パーティーからの脱出
僕は消耗しきっていた。
ライブというのはこんなにも疲れるものなのか。
それともただ単に僕が慣れていないせいなのかもしれない。
疲れているのは妹さんも一緒の様で、退屈とまでは言わないが場の興奮からは切り離されていた。
前の方で楽しんでいる水原さん(姉)とそれを見守っている兄。
僕らは後ろの方で二人で落ち着いて聴いていた。
「ねぇ、楽しくない? 」
「別に」
「ごめんね」
「なんで竜之介さんが謝るんですか? 」
「相手が僕じゃなければもっと楽しめたかも」
「それは違います」
僕がせめて兄ぐらい社交的になれたなら違っていただろうか。
「そうかな」
「ちょっと抜け出しましょう」
「え、一度出ると入れないよ」
「もっと聴きたかった? 」
「いや、全然」
僕が真顔で言うと妹さんは少し笑った。
「竜之介さんだったから良かったのかも」
「どういう意味? 」
それには答えずに瑞穂さんは僕の腕を取った。
「さぁ、行きましょう」
「はい」
ライブ会場を出るとエントランスには誰もいなかった。
係りの人すら居ないようで、とても不思議な感じがした。
「ライブが終わるまで30分あるね」
「一度行ってみたかった所があります」
「ここから近いの? 」
「近い……はずです」
この辺の地理に詳しくない僕らはできるだけ大きな道を通る事にした。
来るときに到着した駅とは逆方向へ歩く。
「いったいどこに行くの? 」
「あるはずなんです。前に来たことがあるので間違いないんです」
「そう」
時間は20時を少し過ぎており、若い二人が夜道を行くのは好くないと思えた。
兄に連絡を取った方がいいかもしれない。
「大丈夫です」
「うん」
でも僕は何故かそうしなかった。