エディルトス・ディアマン
初めての小説…………難しいです、難しいです。
レナードに置いて行かれた僕は料理皿に残る明らかに危ない色をした何かを口にいれ、ゲロゲロしてから定食屋を出る。
扉を開けた僕が見たのは一面の赤色。
とっさに開きかけの扉を閉めたことで辛うじて火傷は免れたが、扉を破壊した魔法の爆風は10歳の小さな体を吹き飛ばし定食屋の壁に叩きつける。
「……見込み違いかのぉ」
傾げた首にあご髭を掻きながら、失望したような顔でレナードが僕を見下ろしていた。
強力な魔法が使えるといっても前世も含め戦闘経験なんて1度もない、そんな人間が突然飛来するファイアーボールを防げるはずがない。
これがレナードの確かめ方なのだろうが、自分は特別だという勘違いが、見下されることを許さない。
(はっ? ……普通人に向かって魔法打つか? 頭おかしいんじゃないこの爺さん )
そんな事は知る由もないレナードは僕に冷めた目を向けて呟く。
「アウルのやつならこの程度危なげも無かったのだがな……」
「黙れっっ!!!!!! 」
自分の大きな声に自分で驚いた、自分が無能だと認めたくなくて口が反射的に動く。
「僕はいつでもあんたを殺せるんだぞ⁉︎ 」
レナードに魔法で作った氷塊を向け、癇癪を起こした子供のように暴力で訴える。
「……確かにこれほどの魔法は見たこともないし私には到底できない、だがそれが何だ? 先に魔法を当てたのは私だ、あの瞬間私はお前を殺せたぞ? 」
レナードの少しも怯えない様子がさらに気に障る。
言い返すことができない、それでも負けたくないので必死にレナードを睨む。
その後、レナードのファイアーボールの轟音によって人が集まってきたが、見せ物になるつもりもなかったので僕は歯ぎしりをしながら氷塊を消し、逃げるようにグラヴィティブーツを起動し屋敷へ帰った。
勝負で負けコンプレックスを叩きつけられておめおめと帰って来たことに、自室で戻っても悔しさと恥ずかしさと苛立ちが収まらない。
(くそっ‼︎ 何だよあいつ‼︎ 不意打ちを仕掛けてきたくせに偉そうにっ‼︎ )
前世ですら人間から劣っていることを指摘されたことはなかった、僕を評価するのはいつも紙の上の数字だった。
口を持たない数字にどれだけバカにされても喉元過ぎれば忘れることができる、でも面と向かってこの世界で持て囃され、膨れ上がった自尊心を指で指され笑われ気がした。
本音を言えばトーマスのときのようにティナに泣きつきたかった、しかしティナはいつも僕の味方だ、僕が言って欲しい事しか言わない。
(絶対に見返してやる、僕は二度とこんな思いをしないためにこの世界にきたんじゃないのか……)
……ここに来るまではこんなこと毎日のように思っていた。
いつから自分が天才だと勘違いしていたのだろう。
変わろうと必死だった前世の自分の方ががよっぽど自分らしい。
ーーーー
……で、僕は結局何をしたらいいんだろう。
何を頑張ればいいんだろ?
よし、ティナに聞こう。
「はぁ ……そこはカッコよく締めることはできないんですか? 」
「そんな事言われても僕も何をしたらいいのか分からないんだもん」
「だから私に聞くんですか? 」
ティナは深いため息をはいた。
「多分ティナが僕のことを一番知ってるから」
「……エディルトス様は、どうなりたいのですか? 」
ティナは僕をエディルトスと呼ぶとき、絶対に子供扱いをしない。
「それが分からないんだ、でも代わりがいる人間になりたくない」
「ですが私はただのメイドです、代わりはいいくらでもいます、エディルトス様は私をクビにしますか? 」
「そんなことするわけないだろ?ティナは特別だ」
「私は普通のメイドですよ? 特に有能でもありません」
「……それでも」
「私にとってエディ様の代わりはいませんよ? 」
ティナは僕にはあまり見せない綺麗な笑顔を見せた。
「……ティナは僕が言って欲しい事を言ってるだけじゃないのか? 」
それでも捻れ曲がった僕の心がティナの真っ直ぐな言葉を信じることができない。
「ではエディルトス様が貴族になってみてはいかがですか? エディルトス様のお父様は魔導師としての腕を王に認められ貴族になられたのですよ 」
「そうしてエディ様が私を雇って下さい 」
そう言ったティナは僕の大好きな歳上のお姉さんの顔をしていた。
ヒロインを出せませんでした、申し訳ありません。
当たり前ですがレナードはヒロインではありません!