2 幼き恋の影
年の頃は、小学校にあがるかあがらぬか、というくらいの子供たちが数人、公園で遊んでいる。
一人だけ、離れたところにポツンと立っている女の子がいた。
遊ぶでもなく、ただ立っている姿は、誰かに見つけてもらいたがっている、誰かを待っているように見えた。
集まって遊んでいた子供たちのうちの、一人が声をかける。
「ねー、一緒にあそぼ?」
だが、女の子の答えは、つれない。
「いい、ユゥちゃんカレシいるから。」
どうみても一人、仲間に入れないように見えるだけの彼女に、優しい男の子はさらに声をかける。
「じゃーカレシ来るまで一緒にあそぼ?」
自分のことをユゥちゃんと呼んだ女の子は、少し考えてから、言った。
「ちょっとだけなら、
いーよ?」
よく晴れた空の下、公園の遊具を中心にして、小鳥のさえずりのように、はしゃいだ高い声がいくつも重なり合う。
やがて、日は傾き、その色を変え始めた。
じゃあ、帰る、と一人が言うと、あたしも、ぼくも、とみんなが解散する雰囲気になる。
「ユゥちゃんも、かーえろ。」
女の子がそう言うと、最初に声をかけてきた男の子が、思い出したように話し始める。
「あー、ぼく、コワい話、思い出した。」
まだ本題には入っていないのにこれだけで他の子供たちはキャーキャーと悲鳴をあげ始めた。
「この公園、夜になるとオバケでるんだってー!」
キ ャ − − − !!!
耳に突き刺さる悲鳴をあげ、みんな散り散りに走っていく。
残ったのはユゥちゃんと、話をした本人、それからもう一人、女の子。
「まだ夜じゃないからセーフなのにー。」
オバケの話をした男の子は、一気に人数が減って寂しそうにしていたが、気を取り直すと、残った女の子二人に向かって言った。
「コワかったら送ってあげる!手ぇつないでかえろ?」
女の子たちは、安心して彼の手をとる。
男の子の将来はナンパ師かもしれない・・・。
そんな彼らの遊んでいた公園も、段々と暗くなり、薄闇につつまれようとしていた。
その一角に造られた”みんなの森”は、そこからさらに濃い闇をはきだしているかのように、まわりよりもいっそう暗く、木々がその影を落としていた。
重なる影が生み出す闇にまぎれて立っていた、主を持たぬ影に、子供たちは気づかなかった。
その影が、遊ぶ子供たちを見ていたことに。
◆
深夜。
町は静まり返り、時折、風向きの加減か、少し離れた大きな道路を通る車の音が聞こえてくるくらいだ。
ぽつんぽつんと間隔をあけて立つ街燈が照らすだけの、薄暗い道を、男が歩いている。
ほろ酔い加減のその男は、自宅へと帰る途中だった。
歩いたせいか、酔いが回ってきた気がして、ふぅ、とタメイキをつき、立ち止まる。
体がほてってダルく、どこかで休んでいきたい気がした。
タイミングよく、ちょうど公園の前にさしかかっている。
ここでいいか。
公園の少し奥、ベンチに腰掛けるといくらか体がラクになった。
それにしてもいい酒だった、と、彼は楽しかった今日の出来事を思い出す。
知らず、にやにやと表情に出してしまっていた。
「楽しそうだね。」
子供の声がした。
「ぅわっ!」
ベンチの空いたスペース、自分の隣に青白い顔をした子供が座って、自分をのぞきこんでいる。
黒い服は、夜の景色の中では保護色のように周りに溶けてしまい、まるで生首に話しかけられたように思えた。
その生首のような顔がぼんやり光って見えるのは、肌の異様な白さのせいか。
けれど、目が光っているのは、
「なんだ・・・
お前、あっちいけ!」
人間じゃない!
「どうしたの?
おじさん・・・笑ってよ。
楽しいんでしょ?」
ぐっと顔を近づける子供に、男は恐ろしさから動くことはもちろん目をそらすこともできない。
「・・・ふふ。
いいよ、
怖がるキモチはオイシイ。
もっと、もっとちょうだい。」
言っている意味がわからない。
光る瞳から目をそらすことも、まぶたを閉じることもできない。
紫色の、光、ひかり、ヒカリが頭の中を焼きつくす・・・。
うわぁああああっ
(続)