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真実

その日、移動教室から戻ってきて一番最初に目に入ったのは私の父からの誕生日プレゼントで通学用になっていたお気に入りの鞄の無残な姿だった。

刃物で引き裂かれた鞄。

何がおきたのか頭が理解しようとしない。

見れば兄からもらった財布も同じような姿で転がっていた。


「あら、お帰りなさい。」


そこにいたのは、西園寺とゆかいな仲間達だった。

しかも、西園寺の手の中には鞄の中に大事にしまっていた雪兎さんからもらったネックレスらしき物が見えた!

………らしき物なんだ………形が変わりすぎていて確信が持てない。

ただ、あのチェーンはあのネックレスの物に違いなかった。


「ごめんなさいね!私、偽ブランドって許せなくて!弁償するから許してね。」


西園寺の言葉が理解できない。


「このブランドのこの形にこの色は存在しないのよ!知らなかった?」


西園寺の勝ち誇った顔に苛立ちがつのる。


「偽物なんて恥ずかしいのかしら?」


ゆかいな仲間達も頷いている。

私は言葉が出なかった。

目は西園寺の手にあるネックレスから外すことが出来なかった。

それに気がついたのか、西園寺が私の方にそれを投げた。

足下に転がったネックレスは妖精なんて解らない、いびつな球体のようになっていた。


「子供っぽいデザインだったから、エレガントにしておいてあげましたわ!」


足下に転がったネックレスに手をのばすと視界がぼやけた。

涙が溢れている。

なぜか客観的に分析している自分が、私の中にもう一人いるみたいな感覚に襲われた。

悔しい。

大事な物だった。

父も兄も普段使えるようにって選んでくれた物だった。

今、この状況で持ってくるべきじゃなかった。

とくに雪兎さんがくれたネックレスは大事だから持っていたくて………駄目だ!浮かれていた!全部自分のせいだ。

涙は溢れて床に吸い込まれていった。


「泣くほど大事な物だったのかしら?なら、それも弁償してあげる。いくらかしら?」


金で解決しようって魂胆がむかつく。

私が口を開こうとした時私の前に現れたのは兄だった。

兄は驚いた私に昔よく見た怖い顔をむける。


「どう言う事だ。………やっぱりいい、だいたい見ればわかる。」


兄のあんなに怒った顔は久しぶりだ。

私は兄のあの顔が怖い。

少し怯えてしまう。

そこで、ふわりと誰かに抱き締められた。

すぐに誰だか解った。

こんな時に私を抱き締めてくれるのは雪兎さんしか居ない。


「太陽!顔が酷いぞ。」

「黙れ雪!」


雪兎さんは私の頭を優しく撫でてくれた。

昔と同じように安心してしまう。


「雪!俺が気が付かない様に画策しやがったな!」

「違う!私が頼んで雪兎さんに黙っていてもらったの。」

「雪が面白がってないって証拠は?」

「雪兎さんは私を心配してくれたもん!無茶しちゃ駄目だって言ってくれたもん。」


まだ涙が引かないで流れ落ちる顔で兄に訴えかける。


「日和は雪が腹黒だって知ってるだろ!」

「知ってるよ!だけど心配してくれてたのは本当だよ!」


雪兎さんに抱き締められながら兄とにらみあう。


「兎に角泣き止め!雪、たのむ。」

「あらためて言われるまでもないけど。」


雪兎さんは私の耳元でゆっくりと大丈夫だと囁いた。


「で、君達がこれを?」


兄は震え上がる西園寺を睨み付けた。


「わ、私達は………」


西園寺の顔色がどんどん青く白くなっていった。


「俺の妹にこんなことしてただですむと思うなよ。」


兄の言葉に彼女達は大きく目を見開いた。


「兄、その人達は私が兄の妹だなんて知らないよ!」

「馬鹿か?日和の事を俺も親父も隠してねえのに調べもしないで日和に危害をあたえるなんてそんな頭の悪い奴らを庇う意味あるか?」


兄はかなり切れている。

実際、私を調べれば兄に繋がる。

だってそう言うことを出来る人を探していたんだもん。


「後は太陽にまかせるか?」


雪兎さんはさらに私を強く抱き締めてフェイドアウトするつもりみたいだ。

なんだか涙も止まり、私はとりあえず雪兎さんの腕の中でもがいてみた。


「雪兎さん、あの兄を止めてください!あと、ありがとうございます!はなして良いです!」

「太陽にやりたいだけやらせとけば良いんじゃないか?」

「雪兎さん!はなして!」


私が強く言うと雪兎さんは、はなれてくれた。


「兄!女の子に何かしたら嫌いになるよ!」


私がそう言うと兄は私の方を見ると困った顔を作った。

そこに雪兎さんが続けて言った。


「太陽。俺にまかせておけ、国外追放してやるから!」

「………雪?」

「俺がムカついていないとでも思ってるのか?」

「雪………目がマジだな。」

「太陽。日和に頼まれたのは太陽にバレないようにしてほしいって事だけだった。日和に敵意を向けた奴らは全て把握済みだ。とくにそこに居る西園寺は日和に色々としてくれていたみたいだな。大丈夫だ!根回しはしてある。」


雪兎さんの言葉に私と兄は抱き締めあって震えた。


「雪!恐いよ!」

「雪兎さんいつの間に?私も色々と情報収集しているのに雪兎さんが根回ししていた気配はなかったよ?」

「………日和、今度どうやるか教えてやる。」

「うちの子に悪いこと教えないでくれって言ってんだろうが!日和、悪い大人になっちゃうから聞いちゃ駄目だ!」


情報収集の仕方はほぼ雪兎さんに教えてもらった物だが、まだまだ教えてもらってない事があったらしい。


「うちの親父直伝だから足もつかないやり方だ。」

「雪!警察沙汰とか嫌だからな!」

「大丈夫!俺がやった証拠もないから。」


雪兎さんの爽やかな笑顔が怖いです!

兄も同じ感想だと思う。

兄の顔色が悪い。


「日和はあんな人間にならないでくれ!」


うん!もう手遅れだと思います!

口に出しては言えないけど………


「わ、私は、ご、ごめんなさい。」


西園寺は青白い顔でそう言った。


「雪兎さん。許してあげたい。」

「!?日和。」

「お、お願い。」

「………」


雪兎さんは難しい顔をして、深く息を吐いた。


「解った。」

「ありがとう!雪兎さん。」

「次、何かあったらやるから。」

「うん。次は止めないから。」


私と雪兎さんは柔らかい顔で笑いあった。

どうやら兄と雪兎さんのお眼鏡にかなう可能性がある人はこの学校には居ないみたいだ。

目の前で西園寺さんが泣き出し大変だった。

クラスの皆にも生徒会長が私の兄だとバレてしまった。

この出来事のお陰で兄と一緒に居ても生暖かい眼差しをされなくなったのだけがプラスだったかもしれない。

兄だと解って違う意味で生暖かい眼差しを向けられていると思いますよ。

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