表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居候日記  作者: narrow
91/95

続き

 「なぁレイ」

 何気ないそぶりで

 「ん?」

 耳に心地よい響きは、あと半歩踏み出すだけで抱きしめられそうな距離感。

 俺は、踏み出そうとする。

 「最後まで付き合ったゴホウビに、キスしてやろうか?」

 「え?」

 半分笑いかけたフクザツな表情で、レイが固まる。

 こういう からかい方をすると、本当に怒らせてしまう事がある。

 それは今までの経験からわかっている。

 だが俺は今 彼女をからかってはいない。

 その気持ちは、伝わっていない。

 それも、今までの事を思えば当然だ。

 胸の内すべてを吐き出してしまえば、俺の望みは叶う。

 迷いながら、彼女の頬にキスをする。

 踏み出しきれずに。

 レイはそれに驚いて小さく声をあげた。

 「ひゃ」

 「オツカレさん。また つきあえよ。」

 他意はない、と軽く笑って見せる。

 安心した笑みがレイの顔に広がる。

 「えぇっ?やだもー、えへへ、えへぇ・・・」

 それが仮面とも知らずに。

 嘘だよ、これも嘘。

 俺は結局悪魔で、彼女の笑顔を引き出すには嘘をつくしかない。

 その目の前で、いくつか悪魔らしい行動を見せたことはある。

 それでも、俺が人を殺すところも、ふだんの契約のありかたも、契約した人間が俺をなじる場面も、レイは本当の俺らしい俺を何一つ知らない。

 愛想の悪い同居人ぐらいにしか思っていない。

 「じゃ、そろそろ寝るか。」

 “仮面”がしゃべる。

 「うん・・・ふぁ、ふう。」

 レイが眠そうにあくびをする。

 “仮面”を“子供”から“彼氏”に変えて、レイを抱き上げてベッドに寝かせてみる。

 「ふぁっ?」

 レイの驚く声。

 フトンをかけてやろうとすると、こちらを見つめている。

 「何だ?」

 「ううん、・・・じゃ、なくて、あのね?」

 俺はその先を黙って待つ。

 何か気付かれたのだろうか。

 「零さんって、悪魔なんだよね?」

 「あぁ。」

 レイの表情が少し困ったように変わる。

 「・・・イケニエ、やっぱ食べたりしたことある?」

 俺は、あきれた。

 「だったら出会った時点でお前は喰われてる。」

 「あ。そか、そーだよね?あは、あはは。零さんがそんなことするわけないよね。」

 別にイケニエとしてではなく、なら人を殺すし、喰うがな。

 俺は子供の姿に戻らないまま、TVを消しながらレイの隣にもぐりこんだ。

 「そうだったとして」

 「そうだったとして?」

 疑問形で俺の言ったことをくりかえしたレイの肩をかるく抱く。

 「え?え?」

 戸惑うレイに、俺は意地悪く笑った。

 「お前を最初の犠牲者にすることもできる。」

 鼻先で柔らかく甘い香りのする髪をかき分けて、耳に噛み付く。

 甘噛みに、笑いの混じった悲鳴が上がる。

 「きゃぁっは、あはは!くすぐった、いたっきゃっ、きゃははは!」

 ふざけているフリで、抱きしめる。

 「逃・げ・る・な。本気だったらどうする?」

 喰われて、くれるか?

 「えー、だからぁ、そんなこと思ってないクセにぃ、あはは!信じてるもん、零さんのこと!」

 抱きしめていたい衝動と、苛立ち。

 俺のことなど、ろくに知りもしないで。

 全てを知られたとき、レイは自分から離れて行ってしまうかもしれない。

 誰だって、死にたくはない。

 駆け抜けて行く動揺を、一瞬目を閉じてやりすごす。

 彼女を放してやり、あえて笑う。

 皮肉たっぷりに聞こえるよう、俺は言った。

 「だと、いいな?」

 そうだとしたら、どんなにいいか。

 

 イケニエでなくとも、自分か奪った命は数知れないという事実。

 目の前の笑顔は、それを知らない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ