俺の婚約者 雪兎視点
今回は雪兎さん目線です。
俺が産まれた時点で俺は太陽の側に居ることが決まっていた。
親同士が仲良くて俺の横には太陽が寝かされていた。
二歳の時日和が産まれて、正直太陽と遊ぶ意味の解らなかった俺に太陽と一緒に居る理由ができた。
日和。
小さな手を振り回して泣いて、太陽があやしても泣き止まないくせに俺の指を掴むと泣き止んで笑う。
こんな可愛い生き物居ないって思った。
毎日のように太陽と遊ぶふりして日和に会いに行った。
日和は徐々に歩くようになって、俺たちの後を追いかけてくるようになった。
それがまた可愛くて………
誰かに泣かされれば俺たちの所まで来て太陽は日和を泣かした犯人を泣かさないと気がすまずに追いかけ回した。
俺は日和の側で日和を抱き締めて頭撫でて、泣き止んだ日和のとびきりの笑顔をもらうんだ。
「雪兄ちゃま!大しゅき!」
「俺も日和が大好きだよ。」
あの頃の日和は俺の事を雪兄ちゃまって舌ったらずに言ってて可愛かった。
太陽の事はお兄ちゃまって呼んでたな。
俺は日和のためならなんでも出来るってその頃には思ってたんだ。
俺が小学二年になった時、親父に聞いた。
欲しいものを手に入れたいときどうしたらいいか。
「言質をとってしまえば良い。証拠になるように証人が居るところでな!」
我が親父ながら子供に何言ってんだ。
だが、俺はそれを実行することにしたんだ。
うちの両親と太陽達の親が居る所で俺は計画を実行した。
「太陽。俺は太陽を尊敬してる。」
「………ありがとう。」
太陽はかなり驚いた顔をしていた。
何せ俺たちは何かと比べられ結構な割合で俺の方が勝っていた。
そんな俺が尊敬してるって言ったのだ。
「太陽見たいな兄が欲しかった。日和が羨ましい。」
俺の言葉に太陽はご機嫌だった。
「太陽。俺の兄になってくれるか?」
「うん。良いよ!」
俺は親父達の方を見ると言った。
「太陽が俺の兄になってくれるって言ったから、日和を俺のお嫁さんに下さい。」
親父はそこで俺の欲しいものが解ったみたいで大爆笑した。
太陽と太陽の親父は真っ青だったけど、母親二人は跳び跳ねて喜んだ。
俺はこうして、日和の婚約者になったんだ。
日和の事は誰にも譲らないし太陽にだってこの気持ちを邪魔することは出来ないんだ。
「日和、俺は日和のお兄様じゃなくて婚約者になったんだ。だから名前で呼んで欲しいんだ。雪兎。言ってごらん。」
「雪兎しゃん。」
あの時俺がどんなに嬉しかったか、俺以外誰も知らないだろう。
太陽の両親が別れたあの日、日和から電話がかかってきた。
『雪兎さん、私はお母さんと一緒に宮浦の家を出ます。あの………今までありがとうございました。雪兎さんの幸せを祈ってます。』
一方的に日和はそう言って電話を切った。
それから日和に会えない日々が続いた。
太陽に日和に会わせて欲しいって頼んだが、一度も会わせてくれなかった。
だから、日和がエルモニアに入学するって聞いた時は嬉しかった。
入学式。
エルモニアの制服に身を包んだ日和を見た時、俺は驚いた。
日和は俺が思っていた以上に綺麗になっていた。
隣で太陽がニヤニヤしていて殴りたくなったがこらえた。
日和は俺達の方を見ないようにしているようだった。
その夜、日和から電話がかかってきた。
『あの、雪兎さんお久しぶりです。あの、お願いがあって………』
「うん。なんだい。」
『学校ではたいちゃんが私に話しかけないように協力して欲しいんです。私は今、宮浦じゃないし一般庶民組なので………たいちゃんと兄妹じゃない事にしたいんです。』
「太陽は泣いちゃうかも知れないね。」
『うざ。………私は金持ち組の中でこの人だけは二人に………たいちゃんと雪兎さんに近付いて欲しくないって人を見極めたいんです。だから………協力して下さい。駄目ですか?』
日和は俺達のために情報を集めるつもりだとすぐに解った。
日和はそう言う子だ。
そんなところも、好きなんだ。
「解った。協力する。」
『ありがとうございます。雪兎さんは頼りになります。』
日和はそう言って電話を切った。
耳元に残る日和の声。
好きすぎる。
そう思った。
それから、学校生活も安定した頃の朝礼で日和と仲良さそうにしている男を見て太陽がキレていた。
俺は太陽をなだめた。
内心腸が煮えくり返る思いだった。
なんて心の狭い男だろうか?
だから、太陽が日和を呼び出す放送をいれている中で日和に会いに行った。
他人行儀に城井副会長って言われて息が詰まりそうになった。
日和の可愛い声で名前を呼んで欲しかった。
太陽の事はたいちゃんって呼んだのに。
少なからず面白くない。
朝礼の時に日和が話していた柚樹ってやつの事は覚えていた。
俺の事をうさちゃんって呼ぶ男。
昔から俺が日和を好きだって解っていた男。
日和を泣かして太陽の気をそらして、俺と日和を二人きりにしてくれていた奴だった。
俺の方に親指たてて合図する小さな柚樹の顔が思い浮かんだ。
アイツは俺の邪魔はしない。
アイツはなら腹もたたない気がしたが、太陽は違うようだった。
次の日、適当な理由をつけて彼女に会いに行った。
話の流れでちゃんと理由があってわざわざ他人行儀にしていたと解って安心した。
名前を呼んでもらえて本当に嬉しかった。
日和。
俺は本当に駄目な男だ。
君の事ばかり考えて一喜一憂してしまう。
だから、側にいて欲しいんだ。
俺の横は太陽じゃなくて日和の場所だろ?
日和。
俺の大事な人。
俺の大事な婚約者。
俺はそんなことを思いながら日和の頭を撫でるのだった。
え?重い?
いや、良いんじゃないかな?
こんぐらい思われなきゃでしょ。