影絵の犬②
コインパーキングは予想に反して盛況だった。
ぎっちりと並べられた大きさも色も形も違うそれらの間を僕たちは歩いた。
妹さんは吸い寄せらるように奥へと進む。
すぐに突き当たって壁が現れる。
廃屋も飼っていたという犬もそこには存在しない。
「さすがにもうないね」
「なんだ、もう居ないのか」
すっかり日が落ちていた。
妹さんは安堵しているように見えた。
「あの頃、姉はあの二匹の犬に支配されていたの」
「支配? 」
あまり穏やかな言葉ではなかった。
「自分たちの意思を乗っ取られたように私たちはあの犬に餌をやっていた」
「でもそれは支配とは違うよ」
「私は何故か姉ほど、あの二匹を可愛いとは思えなかった。醜くて汚くて、なにより怖かった」
「お姉さんは、でも違った? 」
「はい、何だか異常なくらいに二匹を愛していました。引っ越してからは、その話題に触れた事はありませんが」
「うーん」
本当の事を言えば、僕はまだ水原さんの事を何も知らなかった。
妹さんの事もそうだ。
「竜之介さんになら全部話してしまってもいいかもしれない」
「まだ何か気になる事があるの? 」
「あの犬たちは人間の恐怖を食べるんです」
「え? 」
「つまり私たちは、あの犬に与える為に餌を探しました」
恐怖を食べる犬。
「その為に、何人もの同級生や教師を差し出しました」
「あのー、それは何かの比喩かな? 」
首を横に振った妹さんは僕の目を真っ正面から捉えた。
「信じてもらえるとは思いません。ですが、あれは確かに……」
その時、妹さんの影が大きく歪んだように見えた。
影は一匹の大きな犬の形に見えた。