁにもはひってないよ? 」
「そう思うだろ? でもそれが空気だ、空気は無色透明なんだよ」
「……エディ君は説明が下手だよね」
クロナ嬢はなかなかにワガママでもあるようだ……
こうしてクロナに解説すること数時間、やっとクロナは理解してくれた。
「要するに、酸素くんって子と水素くんって子を集めてこの子達を温めたらいいんだね?」
「そうだね、その他の気体にも色々と使い道はあるけどまずはそれでいいよ」
「じゃあやってみるね! 」
今僕達がいるのは魔法学園の自由練習場、日本の学校で言うグランドである。
幸いにも今練習場に居るのは僕達二人だけだ。
その練習場が今まさにクロナの魔法によって焼土と化しドロドロのマグマ状になった。
「……」
「……」
クロナは目を逸らした。
「ごめんなさい」
「次からは使う水素の量くらいは決めておこうね」
「はい……」
クロナは魔法を使うとき気体の量を決めていなかったので、クロナの魔力で集めれる限り全てを集めてしまったのだ。
もちろんこれだけのことをして人が集まってこない訳がない。
「何ですかこれは⁉︎ また貴方ですかエディルトス君! どうして貴方はこうも毎度毎度何かを爆発させないと気がすまないんですか⁉︎ 」
騒ぎに駆けつけたレーナ先生がやってきた 、どうも今回も僕の仕業だと考えているようだ。
「違うんです先生、今回は僕じゃないんです」
「そんな見え見えの嘘はやめなさい! こんな事できるのは貴方しかいません! それを今すぐ直した後私の所へ来なさい」
レーナ先生はご立腹だ、担任になってからというものの日に日にやつれていくのが僕にも分かる、きっと僕のせいではないはず。
しぶしぶクロナの作ったクレーターを埋め、レーナ先生のもとへ向かう。
「先生、あれをしたのは本当にクロナなんです」
「クロナさんは炎魔法をほとんど使えないはずです、それに男ならもし本当でも女の子を守ってあげなさい……男ですよね? 」
皆そんなに気になるんなら確かめてみたらいいのに、アラトなんて大喜びするよ?
「……分かりました、すみません」
「それでですね、そんな爆弾魔のエディルトス君にお話があります」
「爆弾魔って……」
「これ以上学園の備品を爆破されては困るので、エディルトス君は特例で高学年の生徒に行なわれる課外授業に出てもらいます」
「それと僕とはどう関係するのですか? 」
「課外授業の内容は主に魔物の討伐や盗賊団などの取り締まりです、魔物相手ならいくらでも爆破してかまいません」
この学園は授業の一環として将来魔導師として働くための実戦訓練が組み込まれているようだ。
「……分かりましたよ、魔法祭の練習にもなるので僕も参加させて下さい」
「よかった、これからときどき参加させてあげるからもう学園は壊さないでね?」
レーナ先生は僕を何だと思ってるんだ。
すっかり問題児扱いだがこれで魔法祭への練習にもなる。
(それにサーフィアさんにかわいがって貰えるしね)
そんな事を考えながらクロナの所へ戻ると、クロナは魔力切れを起こし練習場の真ん中で幸せそうに眠っていた、やっぱりかわいい。




