きっかけ②
「本当にその女の子が俺を誘えって言ったの? 」
「ああ、そうだよ」
僕はちょっと苛ついていた。
「ふーん、もしかしてりゅうはその子が好きなの? 」
「好きってほどじゃないけど、気になるって位かな」
「じゃあダメだ、やめとけ」
兄はそういうともう興味を無くし、自分の机に戻った。
僕らは一つの部屋を二人で使っていた。
もともとはおじさんの書斎だったが、僕らがこの家に来た時にわざわざ作ってくれたのだ。
普通なら兄や僕ぐらいの年齢なら、一人部屋が欲しいと考えるかもしれないが、僕はこの部屋が気にっていた。
兄も同様に、この部屋が気にっているようで特に不平や不満はなかった。
「最近、聴いてるバンドなんだ」
「知ってるよ、このごろお前が流してるから」
「まぁね、うるさかったら言ってね」
「別にうるさくはない」
だが、兄が好んで音楽を聴いているのを見た事がなかった。
「兄貴は、ライブとか行ったりしないの? 」
「行かない、というか金がない」
「それが理由? 」
「夜遅くなるとおばさんが心配するからさ」
背中を向けたまま、兄は何気なく呟いた。
「そっかぁ」
「でもまぁ、お前ひとりに行かすよりはいいかもな」
「いつまでも保護者同伴なんて恥ずかしいよ」
「そういうな」
「別に僕は一人でも平気だよ」
「ちゃんとエスコートできる自信があるんだな」
そういわれるとちょっと自信がなかった。
「大丈夫だよ」
「まぁ、たいしたことないよ」
どこまで兄が本気なのかは分らない。
「夏までにお金を貯めないと」
「まぁ頑張れ、とりあえず一緒に行ってやるよ」
「うん」
こちらを向いた兄は間髪入れずに
「そこが駄目なところだ」
と言い放った。
「なんでだよ」
「そんなんじゃ妹の方だってエスコートできないな」
馬鹿にされていると分っていても、何も言い返せない。