続・帰ってきたイケメン妖怪ハンターリックの冒険
リックは古今無双のスケベな妖怪ハンターです。
一時は餓死しかけた事もありましたが、ここ数日はメタボになりそうなくらい稼げています。
「お前様、食べ過ぎではないですか?」
美人幼な妻の遊魔が、ぽっこりと飛び出てきているリックのお腹を見て言いました。
「大丈夫にゃん、僕は痩せやすいタイプにゃん」
楽天的なリックはヘラヘラ笑って言いました。
決して、仙台の野球チームではありません。
「そうなんですかあ」
遊魔は笑顔全開であるお師匠様の口癖で応じました。
「ここにゃんね」
リックは大きな門構えの邸の前で立ち止まりました。
今日の仕事の依頼主の家です。
「お待ちしておりました、先生」
出迎えてくれたのは、太腿まで深くスリットが入ったチャイナドレスを着た妙齢の女性でした。
具体的にいくつかなのはわからない地の文です。
(タイプにゃん)
鼻の下が顎の下まで伸びそうなリックですが、隣の遊魔の闘気を感じ、堪えました。
今の遊魔なら、北○三兄弟も瞬殺できると思う地の文です。
「さあ、どうぞ、こちらです。主人にお会いください」
女性はお尻を意図的としか思えないほど左右に振りながら、リックを先導しました。
(遊魔にボコられるから、天井でも見るにゃん)
上を向いたリックですが、そこには「春画」と思しきものが描かれており、鼻血が出そうです。
(このお邸は一体どういう人の家にゃん?)
趣味が合いそうだと思うリックです。
「お前様!」
遊魔が可愛くほっぺを膨らませて、リックの左頬を右手で抓りました。
「い、いひゃいひゃん、ゆふは(い、痛いにゃん、遊魔)」
リックは遊魔のヤキモチにニヘラッとしながら応じました。変態です。
(こんな美人の奥方がいる男は、決まってデブでハゲでブサイクでエロい奴にゃん。遊魔を守らないといけないにゃん)
そんな男気を心の中で見せているリックですが、目は前を進む「お尻」に釘付けです。
「お前様!」
遂に遊魔の必殺技である真空飛び膝蹴りが炸裂し、リックはもんどりうって仰向けに倒れました。
「大丈夫ですか、先生?」
すると前を歩いていた「お尻」が振り返り、しゃがみ込みました。
(おおお!)
目の前に広がったスリット天国に痛みに堪えて感動するリックです。
「大丈夫でございます」
遊魔がそのエロい顔を踏みつけて応じました。
「そうなんですか」
奥方は思わずあるお師匠様の口癖で応じました。
ボロボロになりながらも、リックは邸の主がいる部屋の前に着きました。
「旦那様、先生がいらっしゃいました」
奥方が告げると、
「お通ししなさい」
主の声が言いました。奥方は目の前の観音開きの扉を引き、
「どうぞ、お入りくださいませ」
リックと遊魔に言いました。
「はいにゃん」
リックは名残惜しそうに中に進みました。遊魔がそれを押して進みます。
奥方は二人が部屋に入ると、扉を閉じました。
「ようこそいらっしゃいました、リック先生」
リックは唖然としていました。そこにいたのは、デブでもハゲでもブサイクでもない男でした。
(イケメンにゃん!)
逆の意味で遊魔が心配になるリックです。
(初めて不戦敗だと思ってしまうにゃん……)
リックは心の中で涙しました。
「噂に違わぬ美丈夫ですね、先生。しかも、奥方様もお美しい」
主の言葉は、リックには届いていませんでした。
「ありがとうございますう」
遊魔はあるお師匠様に負けないくらいの笑顔で応じました。
「そ、それで、仕事の内容なのですが……?」
やっと我に返ったリックが切り出すと、主は笑って、
「それは食事がすんでからに致しましょう」
そう言って手を叩くと、たちまちたくさんの高級料理が運ばれてきました。
それはどれもリックの大好物です。
「おおお!」
理性が吹っ飛びそうなくらい嬉しくなるリックです。
「どうぞ、心ゆくまでお召し上がりください、先生、奥方様」
主はにこやかに言いました。
「いただきますにゃん!」
リックは何も警戒する事なく、貪るように食べ始めました。
「お前様、お行儀が悪いですよ」
遊魔が窘めましたが、リックは聞く耳を持ちません。只管、食べ続けました。
それを見て、主がニヤリとしたのをリックはもちろん、遊魔も気づきませんでした。
「もう食べられませんにゃん。ご馳走様でしたにゃん」
リックはお腹をこれでもかというくらい膨らませて、仰向けになっていました。
遊魔はテーブルに伏せて眠っています。
「いや、まだまだありますので、ご遠慮なさらずに」
主がにこやかに手を叩くと、また同じくらいの量の料理が運ばれてきました。
「もう無理ですにゃん! それよりも、仕事の話を……」
リックは何とか起き上がりながら言いいましたが、
「そうはいかない。お前には俺の身代わりになってもらうのだから」
主は悪い顔になって言いました。
「どういう事にゃん?」
リックはビクッとして立ち上がりました。でも、お腹が膨れているので、よろけてしまいます。
「こういう事でございますよ、先生」
いつの間にかリックの背後にいた奥方が背中から抱きついてきました。
「奥方様、それはまずいですにゃん」
遊魔の怒りを恐れて言ったリックですが、遊魔が眠っているのでホッとしました。しかし、
「その男の代わりにあんたが私の可愛い子供達の餌になっておくれ」
奥方の正体は女郎蜘蛛でした。
「貴女が妖怪だったにゃんて……」
騙された事より、奥方が妖怪だった事がショックの馬鹿者です。
「どうして僕にゃん? もっと美味しい奴はたくさんいるにゃんよ!」
蜘蛛の糸で雁字搦めにされたリックは涙ぐんで言いました。すると、
「天竺まで行った猫又はあんたしかいないんだよ。あんたを食えば、私達一族は永遠に栄えるのさ!」
女郎蜘蛛が勝ち誇った笑顔で言い放ちました。
「そ、そんにゃあ!」
リックはゾロゾロと湧き出してきた子蜘蛛を見て全身総毛立ちました。
「じゃあ、俺は行くぜ。あばよ」
主のふりをしていたイケメンはそう言って立ち去ろうとしましたが、
「バカだねえ、あんたも餌だよ」
女郎蜘蛛が言うと、あっと言う間に子蜘蛛に食らい尽くされてしまいました。
それを見たリックは少しチビりました。
「遊魔、助けてにゃん! 食べられちゃうにゃん!」
リックは絶叫しましたが、遊魔は気持ち良さそうに寝ています。
「無駄だよ。そいつは食べられても目を覚ましはしないさ!」
女郎蜘蛛がリックを嘲りました。
リックはあらん限りの声で遊魔を呼び続けましたが、遊魔は全く目を覚ましません。
(一か八かにゃん)
リックは捨て身の戦術に出る決意をしました。
「わあ、奇麗な女の子にゃん。僕のタイプにゃん。お嫁さんにしたいにゃん!」
リックの奇妙な言葉に女郎蜘蛛は、
「とうとうおかしくなったのかい?」
せせら笑いましたが、
「お前様!」
ムクッと起き上がった遊魔が、真必殺技の踵落としを炸裂させたので、仰天しました。
「ぐぎゃあ!」
寝ぼけていたせいなのか、微妙に標的が狂った遊魔の足は、リックではなく、女郎蜘蛛の脳天にヒットしました。
女郎蜘蛛は砕け散り、子蜘蛛達も全て消滅してしまいました。
「助かったにゃん、遊魔! 愛してるにゃん!」
糸から解放されたリックが遊魔に抱きつこうとすると、
「お前様、許しませぬ!」
踵落としを食らってしまいました。
「むぎゃあ!」
リックはそのまま失神し、ついでに失禁もしました。
めでたし、めでたし。
いつもどおりです。