表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

いちばんはじめの記憶

 夜は黒い服を着て歩く、もしくは何も身に着けずに寝る。

 三歳ぐらいの頃、無意識に歩道から車道へと足を向ける僕を、引っ張って連れ戻してくれたのは五つ歳の離れた兄の手だった。

 口を堅く結び、何かしらの秘密を守りながら兄は静かに、しかし力強く手を引っ張る。

 生と死の間をふらふらと歩いた。

 ポケットにはガーゴイルの骨と大事な人の写真。

 どちらもほんの少し死の側に近い。

「竜之介、足痛くないのか」

「んずぃ、痛くない」

 甘えながら抵抗し、注意を引きたくて仕方がない僕は足を少し引きずる。

 すると本当に足が痛い気がしてくる。

「おんぶする? 」

「いい、歩く」

 ふて腐れている僕を見て困ったように兄が微笑む。

「もうちょっとだから我慢できるよな」

「できる」

 だんだんと足の痛みが増していき、握っている手にも力が入る。

 サンダルがそもそも大きすぎたのがいけない。

 水色のアンパンマンのサンダル。

 ガードレールが途切れて道と道の間が白線だけになる。

 車とは反対側に押しやられる。

「あ、わんこがいる」

 二匹の目つきの悪い犬が遠くからこっちを見ていた。

 距離は200メートルくらいで、よくみても朧げで犬には見えない。

 けれど、たしかにそれは犬のようではあった。

「しぃ、静かに」

 相手はすでにこちらを見ていた。

「来るよ」

「大丈夫、鎖があるはずさ」

 ゆっくりと距離が近づく。

「アッチへゆけ」

 僕は精一杯の威嚇をしてみせた。

「ダメだ。向こうから廻ろう」

 僕たちは、歩いてきた道を戻ることにした。

 兄は何度か振り返ったが犬はついては来なかった。

 痛みよりも疲れで足が重くなる。

 ふと兄の表情を見ると、兄も疲れているのが分かった。

 急に不安が押し寄せてきて涙が出そうになる。

 転びそうになって、兄に支えられる。

 なぜ誰も迎えに来ないのか。

 どうして母は一緒ではないのか。

 兄はどうしてこんなにも優しいのか。

 きっと、少ない語彙でも問いただす事はできたと思う。

 ほんの少し休憩した僕らは、何度か訪れたことのあるおじさんの家にたどり着いた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ