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居候日記  作者: narrow
93/95

続き

   ◆

 誰かに呼ばれている気がして、レイは目をさました。

 「ん・・・零さん?」

 まだ室内は闇といっていいほどに暗い。

 おかしいな、と思う寝ぼけた視界に、さらにおかしなモノがうつる。

 ひゅあっ。

 自分のノドが息を飲む音がした。

 女の幽霊がいた。

 それが外国人だとかろうじてわかったのと同時に、レイは気を失った。

 次に目を開けたときも、部屋は暗かった。

 浮かび上がる白い女の顔。

 まだいる。

 もう一度 気絶してしまいたい。

 レイの願いは叶わず、幽霊はこちらの顔をじっと見ている。

 にっ、と笑う。

 幽霊なのに、陽気な笑顔だった。

 怯えていたハズが、拍子抜けする。

 「£∞∴§☆◎¢∋◇♪」

 幽霊が話しかけてくるが、どうやら外国語でレイには理解できない。

 「え?え?」

 首をかしげていると、

 「¶♯∠∃∀Å∽∬△▽##*??」

 さらに何か言ってくる。

 「わ、かんないよー・・・ノーイングリッシュ、オケー?」

 英語かどうかもわからないが、とりあえず話せないことを伝えてみる。

 幽霊は少し困った顔をした後、固く目を閉じた。

 集中しているように見える。

 突然、レイのアタマの中に大きな声が響いた。

 “きこえるー?!”

 「きゃっ」

 レイは思わず短い悲鳴をもらした。

 隣で寝ている零は、幸い起きなかった。

 彼らしくもないが、かなり熟睡しているのか。

 また、声がする。

 “あ、ご、ごめんね?集中しすぎたみたい。”

 幽霊は言葉が通じないとわかり、テレパシーを使うことにしたらしい。

 できることはできるが、慣れていないのだろう。

 「だ、ダイジョブだいじょぶ。」

 レイが笑って見せると、こちらの言いたいことはわかるのか、幽霊も へろり と人の良さそうな顔で笑った。

 怖い幽霊ではなさそうだ、と思うとレイは少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。

 幽霊が、おもむろに寝ている零へ視線を落とす。

 “ねぇあんた、これと付き合ってるんだよね?”

 レイは大人で、隣に眠る零は子供だ。

 しかし、子供なのは外見だけ。

 幽霊はそれを知っているのだろうか。

 「え?いや?えっと、どうなんだろ。」

 それにしても、関係を問われるとそこはどう表現していいか迷う。

 付き合っている彼女、だとするならもっと大事にされるはずだろう。

 その答えをどうとったのか、幽霊は話し続ける。

 “これが、何なのか・・・知ってるよね?”

 「人間じゃない、ってこと?」

 さっきから零をさして幽霊が、“彼”や“この人”でなく“これ”と表現しているのは、そのせいに違いなかった。

 “そうだよ。こいつは悪魔なんだ。そしてあたしはその犠牲者。”

 「犠牲・・・?零さん、の?」

 “零、か。あたしにとっちゃ、ただの・・・悪魔。”

 幽霊はもう一度、ゆっくりと彼の名を呼んで透き通った手をその頬に重ねた。

 言い分は恨み言そのものなのに、悲しげな瞳にはいとおしさが見えた気がした。

 その瞳が、レイの瞳をのぞきこむ。

 “教えてあげる、こいつのしたこと。隠してる全部。”

 レイの頭の中を、幽霊の記憶がイメージとなって駆け抜ける。

 自分の記憶ででもあるかのように、胸いっぱいに感情があふれはじけ流れた。

 深く暗い森、幼い自分、大きな悪魔の大きな手。

 悪魔は自分を助けてくれた。

 恐れるべき存在ではない。

 木漏れ日の下で見る悪魔の瞳、そこに受け入れられたような感覚。

 お互いの気持ちが重なった瞬間、会うことを禁じられた。

 心は渇き、枯れゆく。

 枯れて、完全に朽ちてしまう前に、駆け出す。

 束の間、夜の闇に愛しい影を見る。

 幻と思える一瞬だけで、気づけばまた渇きのただ中に戻されている。

 何度会いに行っても。

 苦しい・・・狂おしい。

 会いに行くだけではだめなら、一緒にいられないのなら一つになればいい。

 魂を捧げよう、悪魔に。

 願いは、一つになること。

 離れなくてすむのなら、他にはなにも。

 胸に突き立てたのは、自由の鍵だ。

 痛くなんかないはず、一つになるだけ。

 倒れこめば鍵は深く突き刺さり、大きな手が伸びてくる。

 迎えに。

 “あたしは、そうして死んだ。

 あいつは、あたしの魂を食った。

 もしかしたら最初からそのつもりで、少しだけ優しくしたのかもしれない。

 自分から魂を捧げるようにするためにね。

 これでも、あいつが好き?そばにいたい?”

 真顔で恨めしげな言葉を吐き捨てる幽霊は、少し恐ろしい感じがした。

(続)

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