雪兎さん
雪兎さんは私の産まれた時には兄の隣にいた。
勿論覚えている訳ではなくて、写真で残っているって言うだけだけど。
兄いわく雪兎さんの右の人差し指を握ってニコッと笑う赤ちゃんの私が可愛かったらしい。
私が言ったんじゃない。
あくまでも兄が言ったんだ。
雪兎さんも可愛いって思ってくれてたら良いな~とは思う。
そんな昔からの知り合い。
私の好きな人。
私が泣かされたりすると兄が泣かした人を追いかけ、雪兎さんが私を慰める。
それが定番。
そのせいか、雪兎さんの側に居る時は自然と涙がひく気がした。
優しい顔して好きな言葉が"利益"だったり、お金が大好きだったり利用価値ってものを瞬時に判断する人。
腹黒だって知っているからこそ、家柄と言う自分の利用価値がなくなってしまった今の私には利用価値を自分で見出ださなければならないのだ。
彼に利用価値があると思ってもらえれば自信になる。
だからこそ、生徒会に入らないか?って言われてときめいた。
私が役に立つって言ってくれたことが嬉しかった。
兄がウザすぎて時間が欲しくなってしまったが、生徒会に入ってみようと思っている。
「昨日の生徒会の呼び出し何だったの?」
「生徒会の勧誘。」
「え?生徒会に入るの?」
「………うん。たぶん。」
次の日のお昼休みに秋ちゃんに昨日の事を聞かれた。
秋ちゃんは瞳を輝かせている。
「毎日のように生徒会長を見れるなんて天国だね。」
「冗談でしょ。生徒会長と顔合わせないといけないと思うだけで憂鬱。」
「何がそんなに駄目なの?」
「顔?性格?全てかな?」
「そんなことを言うのヒヨリンぐらいだよ。」
秋ちゃんはため息まじりにそう言った。
私も苦笑いを浮かべた。
仕方ないだろう。
私の兄が生徒会長やっているなんて限られた人しか知らないのだから。
暫く他愛のない話をしながら秋ちゃんと二人しか居ない教室でお弁当を食べた。
皆、食堂や中庭などで食べているのだろう。
お弁当が食べ終わる頃今日も雪兎さんがたずねてきた。
「日和。答えは出た?」
名前で呼ばないで欲しいです。
「あの、城井副会…」
「なんだい日和。」
「いや、わざとですか?その………これ見よがしに名前を呼ばないで下さい。」
雪兎さんは小さく苦笑いを浮かべた。
「日和が俺の名前を呼んでくれないからなんだけど、駄目だったか。」
「雪兎さんはそんなに名ぇ!すみません城井副会長。」
つい雪兎さんの名前を口にしてしまった。
雪兎さんはニコッと優しい笑顔を作ると私の頭を撫でてくれた。
「日和に名前を呼ばれるのが好きだって言わなかったか?」
「聞いてません。って言うか友達の前で止めてください!雪兎さんと知り合いだって解ると皆にだしにされそうで嫌なんです。」
「そう言う事………解ったよ。太陽にも言っとくよ。じゃないと日和にそんなに他人行儀にされたら太陽泣きかねないから。」
「ウザ!」
「だな。」
雪兎さんは楽しそうに笑った。
私もつられて笑ってしまう。
雪兎さんのこの雰囲気が好きなんです。
そこでようやく秋ちゃんに視線を向けてフリーズしてしまった。
顔はひきつって居たと思う。
秋ちゃんの無表情が怖すぎる。
「あ、秋ちゃん………ごめん。」
「本当だよ!」
秋ちゃんは膨れて見せた。
私は秋ちゃんに苦笑いしか作れなかった。
そこで、雪兎さんが言った。
「日和の友達は良い子だから許してくれるよな!」
そして雪兎さんは秋ちゃんの頭をなでなでしてあげていた。
羨ましい。
「勿論許します!」
秋ちゃんは雪兎さんをうっとり見つめていた。
ちょっとモヤっとします。
顔に出さないようにしないと。
そう思ったところで雪兎さんは私の頭も撫でてくれた。
「日和。生徒会入る気になったか?やるとなると、俺の補佐をしてもらうようになると思う。」
「副会長の補佐ですか?」
「まあね。太陽は黙らせるから心配しなくて良い。」
「………たいちゃんが黙っている気がしません。」
「俺を誰だと思ってる?太陽の扱いは俺が一番だと思ってるけど?」
間違いないですね。
兄をやり込めてしまう雪兎さんも大好きです。
口には出せないけど………
「じゃあ、生徒会メンバーとして今日から宜しく篠崎さん。」
「はい。ご期待にそえるよう頑張ります。」
雪兎さんはニコッと笑うと去っていった。
「副会長ってあんなに笑う人だったんだね。」
「へ?」
「無表情とかもっとニヤって感じの笑顔のイメージなんだよね。ヒヨリンの前だからだったりして!」
秋ちゃんは含みのある笑顔を作った。
「雪兎さんはいつもあんな感じだよ。私だからだとしたら………幼馴染みだからかな?」
「幼馴染みなの?」
「たぶん。小さい時はいつも一緒だったから。」
「それは幼馴染みだね。あんな格好いい幼馴染み羨ましい!生徒会長もなんでしょ?」
生徒会長は兄です。
とは言えない。
「そんな感じ。」
私はまた苦笑いを浮かべたのだった。
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