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ネット廃人の世界救済物語。  作者: 白楼 湊
地下階層《ガイア》
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デイティーブライド【花嫁の神路】-2-

「というわけで」


 見慣れない赤いカーペットの()いてある廊下で僕は足を止めて振り返る。


「ギルド入りましたー!!パチパチー!!」


 無理にテンションをあげて盛大な拍手をしてもこちらを(あき)れたような目で見る神様はピクりとも動かない。


「いや、仕方ないと思うんだよね」


 そう、仕方ないのだ。ノア・エノアイトという世界的に有名な人物の命令に近い勧誘を断れるわけがない。


 ましてや興味を持たれ、名前でさえも知られてしまったからには逃れようがない。


 そう、仕方ない。いや、詰んでると表現した方が正しいほどに。


最早(もはや)逃げようがないよ…」


 先程からずっと続いている神様のジト目の圧力に耐えられず、ついに語尾が弱くなってしまった。


 ノア・エノアイトに命令に近い勧誘を受けた後の行動は簡単だ。


 もちろん断ろうとした。レベルが低い、能力値(ステータス)もそこまで期待しているように高いわけではなく、良い人材ではないといくら説明しても聞く耳持たず。


 最終的には「(わらわ)が良いと思ったから加入しろ」と言われ、現在いる【レインシア】にある【デイティーブライド】のギルドまで来た。


「結果的には良いじゃないですか。条件は達成しているのでしょう?」


 神様の言う通り、レベルか能力値の公開不可という条件をノア・エノアイトに認可してもらったことを考えると悪いことではない。


 (むし)ろ、レベルと能力値の公開が常識のこの世界でこの条件を通してくれたことに感謝するべきなのかもしれない。


「んー…微妙だなぁ」


 レベルと能力値の公開不可の理由がギルド内で優劣をつけたくないというのが一番だ。


 ただおそらく、ノア・エノアイトには僕の能力値が高いことを悟られているはずだ。そう考えると、無駄な優遇があるかもしれないし、もしかしたらこれが面倒なことにつながるかもしれない。そう考えると「良かったのか」と首を傾げるしかできなかった。


「彼女がどのような人格をしているかまだ把握(はあく)できていませんが、優遇などはされないと思いますよ」


「なんで?」


「女の…いえ、失敬。乙女の勘です」


「失敬してないから気にしてないでいいよ」


 神様から威力のおかしい(ひじ)()きを喰らうが、防御力999の僕にはあまりダメージは少なかった。


 いやぁ、チート能力値は本当に助かる。結構振りかぶってたから防御力999じゃなかったら今頃地面を(うずくま)っていたんだろう。


「もうそろそろ時間です」


「うわぁ…この扉を開けないといけないのかぁ…」


 目の前にある見るからに豪華で大きな扉を見ると溜め息を吐いてしまう。


 現在の時刻は二十一時五十八分。ノア・エノアイトに二十二時に扉を開いて入るように、と言われたことで僕はこの扉を二十二時丁度に開かなければいけない。


 この扉の先で何が行われているのかわからない。ただノア・エノアイトにそれをそれとなく聞いてみたところ、


『な、なぁに、キハルが気にすることではないのじゃ!!』


 あの時の目の泳ぎようは異常だった。今すぐにでも病院に連れて行かなければと思ってしまうほどに。


「どうせ歓迎会のようなものでしょう。先程から何十分も徘徊しているのにギルドメンバーの方々とお会いしませんし」


「だよねー。微コミュ障の僕からしたらとんでもない…」


 やはり神様も同じことを考えていたらしい。確かにギルド内を徘徊しててもギルドメンバーには会わなかったし、音沙汰も無かった。


 そう考えるとギルドメンバーが一か所に集まっていて、もしもそれが歓迎会だとしたらノア・エノアイトがドモっていたのも頷ける。


「時間です」


「ひいいいいぃぃぃぃ…」


 奇声をあげながら扉の取っ手を握り、そのまま扉を開けた、その瞬間。



 パァァァン!!パァン!!



 前世でいうクラッカーのような爆発音が部屋に響いた。


「ノア様のお気に入りだあああああ!!」


「結構童顔だ!!可愛い~!」


「おい、馬鹿!!ノア様のお気に入りなんだから手出すなよ!!」


「ノア様の勧誘で入ったってことはすっげぇ強いんだろ!?」


「これで今年の剣魔争祭(フェスティ)の優勝確実ね!!」


「…あはは」


 多くの視線を感じ、声が飛び交う中、僕は苦笑いを浮かべていた。



     ☸



 キハルの歓迎会が始まり、そして一時間程度の時間が過ぎた。


 キハルと()(たる)ジョッキをぶつけ合い、会話に没頭(ぼっとう)する者もいればテーブルの上で寝始める者、上半身の衣服を脱いで取っ組み合いを始める者もいた。


 そんな中、一人輪()から外れていた神はノア・エノアイトの方へと歩き出した。


「こんばんは。ノア・エノアイト氏」


「ん…おぉ、気づかなったのじゃ、すまん」


「いえ、元から影は薄いとよく言われますので」


 見事な嘘だった。


 神は人間の常識に(とら)われず、範疇(はんちゅう)に無い。存在に気づかなかったのではなく、気づかせなかったのだ。


「何故、キハルを勧誘したのですか?」


「………」


 神の精妙(せいみょう)な目つき、何もかもを見透かしたようなその(ひとみ)を見たノア・エノアイトはその質問に隠れている真意に辿り着き、瞬時(しゅんじ)に神を「只者ではない」と判断した。


「…興味じゃよ」


 只者ではない神に対して誤魔化すのは不可能という思考回路に至ったのか、ノア・エノアイトは一度溜め息を吐いて声を漏らした。


 それは紛れもないノア・エノアイトの中にあった真実。


 ただの、興味。


「この世界には最強が存在するのじゃ。それは人間の範疇に留まらず、同じ人間でさえも天秤(てんびん)にかけられぬほどのな」


 酒を飲み、頬を朱に染めたまま言葉を連ねるノア・エノアイトに、神はただ沈黙しながら話を聞いていた。


(わらわ)はそれをヴェルヴェートだと確信していた。奴は強い。誰もが口を(そろ)えて言うであろう程にじゃ」


「…それとキハルの勧誘に関係が?」


 神の素朴(そぼく)な疑問に対し、ノア・エノアイトは一旦間()をおいてキハルを見た。


「…キハルも強い。それは妾達の比ではなく、人間の比ではない。唯一比べられるとしたらヴェルヴェートのみじゃ」


 ノア・エノアイトの回答に神は(まゆ)(しか)めた。


 キハルは異物除去を(たく)した唯一の人間だ。


 そのキハルの秘密がノア・エノアイト…いや、他にもヴェルヴェート・ウェストの耳に入れば何らかの対処があるのは確実だ。


 もし殺されてしまうようなことがあれば…神の願う、異物除去ができなくなってしまう。


 神にとって、それだけは避けたい出来事だった。


「…まだ確信はしておらぬ。だが…キハルは異常じゃ」


「………」


 神は目を(つむ)った。


 まさかこんなにも早く見破られてしまうとは思っていなかった事態とこれからキハルに襲い掛かるかもしれない悪夢をどう対処すればいいのか頭に思い浮かべる。



「…人間的に、な」



 神は何も言葉にせず、ただ眉を顰めた。



     ☣



(みな)の者、注目じゃ!!」


 わいわいとまだ賑やかさの残る歓迎会の会場にノア・エノアイトの声が響いた。


 まるで学校の体育館の演壇(えんだん)のような場所に立ち、声を張っていた。


「この(うたげ)(むね)は妾達のギルド【デイティーブライド】に新しく加入することになった新人の歓迎会じゃ!!本来なら歓迎会を開く新人加入人数、五十人に達していないが特例として開催(かいさい)する!」


 ノア・エノアイトと視線が合う。手のひらを上に向け、小さく上にあげる。立て、という催促(さいそく)だろうと気づいた僕は立ち上がった。


「今立っている人間が新しく加入するキハル・アイオカじゃ!!奴はおそらく、(わらわ)より強い!!」


 その声に周りの人々が唖然(あぜん)とする。


 まだ強いと決まったわけではないのに言ってほしくはなかった。優劣をつけない、という理由でレベルと能力値の公開拒否をしたのにそう明言されてしまうと隠した意味がないじゃないか。


「だが経験は浅い!!それ故、ここでキハルとパーティーを組む奴を妾から指名させてもらうのじゃ!!」


「同じだといいね」


「気持ち悪いです」


 神様に一声かけると見事に一蹴(いっしゅう)された。


 パーティーを組むならできる限り神様と同じパーティーでいたい。僕はこの世界の知識はあるが、それを全て理解していると言ったらそれは違う。


 神様がいれば色々な疑問を聞けて楽だし、何より僕を転生させてくれた一人だ。色々と世話を焼いてくれるだろう。


「今から名を呼ぶ者は立て!」


 ざわざわとしていた会場がシン、と一瞬で静まり返り、誰もがノア・エノアイトを見た。


地下階層(ガイア)上層攻略班、ナナ・フォリア!同じくヴィスト・ガスタリア、メルタ・スペイア、シスカ・シアドール!!」


 次々と立ち上がり、最終的に呼ばれたのは僕を含めて五人。女性二人と男性三人。


 ノア・エノアイトは一息吐き、ニヤッと含みのある笑みを見せた。


「以上じゃ!!今からはこのまま(うたげ)を続けるのも良し、各自自室に戻るのも良しじゃ!各々(おのおの)が抱えている目標を見失わずに進め!!以上じゃ!!」


「うおおおおおおお!!ノアは俺の嫁ェェェェ!!」


「花嫁ェェェェェ!!今日も小さくて可愛いぞォォォ!!」


 小さい、と言葉にした男がノアにボコボコにされている中、僕と神様は会場を後にした。



「んー、どうしようかなぁ」


 廊下を歩きながら呟く。


 どうしよう、と呟いてももうやることは決まっているのだけど。


「やっぱり戦うギルドなんだね」


「そのようですね」


 先程のパーティーメンバー紹介の時、ノア・エノアイトは地下階層(ガイア)上層攻略というまだ僕の知らない言葉を言っていた。


 地下階層(ガイア)という単語を頭に浮かべるとそれがこの世界に存在する三つのダンジョンの一つだと知り、それ以外にも天空階層(ディオネ)深海階層(トリトン)とダンジョンがあることが分かった。


 地下階層というのはその名の通り、地下に降りていくように形作られたダンジョンで最高階層は百階層。上層というのは約二十階層のまだ弱い魔物の出る階層を指すらしい。


「それより――」


「おーい!!」


 聞いたことのある男の声が神様の言葉を(さえぎ)り、足音の聞こえてくる後方へ振り返ると、青髪の男性が手にカードのようなものを持ちながらこちらへと走ってきていた。


「なんだよなんだよ、お前の為の(うたげ)なのに先に帰りやがってー…童顔のクセに一匹狼主義なのか?」


 走ってきたことで少し息のあがっている男性は僕の背中を軽く叩きながらちょっかいを出す子供のような表情をして聞いてきた。


「あはは…人が多い所はあんまり好きじゃないんだ」


「そうなのか?…それなら仕方ないか」


 男性は苦笑し、僕もそれに合わせて苦笑する。


 ほぼ初対面だし、会話が続かないのも仕方ないだろう。確かこの男性はノア・エノアイトに指名された僕のパーティーメンバーだから突き放すわけにもいかない。


「どうしてここに?」


「おっと…そうだそうだ、忘れてた」


 男性は何かを思い出したように声を漏らし、右手に持っていたカードを僕に向かって差し出した。


「これは?」


「お前のルームキーだ。魔力をちょっとだけ注げばその魔力で登録される。魔力注いだ後はカードに部屋番号が浮かび上がるからそれを頼りに部屋に行ってくれ」


「…え」


 渡されたルームキーは一つ。つまりこれは一つの部屋を借りれるということだろう。


 神様の方を見ると、首を横に振って「何も言うな」とでも言わんばかりの表情をしていた。


 ま、まさか…神様と相部屋だと!?運命の出会いの相手は神様ということか!?


【殺しますよ】


「…さーせん」


 頭の中に響いてきた神様の声に小さく謝る。


 心の声を読むのは本当にプライバシーの侵害だよ。読まれてると色々な思考できなくて疑心(ぎしん)暗鬼(あんき)になりそうだ。


「それとノア様が言ってた限りだと戦闘経験とかあんまり無いんだったよな?」


 ノア・エノアイトのいう通り、戦闘経験など一回も無い。


 なんせ異世界に転生してきてからまだ初日だ。戦闘経験なんてあるはずがない。


 ノア・エノアイトが僕の戦闘経験が浅いことを知っているのは僕の能力値が悟られた時の同じく観察眼だろう。


「つーわけで、明日パーティーメンバーでお前の武器と防具を買いに行こうぜって話になってるんだ。見た感じ、持ってないんだろ?」


「あ、うん」


「なら決まりだ!!明日の正午に中央庭園(センターガーデン)の噴水で待ち合わせな!!」


「うん、ありがとう」


「おう、じゃあまた明日」


 男性は笑顔を見せて走ってきた道を戻っていった。


「…それでどうするの?」


 左手に持っているルームキーをチラつかせながら僕は聞く。


 神様のことだからこのまま相部屋、ということにはならないだろう。


 それに不思議なのはあの男性の視線が神様の方に一度も向かなかったことだ。例え女性でも相部屋でいいだろう、と思われたのならばルームキーが一つだというのは納得がいくが、まるで存在しないかのような対応だったのはおかしい。


「私は別の部屋で寝るとします。それでは」


「え、あ…」


 心配の声すらかける暇もなく、神様は僕に背を向けて去っていった。


「…結局答えてくれなかったなー」


 きっと僕の頭の中で思考していた内容は全て神様に筒抜(つつぬ)けなのだろう。


 あの男性が神様に一度も視線を向けなかった理由…そんなもの、神様がそうしたとしか言いようがない。


 神様は神様だ。僕達の常識の中にいない。人から気づかれないようにするなんて簡単なことなのだろう。


「んー、まぁそりゃ初日だから仕方ないか」


 そう分かっていても頭の中でそれを思い浮かべていた理由は、神様がそれを教えてくれて、僕を信じているかを確かめる為。そう考えると神様からの信頼はまだ薄いのだろう。


 もしかしたら信頼を確かめようとしていたことも読まれてるかもしれないけど。


「…部屋に行こう」


 考えてもしょうがない、と僕は頭を振ってルームキーを見る。確か男性が言ってた部屋番号の表示方法は魔力を注いで――


「…魔力を注ぐ?」

 

 その後、僕は上に(かか)げて奇声をあげながら力を込めていた所、近くを通った女性に魔力の注ぎ方を教えてもらったとさ。


 とても恥ずかしかったです。まる。


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