続き 6
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ただの幸せカップルじゃないか、もう!
レイアが悪魔に顔を近づけたあたりで見ていられなくなったラファエルは一人、心の中でぶつぶつと文句を言いながら帰っていく。
あの“悪魔”と呼ばれていた男が本当に悪魔なのだとは思えないし、何者であるにしても、彼女になにかしそうには見えなかった。
それに、裕福な家庭に育ったわけでもない彼女を口説き落としたところで、その心以外に奪えるようなものなどない。
彼にくちづけようとしたレイアの、今まで見たことのないような女性らしい表情。
くやしいけど、見守るしかないかな。
ひっそりとレイアに想いを寄せていた彼はそう思った。
幸せそうな、彼女の笑顔。
大好きなきみの笑顔。
僕の想いは叶わなくても、きみの笑顔だけは守りたい。
だから今は、まず二人でいられる時間を守ってあげないと。
彼は、村へ戻ると、レイアの友人に、彼は悪魔ではない、と告げた。
彼女を勇気付けるように微笑んで。
けれど、本当に大切だったから。
見過ごすことなどできなかった。
友人は、レイアのいないあいだに、こっそりと彼女の家族に会いに行った。
「レイアは、森の悪魔に魅入られてるんです、本当なんです!」
家族も最初は信じず、笑って彼女を帰した。
心配してくれるのはありがたいけれど、めったなことを言うものじゃない、と。
けれどある日、レイアの兄が一人で森へ入っていく妹を見てしまった。
何の用もないはずの森へ、一人で入っていく妹。
「レイア!どこへ行くんだ?」
「おにいちゃん!」
森へ入るのを止めようとする兄に、レイアは悪魔が自分を救ったこと、母の病気を治してくれたことを懸命に訴えた。
けれど、兄にとって、彼女の家族とにって悪魔は悪魔でしかなかった。
結局、無理やり家に連れ戻され、一人でいることは許してもらえなくなった。
いつも家族か、友人がそばにいて彼女を見張った。
「ごめんね、レイア、ごめんね。」
外で仕事をしているとき、彼女を見張る友人はそう言って謝ったが、レイアは力なく笑うだけで答えなかった。
明るく快活だった彼女は、ほとんどしゃべらなくなり、その笑顔は失われていった。
そんな彼女の様子に、家族や友人は心を痛めたが、それでも悪魔などにレイアを渡すよりはましだと考えていた。
友人の中には、あのラファエルも当然含まれており、彼だけが皆と違うことを思っていた。
“悪魔”といたときの彼女、今の彼女。
生き生きとしていたのは、どちらか。
本来の彼女の姿は。
彼には、どうすべきかがわかっていた。
それでも、いつでも見張られているレイアを、ラファエルはどうしてやることもできなかった。
会いに行かせれば、彼女はもう戻らないかもしれない。
それは、家族にとっては彼女の死を意味する。
二度と会えない、というのは彼にとっても辛すぎて、その手伝いをする決心はどうしてもつかなかった。
彼女の笑顔を守ると決めたのに、そうすることがどうしてもできなかった。
もしもこれが彼の罪となるならば、それはあまりに厳しい。
けれど運命はそう告げ、彼を責め立てた。
(続)