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3 魔力と盗賊

1万字越えてますね。

 


「よっ、おはよう」

「昨日、戻らなかったね」

「魔法の研究が忙しくてな」

「何か分かった?」

「魔力は練らないといけないらしい。感じたら自在に動くようにしてな、後は体内を循環させるんだそうだ」

「じゃあまずは感じるところからか」

「練れば練る程に魔力の容量は増えるらしいな」

「そうやって増やすのか」

「使えば良いってもんじゃ無さそうだな」

「うん、感じれるようになったら練ってみるよ」

「今日も魔法の研究をする。夜は戻れないかも知れないが、退屈しているようなら腕立て1000回だ」

「うへぇ、1000回は多いよ」

「くたくたになってぐっすり眠れ。そうしないとあっちがやりたくなるだろ」

「発散か……そうだね、がんばるよ」

「山篭りが終われば朝までだ」

「ゴクリ・・」


 さて、オレは今日も精霊ごっこだ。

 もちろん魔法の研究もするけどよ。

 服を脱いで王女の部屋でうろうろと……起きて召使いに着替えさせて、お茶をのんびりと飲んでいるが、触ってやればすぐに感じやがるみたいだな。

 こいつの性感帯は首だ。


(精霊様……もう、私は……お願い、今日は、もう)


 これ、もしかして魔法かな。

 説得スキルって感じなんだけど、囁けばまるで洗脳のように相手が思い込むぞ。

 すっかり産まれる子供は大陸統一の目標を担って産まれるとか思い込んでいるし、産まれたら国母になって赤子を擁立して後ろ盾になるつもりだし、オレを精霊と思い込んでいるし。


 参ったな……なんでこんな変なスキルばかりなんだ。

 普通の魔法、オレ、使えるんだろうな。

 もしかすると怪しいぞ。

 神様、頼むからオレで遊ぶなよ。


 それにしてもあの王女、身体は大人だけど年齢いくつなんだろう。

 妙に顔が幼いような気がするんだが……試してみるか……王女は何才、何才、何才。

 うえっ、13才ってマジかよ。

 ああ、中世ヨーロッパ風の世界だから、西洋人みたいな感じになってんのか。

 いやぁ、オレ、ロリコンになっちまったぞ。

 あの身体が馴染んじまっていかんぞ。

 妙に相性の良い身体と言うか。

 あれで13かよ、とんでもないな。

 てっきり18か20ぐらいの身体だとばかり思ってたのにな。

 どうすっかな。


 今更、止める訳にはいかんぞ。

 抱きやすいように調整したってのに。

 はぁぁ、開き直るしかないか、参ったなぁ……。


 まあいい、またしばらく来れないんだし、冷めたらまた変わるかもな。

 それに、他にもっと相性のいい相手が見つかるかも知れんし。

 それよりも、魔法について調べないとな。

 何故か読めるこの国の文字。

 練って容量増やすのは合ってたと。

 後は発動だけど、魔法は想像力の産物か。


 つまりはイメージだな。


 ここに出ているのは先人の想像力の成果のようなものか。

 これをそのまま学ぶと発想が貧困になりそうだが、どうすっかな。

 ええと、風よ吹け……ダメか。

 扇風機を思い浮かべながら、強のスイッチを押す、押す、押す……うん? なんかそよそよと。

 あんなイメージで良いのか。

 んじゃあ、マッチを擦る、擦る、擦る……お、指先にチラリと炎が……すぐ消えたけど。

 大体の感じは掴めたな。

 そのうち慣れたらスムーズにいけるだろ。

 水道の蛇口を捻る、捻る、捻る……ふうっ、数滴ポチポチと出るだけか。断水かよ。

 イメージはあるのに効果が薄いな。

 やっぱりオレは変な魔法しか使えんのかも知れんな。

 どうしようかなぁ……おや、生活魔法?……ええと、これはイメージ不要ってか。


 唱えると発動?本当かな。クリアボディ……

 何も起こらんな……って何で英語なんだ。

 これって翻訳されてんのか、それで発動しないんだな。

 この世界の言葉で言わないと発動しないとなると、どうやって学べばいい。

 自動翻訳な以上、原音が聞けないと学べないぞ。

 つまり、使えないと。はうっ……


「魔法について分かったぞ」

「それで、どうやれば良いんだ」

「魔法はイメージ。考えたままに発動を促せば、それに合わせて発動するらしい」

「つまり、思うままに魔法が出るって事かよ」

「相当、練り込まないと威力は出ないみたいだぞ。水の魔法っぽいのをやったけど、数滴ポチポチ出ただけだった」

「それでも出たんだろ。凄いぜ」

「まあ、気長にやろうや」

「まずは感じるところからだな」

「レベルを上げれば感じるさ」

「いよいよ、明日からか」

「もう寝ておけ」

「それがよ、もやもやしてよ」

「覚えたら止まらんか」

「なあ、ダメかな」

「仕方が無いな。ほれ、行くぞ」

「へへへ、やったね」


 娼館に出かけようとしたら、宿の前でギルドの事務員にバッタリ。

 どうやら呼び出しのようで、お楽しみは中止になっちまう。

 あからさまに残念そうなこいつだけど、用事が終わって行けば良いさ。

 ギルドに着いたら昇進の為の技能試験とかになっていて、中級の冒険者との模擬戦をやれとか。

 仕方が無いからシナリオを慌てて構築し、しっかり覚え込ませておいた。


 精霊と言うのと、幼い頃の契約と、家の秘法。

 これで何とか誤魔化せよ。

 模擬戦が始まり、あいつも奮闘するんだけど、付け焼刃のようでどうにも旗色が悪い。

 よし、耳を吹いてやれ。

 よしよし、動きが止まったな。

 そしてまたヤバい時に注意をそらす。背中を突いてやれ……よしよし。

 お、止まったな。


 さあ、シナリオ開始だ。


(シルフィス、手出しは無しだ。こいつは試験なんだからよ……シルフィスってなんだ……ああ、オレの精霊さ。幼い頃に契約したんだ……さっきからのオレへのちょっかいはそれか……あいつ過保護でさ、まあそれで助かってるんだがよ……急激なランクアップはそれが原因か……それもオレの力だろ……まあそうだな……だから本来はあいつも込みでやってくれないと困るんだけどな……そう言う事なら納得だ……あんまり言い触らすなよ。うちの家の秘伝になるんだからさ……ああ、オレは外には漏らさん……漏らしたらあいつ、きっと寝首を掻くぞ。見えない相手の攻撃を防げると思うなら好きに口外すれば良いと、ギルドの上の奴に伝えといてくれ……とんでもないな……あいつは基本的に自由なんでな、オレは契約があるから従ってくれるが、他の人間とかどうでも良いみたいだし……ああ、伝えておこう……それで、試験は?……もういい。あれだけ戦えるなら充分だ。おまけにここぞって時にあんな邪魔が入るなら、大抵の敵に勝てるだろう……あいつ、股座蹴飛ばした事もあるんだ。今日は運が良かったな……おいおい、冗談じゃねぇぞ)


(あんなの無理だろ。集中している時にいきなり耳を吹きやがって……一瞬で集中が切れちまったぞ……おまけにチャンスと思えば背中突きやがって。あんなのが付いている相手に勝てるかよ。見えるならまだしも、見えない相手とかどうしようも無い。しっかし家の秘伝か、凄い秘伝もあったもんだ)


(なんと、そのような事になっておったとはの……ありゃ無理だ。オレじゃ勝てねぇ……それは誰でも無理じゃろうて……ああ、見えないから始末におえねぇ……うむ、ご苦労じゃったの……んじゃ、オレはこれで……うむ)


「中級冒険者、おめでとうだな」

「へへっ、やったぜ」

「ふん、お前みたいなのが中級?おい、何をやった。うげっ……」

「オレにはよ、そういうのが居るんだよ」

「な、何だ、今のは」

「もう手出しは止めとけ。次はどうなっても知らんぞ」

「何だと、この野郎……げふっ、ぐぅぅぅ……」

「お前、股座蹴飛ばすの好きだな、くっくっくっ」


(なんだよあれ。いきなりあいつに見えない攻撃が……ありゃヤバいぜ。ありゃきっと精霊だ……何だそれ……聞いた事がある。辺境には精霊を従える一族が居るって話。オレは今まで信じてなかったけどよ、今日、信じれるようになった。あれを敵に回したら長生き出来んぞ……大げさだろ、そんなの……なら聞くがよ。お前、魔物との死闘の間にいきなりちょっかい出されても大丈夫か……うっく……ピンチの時にちょっかい出されたら、誰だって死ぬぞ……そんなのかよ……精霊ってのはな、契約者以外はどうでもいいと思っているらしくてな、それこそ生きようが死のうが気にしないらしいぞ……ヤベェ)


 ほい、誘導成功。

 語り部役、ご苦労様、クククッ。

 おや、あいつの仲間が後ろからか……ほい、ラリアット、クククッ……自動迎撃システムみたいだな。

 お、まだ来るか。

 足を引っ掛けてやれ。

 ほい、顔から倒れて悶絶したと。

 顔面血だらけだな、クククッ。

 いい加減、諦めろよな。

 もういい、死ねよ。


(な、最後にはああなるんだよ……おいおい、殺されちまったぞ、あいつ……しつこいからだろ。イタズラみたいな反撃で舐めてたら、最後には殺される。けど、聞いてたよりは穏便だな。オレは敵対したら即座に殺されるとか聞いたけど、ああやって警戒させてくれるんなら、まだましだとは思わんか……まあそうだな。普通、あんなに攻撃食らってまで逆恨みとかやらねぇしよ……あいつがバカだっただけだ……ああ、そうみたいだな)


「良い感じに噂になってくれたな。これで変なちょっかいも無いだろ」

「あいつ、死んだんじゃないのかよ」

「ああ、殺したぞ」

「あっさり言うな」

「よし、山篭りの前に盗賊殺しに行くぞ」

「うげ、マジかよ」

「殺し足りん。もっと殺したい」

「うおおお、冗談じゃねぇ」


「てかさ、お前、日本の常識、何時まで引きずってんだ。ちょっかいにはハードな仕返し。反撃で殺してもお咎め無しだぞ」

「それはそうかも知れないけどよ」

「魔物との戦いでヤバい時、いきなり他から攻撃受けたらどうする。例えば石とか投げられて、注意がそれて魔物にやられたら」

「生かしておいたらそうなるって事かよ」

「自分にあてはめて考えてみろ。まともじゃ敵わない相手、相手がピンチの時に足を引っ張れば勝てそうだろ」

「うう、確かによ」

「そんなのに毎回狙われるのを選ぶか、思い切って殺しておくかって事さ。お前がチンピラと遊びたいなら何も言わんが、嫌なら殺しておけ」

「そりゃ嫌だけどよ。殺すのは……」


「なら、我慢して付き合ってやりゃいい。オレは絶対、嫌だけどな」

「何とか説得して……何なら脅してでも……」

「ほお、お前は説得されたり脅されたりしたら、そのまま泣き寝入りするのか?相手がピンチの時には助けてやるのか?そうしてまた遊ばれるのか」

「そ、それは……けどよぅ……」

「そういう性癖なら好きにすればいい。その代わり、オレも踏んだり蹴飛ばしたりして協力してやろう。嬉しいんだろ、苛められるのが」

「ちがぁぁぁ……そんなんじゃねぇ」

「向こうの常識抱えたままで対処すれば、この世界の奴はそう思うさ。あいつは苛められるのが好きなんだろうってな。そしてそれは他の奴をも流れに引き込む。折角の精霊作戦も無駄になるな」

「思い切らないと、ずっと付きまとわれるか」

「日本じゃ苛めに対して殺したら逮捕されるが、こっちじゃそれで終わるんだ。警察とか無いんだから、訴える先は無いぞ。衛兵がそれぐらいの事で動くとは思わんし、動かしたいならワイロでもはずむんだな」

「それしかないのか」


「いざって事に殺せるようになっとけば、自然と迫力が出るもんだ。そうなりゃちょっかい出す奴も居なくなる。お前が甘いからちょっかいを出される事に気付いてないようだな。殺されないと思えば誰だってからかうさ。ガキが不相応な立場に居ると思えばよ」

「何とかやってみるよ」

「サポートはしてやる。んで、殺して何度でも吐けばいい。そのうち慣れるからよ」

「う、うん……」


 盗賊討伐の依頼を請けさせ、情報を獲得して現地近くまで相乗り馬車で赴く……のだが、あっちから来てくれるとは親切な盗賊だ。

 1匹も逃がさんぞ。

 相対させて後ろから羽交い絞め。

 さあ、突けと言っても震えてやがる。

 なので突き飛ばして自分から剣に刺さるように……お、もう吐くのか、早いぞ。


 よしよし、二人羽織作戦だな。

 後ろから剣を持ったまま首を斬る。よし、致命傷。

 吐きながら殺す気分はどうだ、クククッ。

 おっと、後ろから来るか。

 足を引っ掛けて倒れる所に剣を持って行く。

 ほい、そのまま致命傷。

 お、同乗者がヤバいな。

 よしよし、邪魔してやるからな。


 背中を思い切り叩いてやると、キョロキョロして逆襲を食らう盗賊。

 そこいらのは軒並み足を引っ掛けて、何も無いところで転ぶ盗賊達。

 転んだらそのまま首を思い切り踏んでやるから、そのまま悶絶しちまいな。

 あ、ボキッて音が……強過ぎたかな。

 まあいいや……あれ、あいつ、動かないぞ。

 よしよし、強引に動かしてやるからな。

 それ殺せ、やれ殺せ。

 吐きまくりだな、やれやれ……


「アンタ、初めての殺しか」

「あ、ああ……」

「吐きながらそんなに容赦の無い奴は初めてだぜ。お前、見込みがあるな」

「ううっ……そう……ですか」

「それに、見えない攻撃、ありゃ魔法か何かか」

「あ、はい……」

「ありゃとんでもねぇな。けど、助かったぜ」

「いえ……うううっ……」


 さて、残党探しに行かないとな。

 乗り合い馬車を降り、同乗者と別れて森に入る。

 まだ気分が悪いようだが、こればっかりは慣れるしかないんだぞ。

 それでも今日はもうそれぐらいにしておいてやると、残党はオレが片付ける事になった。

 12人の残党か……剥ぎ取りナイフで頚動脈を斬っていく。

 いきなり仲間の首から血が噴き出し、パニックになる奴ら。

 そのうち自分の首も同じ事になり、戸惑いながら死んでいく。

 敵の姿も見えないまま……


 よし、終わったな。

 後はお宝探しだな。

 掘っ立て小屋の中には様々な物が散乱していて、地下の隠し倉庫らしき場所には大量の金貨があった。

 やけに貯め込んでいたんだな。

 さてと、証拠の品には首が良いんだが、さっきの賊の首は取られちまったからな。

 こいつ、自分で殺す事になったのに、あいつにあっさり取られちまって。


 何が見込みがあるだ。


 まあいい。今度あいつ見かけたら、助けてやらん。

 助けた分、足引っ張ってやろうな。

 念の為、残党の首を全部切り落とし、ひとまとめに麻袋に入れてアイテムボックスの中に入れておく。

 お宝も全部入れておく。

 後の死体を焼きたいが、魔法はイメージね……はぁぁ……結局、穴掘って埋めて油かけて焼いた。

 種火にしかならない魔法って悲しいね。


「終わったぞ」

「あんな……あっさり……何とも……思わない……のかよ」

「思うぞ」

「なら……何で……」

「思うからだ」

「うえっ……どういう意味だよ」

「いやな、殺し足りないと思っててさぁ、追加で12匹。まあまあかな。しかし、もっと殺したいんだがよ」

「そういう、意味かぁぁ」

「何、でかい声出してんだ」

「殺したいから殺すって、そんなの……そんなの……」

「じゃあどういう風に思って殺せばいい。殺したくないけど仕方が無いんだ、とか思いながら殺すのか」

「いや、それは、そのな」

「仕方が無いと思って殺せば楽かも知れんが、それは一時だけの事だぞ。これからも盗賊を殺していくなら、好きだと思わないと心が壊れるぞ」

「じゃあ……その為に」

「お前も自分の心を騙してみろ。殺したいから殺すと騙してみろ。慣れたら心が楽になるぞ」

「そうやって、騙してるんだな」


「お前な、オレも向こうではただのサラリーマンだぞ。そんなのがどうやって殺し屋みたいにやれると思うんだ」

「そっか……そうだよな」

「思い込みは社会人の技能みたいなものでな、嫌いな仕事でも好きだと思い込んでやるしかなかったんだよ。それを使っただけだ」

「それで、いきなりでも、やれたのか」

「だからあんま、オレの自己暗示を解くなよな。解説とかその最たるものだ」

「あっ……そっか、ごめん」

「ああ、楽しかったなぁ、クククッ」


 (そうやってわざと言って心を誤魔化してるのか……それが大人の知恵か……そうなんだね……じゃあオレもそれを……)


 2人して楽しかった楽しかったと言いながら移動する。

 やれ、もっと殺したいだの、今度は拷問も試したいだの、オレは本気で言っているんだけど、こいつは自分の心を騙そうとそう言っている。

 確かにサラリーマンだったけどよ、職種を言ってないだろ。

 あーあ、無断欠勤になっちまったんだよな。

 もし戻れても規約違反で刺客が送られて来るな。

 そう考えると戻れなくても構わんか。

 警備保障、裏を返せば殺し屋家業ってね。

 しがない平だけど、もうじき昇進の話もあったんだよな。

 だけどこれで何もかもおしまいだ。


 城から宝物を奪ったり、王女を犯したりと言うのは全て報復になるのさ。

 なんせオレの人生設計を狂わせたんだ。

 その報復は関係者全員の命で購うのが本当だろ。

 オレの生まれた国はそんな国だった。

 それを適用しただけの事だ。

 不利益をもたらした者達には死を……ってね。

 だからあっちでもこっちでも死が蔓延してて、今更殺しぐらいで何とも思わねぇよ。


 勤続3年目の不幸か。

 本当にやってくれたもんだよ。

 通算78人で、80人で昇進とか言われてて、もうじきだと楽しみにしてたってのによ、全く。

 あーあ、この世界に誘拐されて、城の中でぶらぶらして生きようと思ったけど、やっぱり無理だったんだよな。

 殺している時だけ心が静まるとかさ、もう既にオレは人を外れていたんだな。

 前線基地か……そいつらは殺しても良いんだよな、王女さんよ、クククッ……


「盗賊発見」

「え、あれって、盗賊?」

「ああ、この国を盗もうとする、隣の国の盗賊だ」

「山の上って魔王じゃないのかよ」

「隣の国の王様が魔王でな、こうやって侵略しようとしてるんだ。魔王って意味、分かってるか?」

「ええと……魔物を率いて……人を襲って……」

「そんな御伽噺の世界の魔王とか、現実にいる訳無いだろ」

「うえっ、御伽噺って……」

「大体、知能の欠片も無い魔物をどうやって率いるんだよ。命令とか理解出来るのかよ。そんな雑魚を率いて何がやれるってんだ」

「それは……まあ、そうだけどさ」

「国の中枢を掌握して、上から命令を下す。だから隣国の兵達は、その命令のままに隣の国を侵略しようとする」

「じゃああの兵達は騙されているだけなんだよね。それを言えば」

「隣の国の平民が言うのと、自分の国の王様が言うの、どちらを信じる。隣の国の平民の言う事を信じて、自分の国の王様を疑うのか?」

「うっ……それは、そうだけどさ」


「ナイフで切りつけられてもナイフに罪は無い。だけどナイフを排除しないと自分の命が失われる。お前はそれで良いのか」

「兵達はナイフなんだね」

「ナイフをそのままにして攻撃する者を倒そうと思うより、先にナイフを排除するほうが楽だ。まあ、お前は攻撃されながらのほうが楽しいかも知れんが」

「そんな性癖じゃねぇぇ」

「本当にそうなのか?実はMなんじゃないのか。心配するな、オレはドSだからよ、ギッチリ痛め付けてやるからよ」

「それも思い込みかよ」

「おいおい、舞台裏を明かすなよ」

「あ、ごめん、つい」

「で、ナイフはどうする?持ったまま攻撃をかわして本体を叩くのか」

「倒さないと辿り着けないんだね」

「ああそうさ。ナイフを全て壊さないと、本人には辿り着けない。ナイフが無ければ魔王は自分の手で攻撃するしかない」

「そこまでしてやっと届くのか」

「オレ達は魔王が君臨して、準備を整えた後で召喚されたんだ。だから最初から手遅れなんだよ」

「やるしかないんだね」

「さあ、今日は楽しい宴だ。たっぷりと殺せる、実に良い日だ。そう思わないか、相棒」

「ごくり……あ、ああ、そうだな。良い日だ。全員、抹殺してやんぜ」


 誘導が効いたかな。

 さて、殺りまっかいな、クククッ……1人で砦に向かって歩く。

 軍隊なら対応もするが、たった1人の旅人風のこいつに対し、いきなりの敵対行動はやれない様子。

 だってまだ、宣戦布告されてないもんな。

 準備期間に荒事を起こせば、上層部から制裁されるかもとか思えば、荒い行動は起こせないものだ。

 そしてこいつは言う。盗賊の調査の為にこの辺りに来た。

 ここは廃墟だったはずだが、どうなっているのかと。

 そう聞かれたらこの国の兵士に成りすますしかない訳で、盗賊に利用されないように改修しているのだとか、適当な事を言ってお茶を濁そうとする。


 休憩を望めば仕方なく、詰所に案内される。

 ペーペーなら抹殺して終わりにしようと思ったか?

 こっちは中級冒険者だ。

 当然、ギルドにそれなりに行動は把握されているだろうし、盗賊如きにやられる程の雑魚じゃない。

 兵士には調査と言ってあるから尚更の事だ。

 素直に返さないとギルドからもっと大勢の冒険者が押し寄せる。

 中級の冒険者、しかも探索に長けている者を捕らえる程の規模の盗賊となれば、それはもう緊急依頼とかになるに決まっている。

 中立のギルドをわざわざ敵に回せば、それこそ上層部からは転属命令が下される事になると……そう囁けばすっかりその気だ。


 こいつにはそのまま旅人を装って1晩泊まり、翌日に事を起こすと伝えてある。

 だが、事を起こすのは深夜だ。

 総勢300か、殺し甲斐があるな。

 水浴びをして食事を受けてこいつは眠る。

 しっかし、敵からメシもらってあっさり食うかよ。

 オレならボックスに入れて自前のメシを食うがな。

 平和な国から召喚されたんだな。

 日本人と言ってたが、こりゃ並行世界か何かだろ。


 オレの世界の住民じゃないだろ。

 オレの世界の住民ならそんな甘い事をしていたら生きてはいられんぞ。

 こいつの世界には敵性国家のスパイとか居なかったんだろうな。

 それの抹殺とかも無いのなら、そりゃ平和でなによりだけどさ、それでよく世界情勢が許したな。

 どんな歴史を歩んだのか気になるが、今はそんな事を考えている余裕は無いか。


 久しぶりに本職をやろうと思う。

 かねてより集めておいたオレ専用の武器。

 薄い刃の武器……アカシ、参ります。

 黒く塗っても赤く染まるか。

 染めてやろうな……気配を殺して闇に紛れ、口を抑えて頚動脈を斬る。

 血は本人の服で受けさせ、静かに壁に寄せて次の敵を探る。

 ひたすら屠れば心静かになり、ますます気配が消えて闇と同化する。

 下層から屠って行って上層に辿り着く。

 上層の兵達も同じ運命を辿らせ、将軍の部屋をノックする……コンコン。


 扉が開くがオレは見えない。

 キョロキョロとしている将軍の首の頚動脈を切断……手で押さえても無駄さ。

 次の場所は心臓なのだから。

 そして将軍は倒れる事となり、この砦の中の生命体は、オレとあいつしか居ない事になる。

 はふうっ……堪能したぜ。

 久しぶりの本職、やっぱりオレはこいつが天職かも知れんな、クククッ……

 もうじき朝か、楽しかったなぁ……


「おい、起きろ」

「うーん……あと5分」

「よく敵の懐の中で熟睡出来るな」

「う……あっ、あれ、ここは」

「何を寝ぼけている。ここは砦だぞ」

「あ……そうだった」

「まずは報告する」

「え、何の?」

「312の敵を排除した。将軍の首と重要書類の類も回収済みだ。さあ、城に戻るぞ」

「うえっ……何時の間に……それも312って、そんなに」

「城からの指令は終わった。将軍を魔王なのかと城の奴らに問えばいい。首は王都に入ればお前に渡す」

「うえっ……首って……あの……」

「麻袋に入れてあるから、変な想像さえしなければただの物品に過ぎない」

「それはそうだけどさ」

「吐くなら嫌な想像はするな。マネキンの首とかって思っとけ」

「あ、思い込み……そうだった」

「まあ、朝まで寝ても良いが、周囲は死体の山だぞ」

「うわ……出る出る出る」

「クククッ」


 帰り道も魔物を屠りながら帰る。

 オレが魔物の気をそらし、あいつが倒してレベルが上がる。

 途中でもかなり倒させたが、まだまだ足らないだろうな。

 もっと強くしてやらんといかんが、どうにも色々と甘いと言うか……

 それでも20台まで何とかレベルが上がり、オレは45になった。

 盗賊や兵士って意外と経験値美味しいのな。

 特に将軍の経験値が良かったのかどうかは知らんが、殺したらレベルが上がったもんな。


 んで、帰りのハントでも上がり、こいつはガンガン上がっていると言っていた。

 まあ、オークの群れとか倒せば嫌でも上がるよな。

 あいつらは後ろからちょっかい出したら前の敵を忘れて後ろに注意が向くんだし、それで膝裏を蹴飛ばせば簡単に倒れるし。

 首を踏んでやれば呼吸困難になってよ、あいつが剣で胸を刺せばそれで終わりになる。

 しかし、魔物とは言うが、ありゃ人の亜種か何かだろ。

 確かにオークとかゴブリンとかって名前が付いてて、それなりの格好をしているけど、あいつら言葉を話しているんだもんな。

 ただ、こいつにはその言葉が判らないようだけど、オレの自動通訳とこいつのって性能が違うのかよ。


 本当に何処までも変な事になっているが、神様はオレで何がしたいのか。

 それにしても、魔物を殺せば経験値は増えて、人間を殺しても経験値は増える。

 つまり、魔物と人間の差は本当は無いのかもな。

 意思の無い魔物とは言ったが、意思も思考もちゃんとあり、それなりの群れを統率していて、そこには秩序すら感じられる。

 だがまあ、そんな事を教える筋合いは無い訳だし、魔物は倒すものだと思い込んでいるようだし、それはそのままで良いさ。

 こんな甘い奴、真実を知ったら壊れるかも知れん。

 唯一の会話の相手、壊れては困る。

 これからも色々と誘導してやるから、オレの役に立ってくれよな、クククッ……


「ただいま戻りました」

「え……あの、魔王は」

「ここに首を入れてあります。砦の中の敵は全て排除し、トップの首はここに」

「は、はぁ……そう、ですか」

「あれが魔王ですか?なんか弱かったですけど」

「あのですね……その、調査の結果、どうも手違いがあったようで」

「魔王は何処にいるのですか」

「とにかく疲れたでしょう。今日はゆっくりしてくださいね」

「分りました」


(どうしましょう……まさか、あの砦を落とすとは……これで何とかなりそうですか……まだまだ隣国のほうが優勢ですが、ひとまずは……魔王は隣の国だと言ったほうが良いですかね……それはいけません。下手に隣国に送り込めば、逆に説得されてしまうでしょう……そうですよね。あんなに簡単に私の言う事を信じるようなお人好し。逆にこちらを悪だと言われたら……なのでここは、南の砦に向かわせましょう。あそこは2000人規模で占拠されていますから、いくら何でも単独では無理です……そうやって時間稼ぎをするのですね……現在2割です。総員で注入してますが、中々に溜まらず……ああ、早くまともな勇者を召喚したいですわね……妄想のあるような者、とても勇者とは言えません。なので巧く使い捨てればそれで良いのです)


(精霊様……毎夜、貴方の事を想って私は……今夜こそ)

 

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